実用化樹状細胞療法第1号として認められた理由
科学的な研究から甦った古典的な免疫「BCG-CWS療法」
CI林免疫療法クリニック所長の
林昭さん
大阪府立成人病センター
外科部長の
児玉憲さん
大阪府立成人病センター研究所の
赤澤隆さん
歓楽街の一角にある免疫療法クリニック
CI林免疫療法クリニックの看板
大阪の曾根崎新地と言えば、大阪人なら知らない者がいない「北」の歓楽街として知られている地域だ。JR大阪駅から南へ徒歩数分。その北の一角の、とあるビルの9階にそのクリニックはあった。
外に看板も目印もないので、ちょっと探しあぐねた。ビル内のクリニックにたどり着いても玄関に「CI林内科クリニック」の文字看板があるだけ。免疫療法の「め」も見あたらない。
しかし、ここは、がん医療の世界では知る人ぞ知る、秘伝の免疫療法が行われていることで知られ、名前を聞けば驚くような大手企業役員、大学教授やその家族らが通っていると評判のクリニックだ。
とはいえ、クリニック内に入っても、目を見張るような先端的な医療機器があるわけではない。といって、昨今流行りのインテリアに凝っているわけでもない。何の装飾もない、どこにでもあるような、ひっそりしたクリニックだ。
見た目ばかりか、中身の治療もしごくシンプル。免疫といっても、リンパ球を患者から取り出して培養するような、大がかりなことをするわけではない。患者にワクチンを接種する、それを月1回のペースで行う、ただそれだけの治療である。
温故知新の免疫療法
BCG-CWSのワクチン
それがBCG-CWS療法と呼ばれる治療だ。その免疫療法を30年以上にわたって行い続けているCI林免疫療法クリニック院長の林昭さんに、訊いた。
「BCG-CWS療法はもともと故山村雄一教授(後の大阪大学学長)が進めたもので、抗がん剤や放射線と併用してやろうとしていた。しかし、抗がん剤や放射線は免疫を低下させる。そういう治療と併用するんではうまくいかんと思って、私は免疫療法単独の治療をやりだしたんです。もちろん、大きながんは手術や放射線で取り除いたうえでやるんですけど、これが思わぬ効果を上げたんです。最初は誰も信用しなかったけどね」
思わぬ効果というのは、最初の3例の治療が立て続けに成功を収めたのを指す。余命3カ月の急性前骨髄性白血病、腹水まで出ている再発大腸がん、20代の急性白血病といずれも相当に厳しいがんであったが、このBCG-CWS療法が功を奏し、やがて治ったという。にわかには信じ難い話だ。
関係者の間でちょっと注目されたのは、林さんの妻が肺がんになったときだ。ステージは1だが、大きさが4.5×3.5×3.5センチと小さくなく、そのうえ大細胞がん。大細胞がんは、肺がんの中でも抗がん剤も放射線も効きにくく、再発しやすいやっかいながんとして知られる。妻は、当時彼が勤務していた大阪府立成人病センターで右肺4分の3を摘出する手術を受け、その後彼のもとでBCG-CWS療法を受けて行った。そうしたら治ったという。
「再発もなく、18年経った今もピンピンしている」
がん遺伝子の発見者が科学的解明に乗り出した
世界に先駆けてがん遺伝子を発見したことで知られる豊島久真男さんがこれを見て、「何かある」と感じたらしい。1994年、彼が東大から成人病センター総長に赴任したのを機に、そこで免疫療法の研究に力を注ぎだした。ここからBCG-CWSの科学的な解明が始まり、それはやがて大きく結実していくのである。
一方、このように不可能を可能にした経験を積んでくると林さんは、この治療に対する思いが、どこかの野球選手が言ったように「自信から確信に変わった」ようだ。吐く言葉も次第に大きくなってくる。
「白血病や肺がんだけじゃない。どんながんでも効きますよ。がんの種類も選ばない。頭頸部がんや子宮頸部がんは手術しなくても治ります。これまで50人以上の頭頸部がん患者に治療してきたが、最初から手術不能でこの治療を受けた人はみな治っている。それに対して、手術できた人はみな死亡している。ただ、弱点はあって、骨と脳の転移にはこの治療は効かない。骨と脳にはリンパ系が存在しないからね。それと肉腫は難しい。膵がん、食道がんもちょっと難しいね」
それにしても、本当にそんなにがんに効くのだろうか。
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