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根治と機能温存の両立を目指す

セツキシマブ承認で 頭頸部がんの化学放射線療法はどう変わる?

監修●稲葉浩二 国立がん研究センター中央病院放射線治療科医師
取材・文●町口 充
発行:2015年8月
更新:2019年7月

  

「頭頸部がんは個別化治療が
進んでいくと思います」
と話す稲葉浩二さん

根治を目指すとともにできる限り機能を温存したいのが頭頸部がんの治療。近年、放射線と化学療法を併用した治療法の有効性が明らかとなり、根治と機能温存の両立が可能になってきた。2012年12月、分子標的薬が加わったことにより、治療選択肢はますます広がっている。

シスプラチンに続き、分子標的薬のセツキシマブが登場

頭頸部がんは1つの疾病ではなく、舌がんを含む口腔がん、のどのがんである喉頭がん、咽頭がんなど、頭頸部にみられるがんの総称。

がんを完全に取り除くには手術がベストだが、それによって咀嚼や嚥下、発声機能が失われたり、顔面に大きな傷が残ったりすれば、QOL(生活の質)の著しい低下は免れない。

しかも、早期のがんなら放射線治療やレーザー、内視鏡を使った機能温存手術が可能だろうが、頭頸部がんは進行した状態で見つかるケースが多く、そうなると重要な臓器を大きく切除する手術とならざるを得ない。

国立がん研究センター中央病院放射線治療科の稲葉浩二さんはこう語る。

「早期では多くが無症状のまま進行するし、基本的に頭頸部がんの検診は行われていないため、症状に気づいて調べたらⅢ期、Ⅳ期だったという方が多い。胃がんや食道がんの経過観察で内視鏡検査を受けたときに早期がんが偶然見つかるケースもありますが、稀な例です」

手術可能であっても拡大手術が必須であれば機能温存は難しいし、進行していて手術が不可能なら今度は命が危なくなる。こうした問題を解決し、がんの根治と機能温存を両立させる方法として期待されているのが化学放射線療法だ。

従来は、手術ができない患者さんに放射線治療を行っても治癒が難しかったが、そこに登場したのが
シスプラチン。シスプラチン併用の化学放射線療法により治療成績が向上し、根治と機能温存の両立が可能になった。

その後、シスプラチンに続く薬は久しく現れなかったが、2012年12月、新たに頭頸部がんの治療薬として承認されたのが分子標的薬のセツキシマブだ。

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ セツキシマブ=商品名アービタックス

効果は同程度だが 副作用は異なる

それから2年あまりが経過し、セツキシマブはどのように使われ、効果を上げているだろうか。

セツキシマブが登場する以前、頭頸部の進行がんに対する治療は、進行がんであっても遠隔転移がない場合、手術が基本であるものの、高齢などの理由で手術ができなかったり、機能温存を希望する場合はシスプラチン併用の化学放射線療法が治療選択肢の1つとなる。一方、再発・転移したがんの場合はシスプラチン+フルオロウラシルの化学療法(PF療法)が選択肢の1つだ。

「放射線は1日2Gy(グレイ)ずつ、トータルで70Gyまで照射します。食道の場合は放射線が肺や心臓、食道などにもあたるため有害事象のリスクを考えて60Gy程度が限度ですが、頭頸部の咽頭などには比較的多く照射することができます」と稲葉さん。

これに新たにセツキシマブが加わった。

セツキシマブ承認の根拠となったのは、海外で行われた2つの臨床試験の結果。Bonner試験と呼ばれる試験では、局所進行の頭頸部がん(中・下咽頭がん、喉頭がん)に対してセツキシマブ+放射線療法併用と放射線療法単独とを比較したところ、全生存期間(OS)中央値が前者では49.0カ月、後者では29.3カ月と有為な差が認められた(表1)。

もう1つのEXTREME試験では、今度は再発転移性の頭頸部がんに対してセツキシマブ+シスプラチンあるいはカルボプラチン+フルオロウラシルの治療法とシスプラチンあるいはカルボプラチン+フルオロウラシルの治療法とを比較したところ、前者のOS中央値は10.1カ月であり、後者の7.4カ月に比べて有意に延長した(表2)。

表1 局所進行頭頸部がん(中・下咽頭がん、喉頭がん)に対する
セツキシマブの効果(全生存期間)

Bonner試験より
表2 再発転移性の頭頸部がんに対する
セツキシマブの効果(全生存期間)

EXTREME試験より

以上の試験結果を受けて、日本国内でもセツキシマブを用いた2つの治療法の安全性と効果を検討する第Ⅱ相試験が行われ、日本の患者さんにも有効との結論が得られた。

現在、局所進行の患者さんにはセツキシマブ併用放射線療法が、再発転移の患者さんにはセツキシマブ+シスプラチンあるいはカルボプラチン+フルオロウラシルの治療法が標準治療の1つとなっている。

それならば、セツキシマブはシスプラチンを超える効果が期待できるのかというと、実は頭頸部がんで両者を比較する試験は現在進行中であり、今のところ不明。しかし、実臨床の感触では「両者の効果は同じぐらい」と稲葉さんは言う。

「シスプラチンには強い副作用があり、シスプラチンを使った治療ができない患者さんもいます。そういう方に対しては新たな治療選択肢として期待が持てます」

シスプラチンの副作用としては悪心・嘔吐や食欲不振などの消化器症状もあるが、その他にも、腎機能障害、骨髄抑制、難聴や耳鳴り、しびれなどの末梢神経障害などがある。腎機能を守るため、シスプラチン投与の際には入院した上で長時間の輸液による水分補給が必要となる。このため腎機能に障害がある患者さんにはシスプラチン投与は慎重にならざるを得ない状況となっている。

そうした副作用がなく、外来でも治療できるのがセツキシマブだ。このため、腎機能が弱っていてシスプラチンが使えない人にも適応となる。

フルオロウラシル=商品名5-FU Bonner試験:Bonner JA, et al. N Engl J Med. 2006;354:567-578.
EXTREME試験:Vermorken JB, et al. N Engl J Med 2008;359:1116-1127. カルボプラチン=商品名パラプラチン

セツキシマブの副作用

一方、セツキシマブにも注意すべき副作用がある。

「セツキシマブで問題になる副作用は皮膚障害、粘膜炎、頻度は低いですが間質性肺炎、Infusion reaction(投与時反応)などです。ニキビに似た皮疹(ざ瘡様皮疹)も頻度の多い副作用です。投与開始から数週間後ぐらいで見られますが、次第に治まり、数カ月程度で回復します」

ただし、ざ瘡様皮疹が出ると薬の効果が強いこともわかっている。

セツキシマブによる皮疹と生存期間との関係を調べた研究でも、「有害事象のレベルがグレード2(中等度)以上のざ瘡様皮疹を生じた患者さんは、グレード1(軽度)以下の患者さんよりも有意に生存期間の延長を認めた」との結果が出ている。

もちろん、中には副作用が強すぎて治療を中止したり、減薬しなければならないこともある。セツキシマブの投与開始とともに、保湿剤を用いたスキンケアや、場合によってはステロイド軟膏などで症状の悪化を防ぐことが大切という。

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