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絶妙の組み合わせにより、進行膵がんが完全に消失した例も出た
大きな成果を上げてきた「WT1と樹状細胞の併用療法」

監修:岡本正人 セレンクリニック免疫相談、頭頸部・免疫療法外来、
武蔵野大学薬物療法学研究室客員教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2008年12月
更新:2019年7月

  
岡本正人さん
セレンクリニックの
岡本正人さん

がんの免疫療法の中で、がんに対してピンポイントで攻撃する有力な治療法として樹状細胞療法がある。
ところが、この治療法の難点は使える患者さんが少ないということ。この問題を解消したのがWT1というペプチドである。
WT1と樹状細胞を組み合わせた治療法が、今大きな成果を上げつつある。

適応する患者さんが少ない従来の樹状細胞療法

CTL(細胞障害性T細胞)ががん細胞を攻撃しているところ
CTL(細胞障害性T細胞)ががん細胞を攻撃しているところ

免疫療法にはいろいろな治療法があるが、その中で、唯一臨床面で成果を上げつつあるのが樹状細胞療法と呼ばれる治療法である。樹状細胞療法とは、どんな治療なのか説明しよう。

樹状細胞は、抗原提示細胞とも呼ばれ、免疫細胞の中で司令塔のような働きをしている。何をするのかというと、がん細胞を食べ、そのがん細胞が持つ抗原を自分の細胞の表面に提示するのだ。これが、「この抗原を持つがん細胞を攻撃せよ」というリンパ球に対する指令になっている。この指令に従って細胞傷害性T細胞(CTL)が誘導され、全身をめぐりながらターゲットのがん細胞を探し出し、攻撃していくのである。

セレンクリニックに樹状細胞療法を提供している岡本正人さんは、従来は、自分のがん組織(自己がん組織)を利用する方法と樹状細胞の局所注入という2つの方法で樹状細胞療法を行ってきた。自己がん組織を用いた樹状細胞療法は、手術などで切除した患者さん自身のがん組織を利用する方法だ。

写真:患者さんに樹状細胞を注入しているところ
患者さんに樹状細胞を注入しているところ

がん組織を溶解液(ライセート)にし、培養中の未熟な樹状細胞に食べさせる。それを成熟させ、抗原を提示させてから患者さんの体に戻す方法である。

局所注入は、培養した未熟な樹状細胞を局所に注入し、そこでがん細胞を食べさせる方法。樹状細胞ががん細胞を食べやすくなるように、ピンポイントで放射線を照射したり、低用量の抗がん剤治療を組み合わせたりすることもある。

「この2つの方法は、効果は上がっているのですが、適応になる患者さんが少ないという問題がありました。自己がん組織を行うにはがん組織を凍結保存しておく必要がありますが、そこまでしている患者さんはなかなかいないからです。局所注入は、乳がんや頭頸部がんのように、局所に注入しやすいがんもありますが、がんの部位によっては安全性が確保できませんでした」

そういった理由で、樹状細胞療法が適応とならない患者さんが多かったのだ。

WT1ペプチドを人工抗原として利用

樹状細胞療法には、人工抗原を利用する方法もあるが、岡本さんはこの方法を患者さんには勧めていなかった。なぜなら、その時点では、人工抗原を利用した方法では、あまり成果があがっていなかったからである。

「いい人工抗原さえあれば、ぜひやりたいと思っていました。そこにWT1が登場してきたのです。皮膚にペプチドを注射する方法でも効果が出ていると聞いて、これを大量の樹状細胞に乗せて使えば、もっと効くのではないかと思いました。それに、ほとんどすべてのがんで使うことができ、汎用性の点でもWT1は優れていたのです」

WT1は大阪大学大学院教授の杉山治夫さんが開発・研究に取り組んでいるペプチド(アミノ酸の小さな集まり)である。このペプチドはほとんどのがんに発現しているため、きわめて汎用性の高いがん抗原となっている。このペプチドを注射すると、免疫細胞がこのペプチドを標的にして攻撃を開始し、そのときに同じペプチドを持っているがんも攻撃するわけだ。これが、WT1によるワクチン療法で、現在臨床試験が進行している。

岡本さんが行ったのは、このWT1ペプチドをワクチンとして使うのではなく、樹状細胞療法の人工抗原として使う治療法である。

「樹状細胞療法にWT1ペプチドを使わせてほしいとお願いしたら、杉山先生も同じようなことを考えていたようです。ワクチン療法の薬にするという研究はもちろん続けられているのですが、それとは別に、樹状細胞療法に関する研究を一緒にやりましょうということになりました」

こうして、昨年の9月から、WT1を利用した樹状細胞療法が始められることになったのである。

樹状細胞は体外で大量に培養する

樹状細胞療法の治療方法について簡単に説明してもらった。

治療には樹状細胞が使われるが、体内に存在する樹状細胞は、皮下や肝臓にあるだけであまり多くはない。そこで、血液中から単核球を取り出し、これにサイトカインなどを加えて樹状細胞に分化させるのだという。

単核球を取り出すために、アフェレーシスと呼ばれる成分採血が行われる。血液を400ミリリットルずつ体外に導き出して単核球を取り出し、処理し終わった血液は体に戻す。これを13回繰り返し、合計5200ミリリットルの血液から、24億個ほどの単核球を取り出すのだ。この中に、樹状細胞に分化する単球が5~10パーセント含まれている。

「アフェレーシスを行うと、一過性に赤血球も白血球も血小板も下がるので、あまり低すぎる人は受けられません。ヘモグロビンは10(グラム/デシリットル)以上が一応の目安ですが、8~9あればなんとかできます。白血球は2500(個/マイクロリットル)以上、血小板は10万(個/マイクロリットル)以上が目安になります。低すぎる場合には、成分輸血をして行うこともあります」

取り出した単核球にサイトカインなどを加えて未熟な樹状細胞にする。

局所注入の場合には、この段階で患者さんのがんがある部位に注射する。そこで未熟な樹状細胞ががん細胞を食べ、成熟して抗原を提示するわけだ。

自己がん組織を利用する場合や、人工抗原でも特殊な長いペプチドは、培養している未熟な樹状細胞に加える。そこで食べさせ、それから成熟させて抗原を提示させるのである。

人工抗原の短いペプチドを使う場合には、未熟な樹状細胞をまず成熟させ、そこにWT1などの人工抗原を振りかける。これで成熟した樹状細胞が抗原を提示することになるのだ。

「アフェレーシスから3週間ほどで患者さんに戻します。注射するのは、腋下リンパ節か鼠頸リンパ節の近くの皮内。理屈からいえばどこでもいいのですが、乳がんや頭頸部がんなら腋下リンパ節、前立腺がんや大腸がんなら鼠頸リンパ節という具合に、近いほうを選んでいます」

体内に入った樹状細胞は、リンパ節のT細胞領域まで行き、Tリンパ球に抗原を提示する。それによって細胞傷害性T細胞が誘導され、がん病巣に向かうわけだ。


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