わたしの町の在宅クリニック 9 新田クリニック(大阪府南河内郡)
痛みだけでなく、がん治療の総合的な知識を持って対応
新田 隆さん
一般の在宅医療も行いつつ、がん末期の患者さんの在宅緩和ケアをメインとする新田クリニック(大阪府南河内郡)。院長の新田隆さんは、肺がんを専門としており、がんの痛みだけでなく、薬物治療やそれに伴う副作用への対処法など、がん治療について総合的な知識を併せ持ち、在宅医療に取り組んでいる。
痛みだけでなく がん治療の知識を持って対応
新田クリニックに紹介されてくる患者さんは、新田さんが専門とする肺がんが7割を占める。紹介元が近畿大学病院(大阪狭山市)と大阪南医療センター(河内長野市)など、大阪府南部の広範な地域から患者さんが集まる大病院であることが多いため、かなり遠方まで往診する。
実は新田さんは大阪南医療センター呼吸器科の非常勤医でもある。週1回外来を担当するため、クリニックの診療は代替になるが、患者さんにとってメリットになると新田さんは話す。
「通院が難しくなってきたときに私が往診するからとお話しすると、患者さんは安心して在宅医療に移行できるように思います。そのために外来受診時からコミュニケーションをとっておくことが大切です」
患者さんとご家族にいかに安心してもらうか。新田さんが重視するのはこの点である。例えば「*イレッサは使えないのですか?」といった質問があったとする。「藁をもつかむ思いで自分の適応になるかを聞いてこられるのですが、そこで的確な答えを示せなければ不安を与えてしまいます。患者さんやご家族が安心できるよう答えられるかどうかは非常に重要です」
だから、「緩和ケアに携わる医師は単に痛みを和らげたらいいというのではなく、化学療法や分子標的薬治療、またそれに伴う副作用や対処法などがん治療について総合的な知識が必要です」と新田さんは強調する。
肺がんの臨床経験豊富な新田さんだが、週1回近畿大学病院での症例検討会に欠かさず出席しており、そこで吸収した最新の知見を患者さんに還元したいと考えている。
*イレッサ=一般名ゲフィチ二ブ
スタッフとの密な連携で 患者さんの状況を把握
がんの在宅医療には看護師によるケアとコミュニケーション、また看護師と医師との密な連携が不可欠だ。開業当初、訪問看護ステーションを利用したところ、やはり意思疎通が難しく、カルテも別で不便さを感じた。それ以来、新田クリニックでは10~15人の患者さんの訪問を、すべてクリニックの看護師3人で担うようになった。
「看護師と私で言っていることにずれが生じないよう、毎日訪問に出かけるときに必ず申し送りをして、訪問先で違う状況があれば看護師は即電話をかけてきます。そこで指示を出し、患者さんとご家族の目の前で解決することで安心してもらえます」
看護師は1回の訪問におよそ1時間かけて、単に痛みやバイタルチェックだけではなく、患者さんとご家族の話に耳を傾ける。医療費の問題など新田さんには言わないことが話題になっていたり、往診時に痛みはないと言った患者さんが看護師には激痛を訴えていたりすることもある。
その様子はカルテに事細かに書き込まれ、関係スタッフ皆が見られるようにして情報を共有する。そうすることで患者さんの状況が手に取るようにわかり、夜中の緊急入院などにならないよう、昼間のうちに対応することが可能になったという。
看取りを押し付けて 家族に苦痛を与えない
2007年に開院してから8年で100人ほどを看取った。年間12~13人で、看取り率にすれば3割程度になる。
「在宅導入時には9割位の家族の方が家での看取りを希望されるが、実際には3割程度。最期が近づくとご家族の不安が軽減するよう看護師が頻回に訪問するのですが、土壇場になってやはり入院させたいと気持ちが変わられる家族も結構おられます」
開業当初は、在宅を望む患者さんの思いを貫こうと、家族に無理を言って頑張ってもらった。すると、患者さんが亡くなった後、「しんどかった。本当は入院して欲しかった……」という言葉が家族の口から出てくるのだ。
「一体自分たちは何をしてきたのだろうと思いました。看取りは押し付けると家族がものすごく苦痛だということを目の当たりにしたので、ご本人やご家族もしんどくて、在宅はやはり難しいということであれば無理に引き留めません。看取りは決して押し付けるものではないのです」
様々なサポートで不安を取り除く在宅緩和ケアがどこまでできるのか、新田さんの取り組みは続く。