がんのチーム医療・施設訪問11
東京慈恵会医科大学附属第三病院(東京都狛江市)

チーム一団となって患者さんの栄養状態改善に対処

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年5月
更新:2016年9月

  

後手に回らないよう 積極的に対応できる体制づくりを目指したい
平本 淳さん 東京慈恵会医科大学附属第三病院総合診療部部長

知識を出し合い、栄養改善に向けた支援行う

本院では、2008年9月に栄養サポートチーム(NST)が結成・設置されました。結成時から、総合診療医である私が責任者を務めています。

現在NST回診を担当するスタッフ数は、医師4、歯科医師1、看護師1、薬剤師4、管理栄養士3、臨床検査技師4、歯科衛生士1の計18人です。

全ての疾病に共通する基本治療である「栄養管理」の普及に努め、入院患者さんの栄養状態の回復、疾患の治療がより効果を上げる様に各診療科の支援をするため、それぞれの専門分野での知識を出し合い、栄養改善に向けた支援を行っています。

栄養サポートの重要性を若いスタッフに伝えたい

本院に来院される患者さんには高齢者の方が多く、複数の疾患を持たれているケースが多く見られます。このためこれらを全体的に把握できる総合診療部にいる私にNST管理の役割が回ってきたと考えています。

患者さんの病気を治す手段として、手術や薬を用いますが、忘れてならないのは患者さんの栄養状態をしっかりと管理することが重要であるということです。私の経験からですが、医学部で栄養学という講座はありますが、臨床栄養学の講座をもつ大学は極めて少ない。このため、卒業後も患者さんに元気で自宅に帰っていただくためにどうすればよいか、その知識を持っている医師が少ないのが現状です。

私の場合は、臨床経験を積んでいくに従い、栄養サポートを実践して元気になって退院していただくことの大切さに気づくようになりました。栄養サポートの重要性を若いスタッフに伝えたいと考えています。

専門スタッフの増員と後継者の育成が課題に

現在のシステムでは、基本的には主治医からの依頼を受けて対応する形となっていますが、もう少し踏み込むためには、電子カルテで拾い上げ、後手に回らないようにこちらから積極的に対応できる体制をとる必要があると考えています。患者さんが1度がたんと崩れられると立て直すのが非常に難しくなります。

また現状では患者さん1人あたり10分ほどかけて回診していますが、依頼される患者さんが30人にもなると破綻を来たします。教育研修などにより専門栄養士や栄養に詳しい看護師さんを増やすことが課題です。あとは後継者を育てることです。担当者がいなくなっても次のスタッフがカバーできる体制作りが必要であると考えています。

地域医療の中核を担う総合大学病院

東京慈恵会医科大学附属第三病院外観

東京都の市で最も小さく、全国でも(埼玉県蕨市に次いで)2番目に小さい市である狛江市。市の南西~南部を多摩川が逆S字型のカーブを描きながらゆっくりと流れる。都区内への通勤率は約48%と高く、典型的なベッドタウンである。しかし地元に住む高齢者も多く、それら高齢者の医療の担い手となっているのが、東京慈恵会医科大学附属第三病院だ。地域医療の中核を担う総合大学病院として、多彩な診療部門を備えている。

週1回のスタッフミーティングで情報を共有

今回紹介するのは、同院の診療支援部門に属する栄養サポートチーム(NST)。医師、歯科医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、歯科衛生士、言語聴覚士、臨床工学技士、事務員より構成されたNSTメンバーを中心にNST活動を展開している。

毎週水曜の午後、スタッフミーティングが開かれ、1週間の間に主治医から依頼のあったNST回診の内容が確認される。取材日には、同時に毎月1回開催されるNST勉強会の9月までの前期の内容の確認も行われていた。

毎回平均12件前後の回診依頼があるとのことだが、当日は回診依頼があったのは7件。総合病院のため、各科から依頼がくるが今回がん患者さんに関連するのはそのうちの4件だった。事前に各スタッフが担当する項目にデータが記入された一覧表が配布され、全体的な確認を行う。

「各スタッフが、自身の担当以外の項目内容を十分に頭に入れて患者さんの対応に当たります」とNST専従管理栄養士の種村陽子さん。

30分ほどでミーティングを終え、回診に出かける。

毎週水曜午後、スタッフミーティングが開かれる

各病棟で念入りに情報把握と対策を検討

病室をNSTが回診

回診は、NSTの責任者である総合診療部部長の平本淳さんほか、同科の医師2名、専任看護師の石川幹子さん、種村さん、薬剤師、臨床検査技師、それに実習生2名でスタート。途中から歯科医師・歯科衛生士、外科医が加わった。

まず本館9階へ上がり、ナースステーションで種村さんが対象となる患者さんの詳細なデータをモニターで紹介しながら、スタッフが意見を出し合う。同階は内科領域関連の病棟となっている。病棟担当の看護師さんからさらに患者さんの現況を聞きながら、対応の仕方を全員で共有する。いよいよ各病室を訪問し、回診が始まる。平本さんらが柔らかな口調で症状を確認し、どうすればよいかを話しかける。種村さんが食事の摂取状況を聞く。1件あたり10分くらいをかけて、順番に病室を訪問していく。

こうして実際に患者さんに接して得られた情報を、再度ナースステーションに持ち帰り、対策を検討、NSTでまとめた対処案を主治医に投げ返す(回答)する。

次に7階に下りる。この階は整形外科、脳神経外科などの入院病棟。NST担当の歯科医師が、患者さんの口腔内チェックを行う。さらに5階に下りナースステーションへ。この階は形成外科や婦人科関連の患者さんの病室がある。モニターで患者さんの褥瘡写真をみながらNST担当の外科医が指示を出す。

今回、回診を受けたがん患者さんの1人で、子宮頸がん手術を受けた65歳の女性は、食事量が少なく食べようとしないということで、主治医からNSTの回診依頼を受けていた。入れ歯の調整の必要性も検討されたが、回診時には食事状況も正常に戻って、栄養状態にも問題がないため、このまま様子を観察しようということになった。

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