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間質性肺炎に合併する非小細胞肺がんに重粒子線治療が有効 がんへのピンポイント攻撃で肺炎の増悪を最小限に抑える

監修●中嶋美緒 放射線医学総合研究所病院呼吸器腫瘍科医長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2018年2月
更新:2018年3月

  

「重粒子線治療の安全性と有用性を検証するために行った研究です。ゼロではないですが他の治療よりはリスクが低いと言えます」と語る中嶋美緒さん

間質性肺炎にかかると高い確率で合併するという特徴のある肺がん。がんの治療として手術、放射線治療、化学療法のいずれをしても肺炎のほうが急性増悪してしまう危険がある。そのような状況で注目されているのが、放射線治療の1つである重粒子線治療だ。

がんへのピンポイント攻撃で肺炎の増悪を最小限に抑えることができる。昨年(2017年)横浜で開かれた日本肺癌学会で、間質性肺炎に合併する非小細胞肺がんに対する重粒子線治療の後方視的研究成績を報告した専門医にその内容をうかがった。

“ブドウの房”が炎症

肺がん治療の前にまず、間質性肺炎について放射線医学総合研究所病院医長の中嶋美緒さんに伺った。

「特徴として、まだ原因がはっきりしていないものが多く、たくさんの病気を含んでいることが挙げられます。そのため、診断や分類も難しく、人間ドックでのCT(コンピュータ断層撮影)で判断されるケースが多いのが現状です」と見つけにくい疾患であることを指摘した。症状があっても診断されるのは半数程度で、治療されていないことも多いという。また、肺がんに罹患しているとわかってから、がんの治療中に間質性肺炎が見つかることもある。

普通の肺炎と異なるのは、肺の中の肺胞の壁が肥厚炎症すること。中嶋さんは「ブドウの粒の皮が厚くなる」と表現した。さらに分類すると、一番多いのが特発性肺線維症だ。全体の9割ほどを占めるとされている。軽いうちは自覚症状がないが、進行すると息切れが出るようになる。中嶋さんはその原因について「喫煙とは関係があると言われていますが、はっきりした関連はわかっていません。一般的な肺炎は感染症、細菌性肺炎です。それとは全く別の病気。免疫疾患の一種と思ってもいいでしょう。自己免疫疾患、例えばリウマチに合併する間質性肺炎もあります。感染性とは異なる、ステロイドが効くということはそのようなためです」と解説する。

全国の患者数ははっきりしない。過去の調査では10万人に3~4人ほどというものがあったが、2012年に調査した結果では11.8人という数字が出た。そして、その9割が特発性だった。全国では診断を受けていない人々を含めると1万5,000人に上ると推計されている。

主な治療法としては、初期に見つかった場合は投薬もしない経過観察が多く、症状が出てきたらステロイドを使う。病状は徐々に悪くなるが、その中で急性増悪が一番の問題とされている。急性増悪とは、ある時に急に症状が悪くなって、命に関わる呼吸不全が出ることだ。そのときには、ステロイドの大量投与を行う。

治療選択肢としての重粒子線

また、特発性肺線維症は予後が良くないという特徴も持ち、治療をしても全生存期間(OS)はだいたい3~5年と見られている。死因の第一位は急性増悪で、ステロイドを使用しても死亡率は50%程度と高いことが分かっている。また、肺がんを合併するリスクが5~25%と高く、1割程度が肺がんで死亡すると言われている。

そして、ここに大きな問題がある。見つかった肺がんの治療をすると、肺炎が急性増悪する可能性が高いのだ。中嶋さんは「手術、放射線治療、化学療法のいずれでも急性増悪の危険が高く、もともと予後が悪いので、がんの治療自体をするかどうかが問題になります」と話す。

そのような中で、期待されるのが放射線治療の1つである重粒子線治療だ。「放射線治療が進化して根治的な肺がん治療が可能になった一方で、放射線治療後に重い放射線肺炎を起こした患者さんの大部分が間質性肺炎を持っていたことが分かり、明らかな間質性肺炎があると原則的に放射線治療は禁忌とされるようになりました」と言う(中嶋さん)。その“救世主”が、重粒子線治療だ。

重粒子線治療とは

重粒子線治療は放射線治療の一種で、ヘリウムイオンよりも重い粒子を加速器で光速に近い速度まで加速させたものをがんに照射し、治療する(図1)。現在、保険適用されているのは骨軟部腫瘍であり、先進医療として、肺がん、肝がん、膵がんなどいくつかのがん種に適用されている。

図1 放射線治療の分類

(出典:量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所)

重粒子線治療ができる施設は日本に5カ所(千葉、兵庫、群馬、佐賀、神奈川)ある。国内で中心的な役割を果たしている放医研では、HIMAC(ハイマック)という世界初の医療専用重粒子加速装置を使って1994年に安全性と有効性を調べるための臨床試験を開始し、2003年に高度先進医療(現在、先進医療)に承認され、治療を行ってきた。

HIMACは、サッカー場ほどの広さを持ち、イオン粒子を直径420メートルの加速器で光速の約840%まで加速して、そのまま治療室に運ぶ大掛かりな施設だ(図2)。

図2 HIMACのイメージ図

(出典:量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所)

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