学会による統一治療方針が定められた
手術が適応とならない骨軟部腫瘍は保険診療に 重粒子線治療の適応と可能性
重粒子線治療は先進医療の代表格だが、これまでその治療適応は、実施施設によって異なる部分があった。2016年2月、日本放射線腫瘍学会が適応症について統一治療方針を打ち出した。実施状況を明らかにし、有効性・安全性を評価して今後につなげるためだ。先進医療での治療の適応はどのようになっているのだろうか。
質量の大きな粒子による放射線を集中させる がん細胞の殺傷能力の高い治療
昨今、がんに対する放射線治療は、その選択肢が増え、手術とともに、局所療法としての効果の高さと存在感を示し続けている。そのような中で、注目度を増している治療の1つに重粒子線治療がある。
現在、重粒子線(じゅうりゅうしせん)治療を行える施設が国内に5カ所ある。放射線医学総合研究所(千葉県)、群馬大学医学部附属病院、神奈川県立がんセンター、兵庫県立粒子線医療センター、九州国際重粒子線がん治療センター(佐賀県)だ。
日本以外の海外には5施設であるため、世界の重粒子線治療施設の半分は日本にあることになる。日本は世界における重粒子線治療の最先端国なのだ。
X線のような従来の放射線治療に使われる光子線は、体内を通り抜ける性質の電磁波である。重粒子線治療とは、炭素イオン線を用いる重粒子線による治療法だ。同じく粒子線の一種である陽子線を用いる陽子線治療を併せて粒子線治療と総称される。
粒子線治療のメリットは、線量分布と言われる照射の集中度が、叩くべきがん細胞のところで最大になって(ブラッグピーク)留まり、ダメージを与えることだ。さらに従来の放射線治療に比べて周囲の正常細胞を傷つけにくいという利点もある。
そして粒子線治療のうち、重粒子線治療のもつ最大のメリットは、がん細胞の殺傷能力が高いことだ。陽子線治療が陽子(水素)を加速した粒子線治療であるのに対して、重粒子線治療は、陽子の約12倍の質量がある炭素イオンを使う。その際、直径20メートルの円形加速器(シンクロトロン)で光の70%の速度に加速して照射する。このため、従来、放射線治療が効きにくかった肉腫などの難治性のがんの治療に大きな力を発揮できる。
照射回数が少なくできるため 通院の負担も抑えられる
また、一度に強い線量を照射できるため、治療を短期間内に終えられるのも患者にとってのメリットと言える。
「前立腺がんについては、強度変調放射線治療(IMRT: Intensity Modulated Radiation Therapy)では40回前後の照射が必要なのに対し、重粒子線治療は12回で済みますし、I期の肺がんでは、定位放射線治療(SRT: Stereotactic Radiotherapy)で4~6回の照射を要するところ、重粒子線治療は1回で済む場合があります」
このように説明するのは、2015年の12月に、我が国5番目の重粒子線治療施設として治療を開始した、神奈川県立がんセンターi-ROCK(ion-beam Radiation Oncology Center in Kanagawa)と従来のX線治療部門を統括する放射線治療科の部長である中山優子さんだ。
中山さんたちは、前立腺がんの治療から開始し、現在、骨軟部腫瘍への重粒子線治療に着手。頭頸部の非扁平上皮がん、メラノーマ、および肝がんに対する治療について、患者募集を開始している。さらに夏頃には、同がんセンターとして症例数の多い、肺がん、直腸がん、膵がんなどの治療を実施したいと考えている。
「重粒子線治療は、これから有効性を証明する様々なデータを出していくべき治療法です。我が国で最初に重粒子線治療を始め、症例数を重ねながら治療指針を示してきた放射線医学総合研究所の治療法を参考に踏襲しながら、私たちも症例数を蓄積していきたいと考えています」
まず紹介状・画像から適応が判断される
重粒子線治療の流れについて簡単に触れておこう。重粒子線治療は、実施する5施設への紹介により受けることができる。詳細については、主治医あるいは、5施設に問い合わせてみるとよい。
紹介に際しては、主治医の紹介状と診断画像のCD-ROMなどが必要となる。それらを元に各施設では診察や検査、治療に対する説明がなされる。治療の適応が決まったら、治療時に体を固定するための固定具を作成する。そして通常の放射線治療と同じように、治療計画を立てるためのCTを撮り、治療計画を立てて治療に入る。
治療は、照射のための諸々の準備で20~30分要するが、実際の照射は1~2分だ。照射回数は病状によって異なる。
治療終了後は、治療を受けた施設や地元の病院で、定期的に外来診療を受診して経過を観察し、治療効果を確認するという流れになっている。
一定の骨軟部腫瘍は保険診療で実施 他のがんには先進医療で行えるものも
重粒子線治療は、現在、先進医療Aとして、頭頸部、肺、縦隔、一部の消化管、肝胆膵、泌尿器、婦人科がんなどに対しての治療が認められている。先進医療は厚生労働省承認のもとで、保険収載(適用)を目指せる可能性のある治療が、そのステップとして実施され、治療効果を示していくもので、自由診療と保険診療を併用する混合診療が法律的に認められている治療だ。
現在、その成果として、手術が適応とならない骨軟部腫瘍の重粒子線治療に対して今年(2016年)4月、保険診療が認められた。
他のがんに対しては、日本放射線腫瘍学会では、同年2月に治療の適応症と統一治療方針を示している(表1)。その中身は、根治的照射を目的に実施すること。照射範囲を最小限に留め、有害事象リスクを低減すること。臓器移動対策(呼吸などに伴う臓器の移動の影響を考慮した照射)が行える症例に適応すること。24~48時間以内に緊急照射をする必要がない症例であることだ。
そして、先進医療に該当する各がん種について、治療の適応基準が細かく決められている。
「統一治療方針を示し、5施設で横断的にきちんとデータを出していくことによって、治療の信頼性を高め、保険収載を目指していくということが目的です」
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