高齢者や合併症のある患者、手術を希望しない患者にも有効 体幹部定位放射線治療(SBRT)が肺がん術後再発への新たな選択肢に
コンピュータ技術の革新、治療装置の高精度化などにより、がん組織に集中的に高線量を当てつつ正常組織への照射を最低限に抑える放射線治療が可能になっている。その代表といえるのが、体幹部定位放射線治療(SBRT)だ。
SBRTの利点は、低侵襲で体への負担が少なく、高齢や合併症などの理由で手術が難しいがん患者にも比較的安全に施行できる点である。東京大学医学部附属病院放射線科では、原発性・転移性肺がんを中心に、早くから積極的にSBRTを行なっており、良好な成績を得ている。同科の青木秀梨さんに、SBRTの利点、治療効果などについて伺った。
SBRT――ピンポイントで多量の放射線を照射
SBRTは、ひと口で言えばピンポイント治療。標的とするがん組織に集中させて、高線量の放射線を照射する方法だ。もともとは、脳腫瘍に対するガンマナイフ治療として始まった。
その後、技術が飛躍的に進歩し、肺、肝臓、前立腺など体幹部へと応用が広がってきた。
青木さんによると、SBRTの第1の利点は、手術と比較して侵襲(しんしゅう)が少なく、患者への負担が軽いことだ。
「従来の放射線治療では、精度がそこまで高くなかったために照射野を広めに取らざるをえず、照射法も前後や斜方から均一なビームを当てる単純な方法がとられていました。しかし、この方法では、広範な正常組織に腫瘍と同等の放射線が当たってしまい、副作用が起こりやすくなります。それを避けるため、1回の照射量はどうしても少なくなり、がんへのダメージも限定されます。
これに対してSBRTは、ターゲットをピンポイントで絞れます。その結果、正常組織への放射線量を最小限に抑え、病変に高い放射線量を照射することが可能になり、局所療法としては手術に匹敵する成績を得られるようになっています」
従来の放射線治療では、早期肺がんに対しても1回2Gy(グレイ)の放射線を約30回照射することが多かった。しかし、SBRTの場合、例えば東大病院では、照射量は1回につき13.75Gy、これを4回実施する。トータルの放射線量は60Gyから55Gyへと一見減るが、1回当たりの照射量が格段に大きいため、30回の放射より強い治療効果を得ることができる。
もう1つの利点は、治療期間が短くて済むことである。
「1回の照射時間は10~15分ほど。日を変えて約1週間で4回照射し、多くの場合、これで治療は終了します。もちろん、通院治療が可能です」と青木さん。
一方、副作用としては、急性期(治療後2~3カ月以内)に放射線照射による隣接臓器の炎症(食道炎、皮膚炎)、晩期(5カ月~3年)に肺臓炎などがみられる。より高い効果を求めて照射量を上げると、副作用も増える。そこがジレンマだが、治療効果を向上しつつ、有害事象を減らすための技術の発達は著しい。
3つの照射技術がキーワード
SBRTへの理解を深めるため、その仕組みをもう少し詳しくみていこう。
青木さんによると、SBRTでは、「IMRT」(強度変調放射線治療)、「VMAT」(強度変調回転放射線治療)、「IGRT」(イメージガイド下放射線治療)という3つの照射技術がキーワードになる。
「IMRTは、がんに放射線を照射するときに、コンピュータ技術によって、同一ビーム内でも放射線の量に濃淡をつけ、当てたい場所にあわせて線量分布を自在に形成する技術です。これによって、隣接する臓器に当たる放射線の量を最小限に抑えながら、がんに十分な線量を照射することができます」
IMRTの中でもVMATは、IMRTに回転照射の技術を組み合わせた治療である。この方法で治療時間が劇的に短縮し、患者の負担が軽減した(図1)。
さらに、放射線治療機器にCTを組み合わせてIGRT、すなわち画像誘導放射線治療を行なうことで、より正確に腫瘍の動きをとらえ、VMATを安全に行えるようになった。
毎日の患者位置の微妙な誤差、治療中の患者の体動などの誤差は避けられないものだが、治療直前のCT画像により位置ずれを補正することで、精度の高い照射が可能になる(図2)。
実際、東大病院ではこの技術によって誤差5㎜以下の照射精度を達成しているという。
このようにSBRTは、IMRT、VMATというコンピュータ技術によって可能になった手法と、IGRTという画像誘導技術が融合してより効果的かつ安全な治療に日々進化している。
青木さんは、「従来の放射線療法の概念を大きく変えるインパクトを持つ」と指摘する。
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