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医療だけではない日常生活の対応も大切

肺がん緩和期の適切なリハビリとケア

監修●吉澤明孝 要町病院副院長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年2月
更新:2015年4月

  

「がん患者さん1人ひとりに合ったケアが必要です」と話す要町病院の吉澤明孝さん

肺がん患者さんが悩まされる息苦しさ……その原因には低酸素や呼吸困難感がある。それらを突き止めて適切な処置をしないと、患者さんの苦痛はなかなか治まらない。肺がんや肺転移に伴う呼吸リハビリテーションは病期に応じて様々な方法があるが、ここでは、Ⅳ期など緩和ケアの段階での対応を紹介する。

増える呼吸器障害 緩和医療と呼吸リハビリの合体

「肺がんや肺転移などで呼吸に関する苦痛を訴える方は増えています。がんのリハビリテーション(以下リハビリ)というと幅が広いのですが、当院では緩和ケアが必要な時のリハビリを多く対応しています。苦しい時にどうすれば苦しくなくなるか、呼吸苦の原因探索と適切な処置によって呼吸補助などのリハビリをどうすればよいかということに重点を置いています」

東京都豊島区・要町病院副院長の吉澤明孝さんは、最近の傾向と対応を話した。呼吸に関する苦痛を訴える患者さんが増えた理由は一概には言えないというが、分子標的薬の登場と新薬開発の医療進歩により生存期間が延長したことも一因ではないかと見ている。

「治療を続けるうち、肺がんは進行し、骨転移や脳転移など、様々な転移が出てきます。脳転移には、最近はガンマナイフ、サイバーナイフ、骨転移は放射線治療、ビスフォスフォネート製薬など効果的な治療がされるようになってきていますが、どうしても全身状態(PS)が落ちてきます。そのような中で起こる呼吸器系の障害はとても厳しいものとなります」

要町病院は、がんの緩和ケアと呼吸リハビリテーションを融合させた診療を、日本でいち早く2005年から行っている。開始から数年を経て、麻酔科出身で緩和医療の専門家である吉澤さんらの活動でようやく「がんの末期の緩和ケアにおける呼吸リハビリ」が広まりつつある。

モルヒネは早期からが効果的 専門医が投与量を調整

呼吸苦は大きく、「低酸素」と「呼吸困難感」に分けられる。

低酸素が起こるのは、肺水腫、がん性リンパ管症などが原因となる。ステロイドを使い、モルヒネを投与して苦しい状態を抑え、酸素を吸入することで低酸素も改善されることがある。

呼吸困難感とは、頸部のリンパ節転移によって圧迫されて、気道、大血管が締められること(上大静脈症候群や気管狭窄)などで息苦しくなるのが代表的だ。ほかにも胸水、腹水による肺の圧迫など、いろいろな呼吸困難、息苦しさがある。

「何が原因かよく調べて対応することが一番大切です」

モルヒネの使い方でも、緩和ケアと呼吸リハビリの両方を知る吉澤さんならではの提言がある。

「モルヒネは早期から使うべきです。私が10年以上前に呼吸器系学会で発表したところ、『呼吸抑制が起こるような薬を早期から呼吸困難の患者に使うのはおかしい』と強い反論があがりましたが、早期からの投与は緩和医療の世界では常識でしたし、今ではどの学会でも認められてきています」

大病院から要町病院に送られてきたときには苦しくて動くのも大変という状態の患者さんにモルヒネを使ったら、すぐに動けるようになり、食事もできるようになったということもしばしばという。

「呼吸抑制が起こるのは、モルヒネの血中濃度が上がり過ぎて傾眠を超えてからです。投与量の調整が必要となるので、麻薬をよく知る医師が処方することが大切です」

肺水腫=肺内で血液の液体成分が血管の外にしみ出して溜まり、呼吸が障害される状態 がん性リンパ管症=肺内のリンパ管がふさがり、肺の水分が排水されず、肺胞の中に空気が入らなくなる状態

診断は慎重に コミュニケーションが大切

では、どのようにケアを選択するのか。

「大病院から緩和ケアが目的で送られてくる患者さんは、CT検査などの画像を持参してきてくれるのですが、結構古いものが多いのです。治療医は緩和段階に入ると、CTなどもあまり撮らないからです。当院では、初診時などに一度は全身CTを撮って、持参画像と比較して骨転移など全身状態を把握した上で、一番苦痛を感じることは何か、息苦しさなのか、だるさなのか……をコミュニケーションの中で聞き出していきます」

痛みなら、痛みの種類により薬の処方法がありうる。息苦しさならば、低酸素か、呼吸困難感なのかを、画像などと併せて判断する。通常の胸郭の動きと異なる奇異呼吸など狭窄呼吸が疑われる場合には、「3D-CT」で検査して、気道狭窄部位にステントを挿入するなどの処置が必要となる。上大静脈症候群で苦しいなら放射線治療となり、胸膜浸潤で痛くて息が吸えない場合も放射線で痛みを改善する。それらの治療には同院と大病院とのネットワークが機能を発揮する。

難治性腹水症で肺が圧迫されているときには、腹水濾過濃縮再静注法(CART)を行う。この治療法は、腹水(または胸水)を取り出し濾過濃縮して、細菌やがん細胞を取り除いた上でアルブミンなどのタンパク成分が濃縮された腹水を点滴で体に戻すもの。要町病院では国内で最も多くこの治療法を行っている。

「腹水が溜まると胸が押し上げられて息が吸いにくくなります。これは低酸素ではありません。これを抜けば、息苦しさも取れます」

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