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体幹部定位放射線治療(SBRT)の適応拡大を

ピンポイントで肺がんを狙い撃ち 治療効果に加えて治療期間も短縮

監修●柏原賢一 東京放射線クリニック院長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年2月
更新:2019年7月

  

「体の負担が少ない放射線療法で高い効果が期待できます」と話す柏原賢一さん

肺がんの放射線治療で注目されているのが、体幹部定位放射線治療(SBRT)だ。7~9方向から線量の高い放射線をがんに集中させ、徹底的に叩く。肺がんでは大きさにより保険適用されるケースもある。数年前に登場した放射線治療の最新兵器だ。同治療法に詳しい専門医にその現状を聞いた。

「画期的な治療法」全身状態の悪いケースでも有効

体幹部定位放射線治療(SBRT)は、脳腫瘍など頭部の病変に対して開発された治療を体幹部に応用することで生まれた。1990年代から研究が進み、日本からも治療成績など重要な報告が発信されてきた。日本で保険収載されたのは 2004年だ。

「画期的な放射線治療法です。局所制御率が上がり、副作用も少ない。治療期間も従来の放射線治療の7分の1ほどで済みます」

東京放射線クリニック院長の柏原賢一さんは、SBRTを積極的に行っている。

「放射線と手術は、ともに局所治療です。がんを手術で切除するか、メスを入れないで放射線で治療するのかという違いで、がんを『取る』という考えは同じです。

手術では呼吸機能や心機能など全身状態(PS)によって麻酔の危険性や体力面の心配がありますが、放射線治療なら体への負担が少ないのでそのような場合でも可能ということがあります」

3次元的に多方面からがんだけに照射

SBRTの仕組みを見る前に、放射線治療の効果についての定説を紹介する。

「非小細胞肺がん(NSCLC)における手術での5年生存率は、Ⅰ期で63~80%、Ⅱ期で40%以下。通常の放射線分割照射で計60~70Gy(グレイ)投与した場合の5年全生存率は、Ⅰ期30%以下、Ⅱ期25%以下。50%の局所制御のためには84Gyを超える線量が必要となり、さらにターゲットに集中して90Gyを投与すると局所制御率は95%以上になる」(Martel)

「90Gyという大量の線量を従来の方法で投与することは、周辺の正常組織への影響を考えるととてもできません。しかし、SBRTならそれが可能なのです」

SBRTは、3次元的に7~9方向から周囲の臓器など正常組織を避けた形で、高線量をがん組織にピンポイントで浴びせる(図1)。周辺の正常組織に当たる放射線が大きく減ることが大きなポイントだ。肺はとくに放射線の正常組織への影響が強く、20Gy以上が当たるようだと問題となる。周囲への影響が極端に減ったことで、従来の方法では「大量すぎる」と判断される放射線量でも病変部だけに当てることができるというわけだ。

図1 体幹部定位放射線治療(肺)

そして、大きな線量を当てるので、治療回数も減らすことができる。従来の放射線治療が1.8~2Gyを30~35回照射するのに対し、保険診療では1回10~12Gyを4~5回照射することで完了するのが基本。欧米では1日で終了したり、1回で完結したりすることもあるという。

Martel=Mary K. Martel, et al. Lung Cancer24(1), 1999, 31–37

「5㎝以下、3個未満」が保険適用

図2 直線加速器(リニアック)

柏原さんのクリニックを訪れる患者さんには2つのパターンがある。1つは、SBRTに対応してない中規模、大規模病院からの紹介。もう1つは、インターネットなどで「切らないがん治療」を調べた人たちだ。

「近年は、医師に治療法を告げられてそのまま流れに任せるだけではなく、セカンドオピニオンを求めて来院する方が増えています。遠方からもいらっしゃいます。まずは、治療法について気軽にお尋ねいただければと思います」保険適用されるのは、「直径5㎝まで、3個までの肺がんと肝がん」。原発でも転移でも適用になる。

治療の流れは、❶画像診断。CT、MRI、PET-CTなどで病変を正確に把握する ❷SBRTを含む可能な治療法を提案し、患者さんに選択してもらう ❸放射線治療を行うためにCTやMRIを撮影する。このとき、体が動かないようにする固定具を作ったり、体に印をつけたりする ❹コンピュータで最適な治療計画を策定する ❺正確な治療のために、コンピュータの計算通りの放射線が照射されるか、治療前に測定、検証する ❻実際の治療の前に、毎回正確に照射されるように骨や腫瘍の位置を合わせる ❼放射線の照射を行う(所要時間は1回30分~1時間ほど)

放射線を照射する治療装置(医療用直線加速器=リニアック、図2)やベッドを動かすことで、360度どの方向からも病変部を狙うことができるので、大事な臓器を貫通しないような方法で照射方向を決める。線量も方向により微妙に変える。

「機器任せではありません。一番大きいのはコンピュータで計画した通りに照射できるかどうかです。SBRTは4~10回行うので、毎回同じでないと困るのです。位置関係が変わると当てるべき放射線量が当たらなかったり、周囲に障害を起こしたりしてしまいます。この位置を合わせる作業で治療成績が変わってきます」

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