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樹状細胞ワクチン 進む症例研究で有効性が明らかに

注目の樹状細胞ワクチン療法 カギを握るのは「WT1」

監修●米満吉和 九州大学薬学研究院革新的バイオ医薬創成学教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2013年10月
更新:2014年1月

  

日本では、がん免疫療法の多くは、保険の効かない自由診療として行われている。そのような状況の中、樹状細胞ワクチン療法で、医薬品としての承認を目指した取り組みが始まった。これまで集積してきた膨大な治療データを解析することで、新たな事実が明らかになっている。


樹状細胞ワクチンの研究に取り組む米満吉和さん

「日本の認識は遅れている」がんの免疫療法

免疫を利用したがん治療の発想は古くからあり、最近の免疫学の進歩に伴って再び注目されてきているが、一方で否定的な評価があるのも事実だ。九州大学教授の米満吉和さんは、免疫の力を利用したがん治療技術が正当な評価を受けていない日本の現状は、世界の常識からかけ離れていると指摘する。

「欧米では、免疫を活用したがん治療薬をつくるという考えはすでにスタンダード(標準的)です。免疫という言葉を聞いただけでマイナスの見方をするのは、日本だけです」

2011年、CTLA-4という分子を中和することでがんに対する免疫を高める抗体医薬品イピリムマブipilimumab(適応:悪性黒色腫)が欧米で承認され話題になった。

また自己細胞を使った治療用がんワクチン・プロベンジprovenge(適応:前立腺がん)も医薬品として医療現場に加わっている。

日本では合成が比較的簡単なペプチドワクチンの治験はいくつか進んでいるが、免疫細胞を用いた治療は、保険の効かない自由診療で行われているため患者さんへの経済的負担が大きい。

米満さんは大学で長年研究に携わり、免疫を使ったがん治療は、正しい使い方さえすれば有効性が証明できるはずだ、と確信してきた。また「いずれは多くの人々に、安価で受けていただけるようにしなければ」と思い続けてきた。

そして、2013年の春から「樹状細胞ワクチン」の医薬品化を目指して、治験への準備が動き始めた。医薬品として公的保険が適用されれば、多くの人が治療を受けやすくなることは間違いない。

将来に向けて期待されるがんワクチン

「がんの免疫療法」にはいろいろな種類があるが、大きく2つに分けられる。

1つは、がんと直接戦う細胞を使う治療法(養子免疫療法)で、活性化リンパ球やNK(ナチュラルキラー)細胞などを利用する。

「免疫細胞を体外で培養し、患者さんの体に戻す治療法ですが、弱点は作用する期間がさほど長くない点です。がんを減らす効果は期待できるかもしれませんが、持続性がない。米国での臨床試験では、活性化リンパ球は単独では効果が認められませんでした。一方、NK細胞の活性化培養については技術的に難しく、世界的にも数件の初期臨床試験報告があるだけで、安全かどうかが調べられている段階なのです」

もう1つは、がんワクチン療法。「がんワクチンは、効果が長く持続するのが特徴。さらにがんを再発しにくくする効果も期待されており、手術・抗がん薬・放射線治療にはない作用が期待できることから、『第4の治療』となり得るのは、こちらだと私は考えています」

樹状細胞の働きをさらに確実にする治療法

細胞培養施設での作業

一般的ながんワクチンは、がんの目印となる「がん抗原」を患者さんに注射し、あとは体内における免疫の働きに“期待する”治療法である。

ワクチンが注射されると、体内では免疫システムの司令塔として働く「樹状細胞」が、がん抗原を食べて自らの表面に攻撃対象の目印を提示する。その指導を受けたリンパ球は、目印を持つ攻撃対象(がん細胞)を攻撃する。

しかし、いつもこのようにうまくいくとは限らない。

「とくに進行がんの場合、がんが出す様々な物質によって、免疫細胞の働きが低下しています。せっかくがん抗原を接種しても、それを提示する樹状細胞の働きも低下して、本来の役割を果たせない場合が多いのです」

これらの課題をクリアするために試みられているのが、「樹状細胞ワクチン」だ。

樹状細胞の元となる細胞を血液中から取り出し、体外で人工的に樹状細胞へと成長させ、さらにがん抗原を覚えさせる。こうして免疫の司令塔として確実に働くようにした「樹状細胞ワクチン」を患者さんに投与して、体内でも確実にがんに対する免疫反応を起こさせる仕組みだ。

「最近、欧米で実施された複数の臨床試験で、がんワクチンを投与された患者さんのほうが短命になる場合があることが明らかになりました。がんワクチンが、逆に命を縮める可能性があるということです。原因は不明ですが、有力な仮説は、大量のがん抗原が、逆に患者さんのがんに対する免疫反応を減弱させたのではないか、というものです。これは専門的には、免疫寛容(トレランス)と言います。私たちが複雑な樹状細胞の加工にこだわって研究しているのは、体外で培養し加工することで、体内でも確実にワクチン効果を誘導できるためです。樹状細胞ワクチンはこの目的を達成できる唯一の方法と言ってよく、個々の患者さんごとに細胞加工が必要でありコストも掛かりますが、有効性の観点からは合理的な方法と言えるでしょう」

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