• rate
  • rate
  • rate

世界で初めての画期的なBNCT治療が間近に! 頭頸部がんに対する適応承認は今後の大きな発展契機に

監修●小野公二 大阪医科大学BNCT共同臨床研究所長
取材・文●伊波達也
発行:2020年5月
更新:2020年5月

  

「保険による治療が可能になれば、今後のBNCT治療における発展の大きな契機になると思います」と語る小野公二さん

新たな放射線治療として、現在注目されているのがホウ素中性子捕捉療法「BNCT」だ。2020年3月に切除不能の進行頭頸部がんと再発頭頸部がんを対象に、この治療システムとホウ素薬剤の製造販売が承認された。患者に対する治療の保険収載も間もなくだろう。BNCT研究を長年にわたり主導してきた大阪医科大学BNCT共同臨床研究所長の小野公二さんに、BNCTによる治療の今とこれからの展開について伺った。

ホウ素中性子捕捉療法「BNCT」とは?

ホウ素中性子捕捉(ほそく)療法「BNCT」とは、ホウ素原子(ボロン10)と中性子の核反応で放出されるヘリウムとリチウムの原子核を利用して、正常細胞にはほとんど損傷を与えず、がん細胞を内部から選択的に破壊して死滅させる放射線療法だ(図1)。

あらかじめ患者に投与したホウ素薬剤が、がん細胞に選択的に集積する。そこへ、現在では小型化した加速器により、腫瘍に中性子を照射するのだ。従来の放射線治療や、陽子線治療、重粒子線治療などの粒子線治療とは違ったアプローチによる画期的な治療法だ。

治療のスケジュールはこうだ。患者は、治療日までに腫瘍の位置や大きさを確認して、治療の可否が判断され、治療計画が立てられる。将来は、FBPA(ホウ素薬剤BPAと同様にがん集積性の高い化合物)を注射してPET検査を受け、ホウ素薬剤ががん細胞に充分な濃度で取り込まれるかどうかを調べ、そのデータも治療計画に反映される。そして、治療当日にBPAが投与され、中性子が腫瘍に照射される(図2)。

放出される2つの原子核の飛ぶ距離は、細胞のほぼ直径に相当するため、ホウ素薬剤を取り込んだがん細胞を内側から選択的に破壊することができる。そして、周囲の正常細胞はほとんど傷つくことはない。治療は、1回の照射は30~60分程度で、1~2回の照射で完了する。これは患者にとって大きなメリットだ。

生物学的効果が大きく、普通のX線では死なないがん細胞を破壊することができ、強力な破壊力で知られる炭素イオン線の2倍程度の効果があるという。

「このように、BNCTは、常に狭い範囲で効果を持つことと、その効果が絶大であるという2つの特徴があります」

そう説明するのは、大阪医科大学BNCT共同臨床研究所長である小野公二さんだ。小野さんは、京都大学複合原子力科学研究所教授時代より研究全般を主導してきたBNCTにおける第一人者だ(写真3)。

■写真3 BNCT装置 加速器(左)と治療室

世界で初めての頭頸部がんのBNCT治療が間近

これまで、国内ではさまざまながんに対する治療効果を確かめる臨床試験が行われてきたが、切除不能の進行頭頸部がんと再発頭頸部がんの治療に対する臨床試験で、その有効性が証明された。

そして、BNCTシステムが2020年3月に製造販売承認を得た。さらに同月、ホウ素薬剤に関しての承認も下りた。このことにより、BNCTを用いた世界で初めての治療が日本において実現できるのが間近になった。

「今後、保険収載になれば、患者さんの保険による治療が実現します。おそらく数カ月後でしょう」

小野さんたちと研究を進めてきた、総合南東北病院(福島県郡山市)においてもBNCT治療は実施される予定だ。

現在、臨床試験の結果により、次に承認の可能性が高い疾患が、悪性脳腫瘍の一種である、悪性神経膠腫(あくせいしんけいこうしゅ:グリオーマ)だ。さらに、医師主導試験で現在、患者登録中なのが、再発高悪性度髄膜腫(ずいまくしゅ)(WHOグレード2、3)だ。

この臨床試験は、患者をBNCT治療群と非治療群にランダム(無作為)に割り付けて、BNCTの臨床効果を調べる第Ⅱ相試験だ。現在、被験患者を登録中で、2020年11月頃に登録を完了する予定だ。

これら脳神経外科分野で、難治(なんち)とされる疾患に対する治療の実現は、患者やその家族にとっては大きな福音となるはずだ。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!