• rate
  • rate
  • rate

従来の放射線化学療法を上回る治療成績も

手術できなくてもあきらめない! 局所進行膵がんに対する化学療法併用の重粒子線治療

監修●山田 滋 量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所病院消化器腫瘍科科長
取材・文●伊波達也
発行:2017年3月
更新:2017年3月

  

「局所進行膵がんに対して、化学療法併用の重粒子線治療は、非常に期待が持てる治療法だと考えます」と語る山田滋さん

見つかったときには手術できないケースがほとんどであり、難治(なんち)がんの1つと位置づけられる膵がん。手術できない局所進行膵がんに対しては、化学療法あるいは放射線化学療法が行われるが、治療成績は芳しくないのが現状だ。そういった中、注目されているのが重粒子線による治療法。化学療法を併用した重粒子線治療で、良好な成績も出ているという。

高い効果が期待できる重粒子線治療

重粒子線による治療は放射線治療の一種で、陽子線とともに粒子線(りゅうしせん)と総称される。一方、従来の放射線治療であるX線やガンマ(γ)線は光子線に位置づけられる。

では、粒子線の1つである重粒子線が、従来の放射線治療であるX線やガンマ線といった光子線と比べて、どこが大きく違うのだろうか。その1つとしてあげられるのが、線量分布が優れている点だ(図1)。わかりやすく言い換えると、狙った病巣(びょうそう)に集中的に、しかも最大のエネルギーで照射できるということだ。

「X線の場合は、電球の光と同様に広がっていく性質があり、標的の病巣だけではなく周囲の正常組織にも当たってしまいます。また、体内に入ると皮膚直下でエネルギーが最大になり、体内の標的にするべき病巣に行きつくまでに力が弱ってしまいます。これに対して重粒子線は、設定した体内の深さで止まり、止まる寸前で最大のエネルギー(ブラッグピーク)になるので病巣を効果的に叩くことから、ピンポイントで病巣を狙い撃ちすることができます」

そう説明するのは、量子科学技術研究開発機構(以下、量研機構と記載)放射線医学総合研究所病院(千葉市)消化器腫瘍科科長の山田滋さんだ。

そしてもう1つ優れている点が、生物学的効果が大きい点だという。

同じ粒子線である陽子線治療と比べて、重粒子線治療では質量の大きい炭素イオンを用いるため、その分、生物学的効果も大きくなる。

「重い球を投げるほうが、相手に与える影響も大きくなるということです。重粒子線治療のほうが、がん細胞のDNAを損傷させる力も大きく、陽子線治療の場合、DNAの2重鎖のうち1重鎖しか切断できませんが、重粒子線では2重鎖とも切断する力を持っており、時間が経っても回復しにくいことがわかっています」(図2)

また、通常の放射線治療で用いられるX線やガンマ線は、低酸素の状態だと効果が現れにくく、基礎研究の報告によると、ガンマ線の場合、低酸素細胞では約3倍治療抵抗性となることがわかっている。一方、重粒子線の場合、低酸素細胞でも通常と同様の効果が現れ、また放射線に対して一般的に治療抵抗性と言われる「腺がん」や「がんの幹細胞」に対しても、その効果が期待できるという。

図1 重粒子線治療の優れた線量分布

重粒子線は、X線や陽子線よりも線量集中性が高く、狙った部位(腫瘍)に集中して照射が可能
図2 重粒子線治療の生物学的効果

重粒子線治療に適した膵がん

現在、重粒子線治療は、いくつかの臓器にわたって行われているが、治療の特徴を活かし、体内の深い部分にある臓器のがんや、今まで治療しにくかったがんの組織型や細胞の特徴などについて強みを発揮することで、治療効果が期待されている。そして、そうした重粒子線治療が適しているがんの1つに膵がんがあげられる。

膵がんは、がんの中でも非常に予後が厳しく、根治への道を探るには手術ができることが大前提だが、見つかったときにはすでに切除できないケースも多い。こうした手術不能の局所進行膵がんに対して、山田さんたちは2003年以来、重粒子線治療を行っている。

「膵がんの大部分は腺がんで、また低酸素細胞の割合が多いなどの要因により、従来のX線などの放射線治療ではなかなかうまくいきませんでした。また、膵臓の周りには、胃や十二指腸、脊髄など放射線に対する感受性(かんじゅせい)が高い臓器に囲まれているため、X線での治療が難しいのが現状です。そうした膵がんに対して、治療効果が期待できるのが、重粒子線治療なのです」

さらに重粒子線は短期照射ができる、言い換えれば1回の照射で高い線量を当てられる点も、大きなメリットだという。

「局所進行膵がんに対するX線治療は、通常1回1.8Gy(グレイ)を28回、トータル50.4Gyを照射するのに対し、重粒子線治療は、高線量の場合、1回4.6Gy(RBE)を12回、トータル55.2Gy(RBE)ほど照射します。トータルの線量はそれほど差がないように思うかもしれませんが、1度に照射できる線量を考えれば、その破壊力は重粒子線が圧倒的であり、X線と同様に1回1.8Gy(RBE)で治療した場合は、抗腫瘍効果は68.4Gy(RBE)に相当します。また、短い期間で治療できることも、患者さんにとって負担が少なくて済みます」

Gy(RBE)=放射線の影響を示す単位。放射線の性質の差を補正した単位で、X線であればどの程度の線量に相当するかを示す

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート4月 掲載記事更新!