知っておきたい免疫の基礎知識
風邪をひくと「それは免疫が落ちているからだよ」、「もっと栄養のあるもの食べて免疫力をアップしなきゃ」などとよく言います。
ことほどさように今や、免疫という言葉は、誰もが知っています。しかし、この免疫ほど誤解され間違って使われているものもないのです。
実は、免疫というのは、そう単純なものではありません。非常に複雑怪奇でさまざまなものが錯綜し、微妙なバランスの上に成り立っている体のシステムなのです。ことにがんに対する免疫については、「免疫を上げる」ことと「がんの免疫を上げる」こととの間には大きな隔たりがあり、単に免疫を上げればすむ話ではありません。加えて、がんの免疫については、まだはっきりとは解明されていない部分も多く、どうすればがんを免疫で制御できるのか、まだ回答を見出せていないというのが現状です。
したがって、がんの免疫療法を利用するには、その前に、免疫について、またがんの免疫についての基本と現状をよく知って理解しておく必要があります。
免疫とは? がん免疫とは?
がんの免疫療法は、簡単に言えば、もともと私たちの体に備わっている「免疫」の働きを、がんの治療に利用するものです。日本の医療現場に登場し始めたのは1970年代。もう30年ほどにもなります。それなのに、いまだに正規の治療法として確立していないのは、免疫療法自体が変貌を遂げてきたからです。ここへ来て注目されているのは、分子生物学などの発展に伴って新しい免疫療法が開発されたり、臨床試験が行われだしているからです。
免疫とは何か。「私たちの体を守る生体防御のシステム」。そうよく言われます。が、実はこれは間違いです。
正しくは、自己とそうではないもの、異物(専門的に、非自己という)を識別し、異物を排除するシステムのことです。その結果、生体を守ることになるので、免疫が生体防御システムというのは結果論なのです。
外敵、例えば細菌やウイルスなどが体内に侵入してきたときは、このシステムは直ちに作動します。そして細菌やウイルスを排除します。ところが、がんの場合は、細菌やウイルスのようなわけにはいきません。がん細胞は、もともと私たちの体の中の正常な細胞から誕生し、自己であるのかないのかがはっきりしないところがあるからです。がんが異物であることがはっきりわかれば、免疫システムは作動します。
では、がんが異物であるかどうかは何で判断するかというと、それは「がん抗原」というものです。これはがん細胞の表面に出ているタンパクの断片(ペプチド)ですが、いわば家の門に掲げる表札のようなものです。この表札を見つけると、免疫細胞は「こいつは悪人だ」と判断して退治しにかかるというわけです。
しかし、以前の免疫療法は、こういうことがわかっていませんでした。わかっていなくて、ただ闇雲に免疫を高めさえすればいいと考えて開発された療法です。それは闇夜に向かって鉄砲を撃つようなものです。非常に効率が悪いわけです。専門的に「非特異的な免疫療法」と呼ばれる免疫療法がこれです。
自然免疫と獲得免疫の違い
免疫細胞とは、「白血球」と呼ばれる細胞を指します。白血球は、赤血球と違って色がないので、まとめてそう呼ばれていますが、白血球にはたくさんの種類があり、それぞれ異なった働きをしています。
白血球も赤血球も、元は骨髄の1つの細胞(造血幹細胞)からできたものです。ところが、白血球はそのまま骨髄に残って成熟するものと、骨髄から出て心臓の上にある胸腺と呼ばれる臓器へ行って成熟するものに分かれます。前者を骨髄(Bone marrow)の頭文字をとってB細胞、後者を胸腺(Thymus)の頭文字をとってT細胞と呼んでいます。このB細胞とT細胞を合わせたものが免疫細胞というわけです。
免疫細胞にもたくさんの種類があります。これを働き方から大きく2つに分けられています。自然免疫と獲得免疫です。
自然免疫には、マクロファージ、樹状細胞、好中球、NK(ナチュラルキラー)細胞があります。
獲得免疫には、先ほどのB細胞とT細胞ですが、T細胞は、さらにヘルパーT細胞、キラーT細胞、サプレッサーT細胞、レギュラトリーT細胞に分かれます。
そしてこの両方の性質を持っているものとしてNKT細胞というものもあります。
自然免疫は、生まれながらに自然に備わっている免疫という意味からそう呼ばれますが、簡単に言えば、記憶を持たない細胞です。これに対して、獲得免疫は記憶を持つ細胞です。
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