わたしの町の在宅クリニック 8 わたクリニック

痛みを我慢しないで!在宅でも質の高い緩和ケアを実施

取材・文●常蔭純一
発行:2014年12月
更新:2020年1月

  

わたクリニックの首藤真理子さん
わたクリニック
 
〒125-0052 東京都葛飾区柴又1-2-1 ARB1F
TEL:03-5648-7025 FAX:03-5648-7035
URL:www002.upp.so-net.ne.jp/gf7jwata/
 


「家だと自分が主体。皆さん、患者であることから解放されるんです」――こう話すのは、病院の緩和ケア病棟の立ち上げにも携わったことのある、わたクリニック(東京都葛飾区)の首藤真理子さん。たとえ在宅でも痛みは必ず和らげることができる――。わたクリニックでは、質の高い緩和ケアが施されている。

在宅医療が日本の近未来の医療に思えた

毎週火・木と、連携している看護ステーションや薬局と一緒に行っているカンファレンス。首藤さんは質の高い緩和ケアを少しでも広げるため看護師さんたちなどを対象にミニレクチャーを行っている

「初めて在宅医療に取り組んだとき、これが日本の近未来の医療と直感したのです」

こう語るのは、東京都葛飾区に本拠を置く、わたクリニックの緩和医療専門医、首藤真理子さんだ。首藤さんが在宅医療の重要性に気づいたのは、国立がん研究センター中央病院の緩和ケア研修で、茨城県のある診療所に派遣されたときのことだった。

「高齢の患者さんの多くは通院もままならない状況だったのですが、その地域は医療資源が乏しく、何かあれば遠方の病院を利用しなければなりませんでした」

例えば車イスに乗るのもやっとな患者さんが、熱が出たからといってわざわざ介護タクシーを呼んで病院に行って点滴をしてもらわないといけない状況――これは患者さんにとって非常に負担が大きい。

もし、在宅で抗生物質を打つなど適切な処置ができれば、患者さんにとってこれほど楽なことはない。老々介護の増加など、高齢化社会が進む中、そこに首藤さんは日本の近未来の医療の姿を見たのだ。

こうして首藤さんは2008年からわたクリニックで本格的に在宅医療に取り組み始める。現在、わたクリニックの活動範囲は、葛飾区、足立区、江戸川区、墨田区の一部地域など。実はがんに関しては、この地域も医療過疎の状態にあるという。

「がん診療拠点病院がなく、緩和ケア病棟も最近1つできたところです。それだけに在宅クリニックの役割は重要です」

痛みは必ず和らげることができる

わたクリニックの昨年(2013年)のがん患者の看取り数は約270人。現在、クリニックが引き受けている患者数は、がんでない方も含め450人。院長の渡邊淳子さんをはじめ常勤医は6人で、その中で首藤さんは、状態が厳しい患者さん30数人を担当している。

「まず大切なのは痛みなどの症状をコントロールすること。在宅でも疼痛をコントロールできるPCA法を取り入れることで、痛みは必ず今の状態より和らげることができます」

PCA法というのは、痛みの状況に応じて自分でモルヒネを投与できる鎮痛方法。患者さんの皮膚にモルヒネをチューブでつないだ針を留置し、痛みが出たら連動している器械のボタンを押すことでモルヒネが投与され、〝今ある痛み〟をすぐに取り除くことができる。さらに痛みが激しい場合には、痛みを感じる脊髄神経のくも膜下に、カテーテルを通じてモルヒネを注入する手法がとられる場合もある。この「くも膜下ポート」を在宅医療で導入できるクリニックはそうそうない。それほど、高度な緩和ケアが施されているのだ。

「伝える」ことの大切さ

「本人の生きた証が残るのが在宅だと思います」と首藤さん。今は1日8件ほど、患者さん宅を訪問する

「在宅ケアにマニュアルはありません。自宅での看取りについても、途中で考えが変わってもいいと思っています。大切なのは患者さんとご家族、双方が納得できる臨機応変のケアを実践することです」

そのために首藤さんは患者さんや家族と徹底して話し合う。そしてその際に重視しているのが「伝える」ということだ。

「よく医師は『言った』と話すのに、患者さんは『聞いていない』と答えることがあります。これは恐らく医師も患者さんに話はしているのだけれども、きちんとその内容が伝わっていないから、そういうことが起きると思うんです」

そういった状況を避けるため、首藤さんは必ずA4のコピー用紙を持ち歩き、必要なときは図や文字にして、後で患者さんや家族が確認できるように渡している。また時にはひと呼吸おいて改めて話すなど、話の内容がきちんと伝わることを意識しながら診察を進めている。

2025年、いわゆる団塊の世代が75歳以上になったときには、老老介護や高齢者の独居も増大しており、ますます在宅が看取りの場になっていくことが予想される。

「質の高い緩和ケアが普及すると在宅を選びやすくなります。選択肢を増やす意味でも、在宅緩和ケアを広めていかないといけないと思っています」

痛みは必ず和らげることができる――病院並みの質の高い緩和ケアを求める患者さんのために、わたクリニックは今日も訪問診療を行っている。

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