ASCOレポート 「免疫」の仕組みを利用したがん治療薬の時代へ
より良いがん治療を受けるための最新知見!続々
世界中から3万人ものがん領域の専門家が集まり、最新の治療成果が発表される米国臨床腫瘍学会(ASCO)。
これまでの標準治療を大きく変え得る新薬登場など、今年もさまざまな最新トピックスが発表された。その最前線をレポートする。
研究投資の成果が
毎年、6月に米国シカゴで開かれる米国臨床腫瘍学会(通称ASCO)。今年で48回目を迎え、本年は「がん撲滅のために協力しあおう」をテーマに世界各国から約3万2000人にのぼる医療関係者が集まった。開会に先立ち、ASCO会長のマイケル・リンクさんは、「近代腫瘍学も50年近くが経ち、研究投資の成果がはっきりと見えてきた」と話す。
現在、がん遺伝子の特徴をつかみ、がん細胞の増殖を阻止したり、ときには根絶するほどの効果の高い医薬品も登場してきている。また、患者のがん治療における短期的、長期的な副作用を軽減する、新たな方法も出てきた。ここでは、今年ASCOで発表され、とくに注目の大きかった報告をいくつか紹介する。
免疫を応用した新薬
ASCOで注目される発表は、第3相試験(臨床試験、フェーズ3とも呼ばれる)での結果発表だ。第3相試験では、それまでの標準治療と新しい治療法とが比較検討され、いい結果が出れば、それが次代の新しい標準治療になる可能性が高いからだ。しかし、今年最も注目を集めたのは、その第3相試験ではなく、第1相試験の報告だった。
それは、抗PD-1(PROGRAMMED death-1)抗体と呼ばれる新薬で、免疫の仕組みを応用して開発された薬の報告だ。この薬を開発したのは、米大手製薬会社のブリストル・マイヤーズスクイブ。
発表したのは、ジョンズ・ホプキンス大のスザンヌ・トパリアン教授。最も致死性の高い難治の皮膚がん、メラノーマ(悪性黒色腫)をはじめ、非小細胞肺がん、腎細胞がんで、患者の4人に1人にがんの大幅な縮小に加えて、持続的で高い活性が示されたというのだ。
PD-1は、がんに対する免疫反応を抑制し、免疫細胞、とくにT細胞ががんを攻撃できないようにする働きを持つ遺伝子で、20年前に日本の本庶佑博士(京都大学)らによって単離同定された。
免疫系を強化
がん種 | 投与量 (mg/kg) | 人数 | 奏効率 人数(%) | 不変 ≥ 24 週 人数(%) |
メラノーマ | 0.1-10 | 94 | 26(28) | 6(6) |
非小細胞 肺がん | 1-10 | 76 | 14(18) | 5(7) |
腎細胞 がん | 1or10 | 33 | 9(27) | 9(27) |
もう少し詳しく説明すると、PD-1はT細胞上に存在していて、細胞死を引き起こす機能を持っている。がん細胞がやっかいなのは、このPD-1に結合する物質(リガンドと呼ばれる)を生み出し、そのためにがん細胞を攻撃するT細胞を死に至らしめT細胞の能力を発揮させなくするのだ。がん細胞に対する免疫の効果がなかなか発揮できないのは、このような免疫を抑制する機能があるからで、これを突破することが近年の大きな課題とされてきた。
そこで、抗PD-1抗体をつくり、先回りしてPD-1と結合させてやれば、T細胞は死なずにすみ、T細胞はがん細胞を攻撃する、というのが抗PD-1抗体ががんに効く仕組みだ。つまりは、がん細胞を直接攻撃するのではなく、体内の免疫系を強化してがん細胞への攻撃力をつけようというものだ。
で、臨床試験の結果は、奏効率ではメラノーマ28%、非小細胞肺がん18%、腎細胞がん27%。また24週間以上がんの大きさが変わらなかったのは、メラノーマ6例(6%)、非小細胞肺がん5例(7%)、腎細胞がん9例(27%)(図1)。効果は持続的で、1年以上追跡した31例中20例で1年以上効果が維持されていた。期待通りの成果というわけだ。
ただし、少し懸念材料もある。被験者の14%に深刻な毒性作用が確認され、うち3人が肺炎で死亡したという問題だ。ここは注意したい。
メラノーマ治療革命!?
この抗PD-1抗体に加えて、昨年に引き続き、今年もメラノーマに関する発表が充実していた。
その1つに酵素を触媒とする反応を妨げ、がん細胞の増殖を抑制する働きが期待されるトラメチニブ(一般名)という分子標的薬の発表があった。この薬が、BRAFという遺伝子が変異した悪性度の高いメラノーマ患者の治療に対して有効である可能性が第3相試験で示唆された。
トラメチニブ投与群とダカルバジン(*)またはタキソール(*)投与群とで比較が行われ、無増悪生存期間中央値がダカルバジンまたはタキソール投与群の1.4カ月から4.8カ月へと、有意に延長することが発表された。
また、同じタイプのがんで、変異したBRAF遺伝子を標的とした分子標的薬ダブラフェニブ(一般名)の効果も報告された。従来の治療薬、ダカルバジン投与群の無増悪生存期間が2.9カ月だったのに対し、ダブラフェニブ投与群では6.7カ月で、有意な延長が見られた。
今回の試験結果を踏まえ、次のステップとして4期の患者への補助療法としてダブラフェニブとトラメチニブの併用療法についても試験を検討する必要があることも指摘された。
*ダカルバジン=一般名.ダカルバジン
*タキソール=一般名パクリタキセル
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