患者の最高のサポーター・家族はどこまで支えられるか
濃密な時間を共有するために必要なこと

監修:和田忠志 医療法人財団健愛会あおぞら診療所新松戸理事長
取材・文:常蔭純一
発行:2005年9月
更新:2013年4月

  
和田忠志さん
医療法人財団健愛会
あおぞら診療所新松戸理事長の
和田忠志さん

わだ ただし
1990東京医科歯科大学医学部卒業。
同5月より特定医療法人財団健和会みさと健和病院臨床研修医、92年4月より東京都立広尾病院神経科などを経て、99年6月にあおぞら診療所を設立。
理事長に就任。現在に至る。在宅医療に関する論文、著書多数。

大切なのは患者の思いを聴き取ること

「突然、容態が急変することもあるのではないか」

「生活面のサポートの仕方が分からない」

「死に直面している患者にどう接すればいいのだろうか」

介護を始めようとする家族の不安は尽きない――患者の人生最期のひとときをともに過ごしたいと願いながらも、現実問題として在宅介護を考えると、どうしてもさまざまな不安が頭をもたげてくる。実際のところはどうなのだろう。自宅で介護する場合、家族は患者をどのようにサポートすればいいのだろうか。

「最初から腹を据えているご家族の方もありますが、多くの方は介護を行うことに不安を持っているものです。まずはご家族に在宅介護を体験してみることをお勧めします。『案ずるより生むが易し』という言葉もあります。実体験で「これは何とか行けそうだ」という実感を持っていただくまでは、不安が解消されることは簡単ではありません。しかし、実際に始めてみると、1、2カ月もすると、介護が生活の1部として定着していることも多いものです。そこまでくると、患者さんとのさりげないやりとりの中にご家族の自信が感じられることもあります。

だから私は在宅介護に不安を持っているご家族には、最期まで看るかどうかをあえて決めることなく、とりあえず始めてみませんか、とお話しします」

こう語るのは、千葉県松戸市で在宅医療に取り組んでいる和田忠志さんである。

最近では徐々にではあるが、がん患者に限らず、通院が困難な患者を対象に、24時間態勢の在宅医療に取り組む医療機関が増加している。あおぞら診療所もその1つ。

1999年に「患者さんの生活にまで責任を持ちたい」と、志を同じくする3人の若手医師によって発足されている。それから6年あまり。現在までの在宅診療件数は700件を優に上回り、そのおよそ4分の1が末期がん患者で占められている。

こうした医療機関の助けを借りれば、自宅での家族ケアも思っているほど難しくはなさそうだ。では、その在宅ケアで家族は患者とどう向き合えばいいのだろうか。和田さんは、

「患者さんと対話を積み重ねながら患者さんの思いを聴きとり、患者さんの最期の時間をご本人の希望が最大限生きるようにしていくお手伝いができればと考えます」という。

では、そのためのサポートとして、家族は何をどう考えていけばいいのだろうか。

患者はいつでも家族の1員 さりげない毎日こそ大事

写真:24時間態勢で在宅医療に取り組むあおぞら診療所
24時間態勢で在宅医療に取り組むあおぞら診療所

まず、在宅医療を実施している医療機関を利用した場合の診療態勢からみておこう。

「医師の訪問回数は病状によってさまざまです。私どもはがん末期の方には少なくとも週1回は診療させて頂きますが、病状が重篤なら訪問頻度を高めます。終末期になると毎日訪問することもあります。容態変化に対応するために、24時間の電話相談に応じ、必要に応じて、医師や看護師が訪問する態勢も整えています」と和田さんは言う。

自宅での診療内容は体温、血圧などのチェックやモルヒネ等を用いた疼痛緩和、さらに食事が困難な患者に、必要に応じてではあるが、点滴なども行うこともある。酸素濃縮器を用いて、自宅で酸素吸入を行うこともできる。また、膀胱留置カテーテルや、経管栄養、場合によっては人工呼吸器の利用も自宅で可能である。

そうしたケアの中で家族の存在はどのように位置づけられるのだろう。たとえば咽喉がんや肺がんの末期の場合に必要な痰の吸引など、1部の例外を除けば、家族の役割は外出の補助や食事の手助けなど、生活面のサポートが中心になる。

介護の手順は体験を通じて学び取っていくのが基本

和田さんは言う。「ご家族としては、家族の1員として普通に患者さんに接して頂ければよいのではないかと思います」

すなわち、まったく自然なサポートなのだ。とはいえ、介護を続けていく中では、発熱や吐き気、さらには疼痛など、突然の容態変化が起こることもある。そんな場合には家族はどう対応すればいいのだろうか。

「診療の中で、医師はさまざまな容態変化を予測し、ご家族にご助言を行います。また、ご家族が心配される様々な容態変化に対しても、あらかじめ対応法をご説明したり、必要に応じて、鎮痛剤や解熱剤などの薬剤を、あらかじめ処方します。しかし、私どもの予測外のことも起こりますし、手持ちの薬物では対応しきれない病状変化もありえます。あるいは、医学的には重篤でなくても、ご家族としては非常に不安に思ってご連絡を下さる場合もあります。
私たちは24時間電話相談に応じます。多くは電話対応で乗り切ることができるのですが、必要に応じて、医師か看護師が訪問して対応します」

症状が進むと、入浴や排便など、それまでは何ということのなかった生活の中の営みをこなしていくことが、徐々に困難になっていくことも少なくない。家族にとっては、そうした患者の変化を見るのはつらいものだ。それだけに自分が手助けしなくては、と考えがちだ。

「患者さんの体力が低下してきたとき、様々な介助が必要になりますが、経済力が許すなら、訪問看護師やヘルパーさんなど家族以外のスタッフの手をも借りるほうが、どちらかというと、よいと考えます。ご家族が、“すべてをやらなくては”という意識を強く持つことはないのです。とくに、患者さんの入浴介助など、ふだん慣れない作業ですから、腰などを痛めてしまうご家族も時にはいらっしゃいます。自己流で行うより、プロと共に行って覚えるほうが効率的です。
とりわけ、入浴や排便介助などをご家族にしてもらうことに抵抗を感じる患者さんも、ヘルパーさんなら気兼ねが少ないこともしばしばあります」

無理をせず自然に接すること。それが在宅ケアでの家族のサポートの基本スタンスといえそうだ。

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