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膵がんなどの難治がんでも効果が……
WT1ペプチドを用いた樹状細胞ワクチン療法の最新成果
がん免疫療法の新たな幕開け! がん治療ワクチン最前線

監修:横川潔 医療法人社団医創会セレンクリニック神戸院長
取材・文:柄川昭彦
発行:2010年9月
更新:2013年4月

  
横川潔さん
セレンクリニック神戸院長の
横川潔さん

2010年5月、免疫療法に画期的な出来事が起こった。米国において、がんの治療用ワクチンが初めてFDA(米国食品医薬品局)により承認されたのだ。しかし、日本にはそれよりもさらに進んだワクチン療法、免疫細胞療法が行われている。それを紹介しよう。

免疫療法の新時代がいよいよ幕を開けた

がんの免疫療法は、手術、化学療法、放射線療法などの標準療法に続く第4の治療法といわれてきたが、なかなか社会的に認められてこなかった。ところが、2010年5月、画期的な出来事があった。アメリカのデンドレオン社が開発した前立腺がん治療用ワクチンのプロベンジ(一般名シプリューセル-T)を、FDA(米国食品医薬品局)が認可したのである。これは、FDAが自己細胞を用いた免疫療法を承認した最初の事例だった。

プロベンジについて、ごく簡単に説明しておこう。

患者から取り出した血液中の単核球(白血球の単球とリンパ球の総称)に、PAPという前立腺特異抗原などを加えてワクチンを作る。これを患者さんの体に戻すと、PAPという目印を持っている前立腺がんを攻撃する免疫細胞が誘導され、がんを攻撃し始めるというものである。

10年近くにわたって臨床試験が行われてきたが、第3相試験の対象となったのは、無症候性または症状の少ない前立腺がんで、ホルモン療法が効かなくなった人たちだった。プロベンジ群とプラセボ(偽薬)群に分けて比較試験を行った結果、プロベンジを投与することで、生存期間が4カ月以上延長することが明らかになった。この結果がとくに決め手となり、FDAの承認が得られたのである。

セレンクリニック神戸院長の横川潔さんは、プロベンジをこう評価する。

「がんに対する免疫細胞療法が承認された第1号ですから、突破口を開いたという点で、非常に大きな意味があると思います。画期的な出来事といっていいでしょう。ただ一般的に、FDAの承認を得るためには時間のかかる臨床試験が必要となるため、プロベンジも開発期間が非常に長くなりました。その間、免疫学の進歩には目覚ましいものがありましたから、現時点でプロベンジが最新最良の治療法かというと、必ずしもそうではありません。
また、開発期間が延びたことで開発費も莫大なものになり、それを回収する必要もあってか、プロベンジの価格は3回の投与で9万3000ドル(1ドル90円で837万円)という高額になってしまっています」

FDAの承認を得たのは画期的だったが、それに伴う負の面も少なくなかったというのが現実のようである。

[がん免疫療法の歴史]
図:がん免疫療法の歴史

樹状細胞を活用してがん細胞を狙い撃つ

開発に長い年月を要したプロベンジは、必ずしも現時点における最新最良の免疫療法ではないという。では、最新の治療法には、どのようなものがあるのだろうか。

横川さんがセレンクリニック神戸で行っている「樹状細胞ワクチン療法」は、バイオベンチャーのテラ株式会社が技術ノウハウを提供している治療法であり、最新治療法の1つである。

この治療法について理解を深めるためには、樹状細胞とは何か、というところから話を始める必要がある。

樹状細胞とは免疫細胞の一種で、枝のような突起を持つことからこの名前がつけられている。免疫における役割は“指揮官”で、“兵隊”であるリンパ球に敵の特徴を覚え込ませる働きをしている。

「免疫細胞を使った治療としては、活性化リンパ球療法が1970年代後半から行われています。採血して、その血液中のリンパ球を活性化し、増殖させてから患者さんの体に戻す治療法です。兵隊であるリンパ球を増やすことで、体にとっての異物を攻撃する力が高まるのですが、がんに対してこれだけではなかなか十分な効果は得られませんでした。そこで、90年代に入ってからは、特異的免疫療法の研究が進められ、そこで樹状細胞が登場するようになったのです」

[活性化リンパ球療法とは]
図:活性化リンパ球療法とは

樹状細胞は、成熟過程でがん組織を取り込むと、成熟したときに細胞の表面に抗原(がん細胞の目印)を提示するようになる。兵隊であるリンパ球は、指揮官の提示する敵の目印を覚え、全身をめぐりながら、その特徴を持つがん細胞だけを攻撃するようになる。これが獲得免疫である。そして、樹状細胞のこのような働きを利用した治療法を樹状細胞ワクチン療法という。樹状細胞ワクチン療法は、がん細胞だけを狙い撃ちにし、正常細胞を傷つけない体にやさしい治療なのだ。

テラが提供している樹状細胞ワクチン療法では、アフェレーシス(成分採血)という方法で患者さんから白血球の一種である単球を取り出し、それにサイトカイン(細胞から分泌される生理活性物質)を加えることで樹状細胞に分化させている。この樹状細胞にがんの目印を認識させ、それを患者さんの体に戻す。すると、指揮官である樹状細胞はリンパ球にがんの目印を覚え込ませ、目印を覚えたリンパ球は、体の中の敵を見つけ出して攻撃するのである。

[人工抗原樹状細胞ワクチン療法とは]
図:人工抗原樹状細胞ワクチン療法とは


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