形態や機能を温存し、体への負担も少ない患者にやさしい治療
放射線を利用したいがん
統合診療部長の
西尾正道さん
耐用線量と分割照射
放射線でがん病巣をたたくには、放射線をたくさんかければかけるほどがん細胞が死滅しやすい。だから治療効果を上げるには、放射線をたくさんかけることだ。しかし、たくさんかけすぎるとがん細胞ばかりか、正常組織もダメージを受け、障害が出てくる。ここが放射線治療の難しいところである。
そこで、正常組織や臓器で障害が出ない範囲の、ぎりぎり多量の線量をかけるという発想が生まれた。「耐用線量」である。いろいろ研究が積み重ねられ、この耐用線量の値が明らかになった。組織、臓器によって放射線の感受性が異なり、耐用線量も異なっている。
しかも、この耐用線量の値は固定されたものではない。かける線量を分割すると耐用線量が変わることがわかった。たとえば7×5センチ範囲の皮膚では、1回2000ラド(20グレイ)かけると皮膚がジクジクしたやけどの状態になる。しかし、これを25回(5週間)に分割してかけると、同じ状態になるのに6000ラド(60グレイ)までかけられるのだ。
分割するとなぜ多くかけられるかというと、放射線をかけるとがん細胞も正常細胞もダメージを受けることは変わりないが、がん細胞よりも正常細胞のほうが回復力があるからだ。そこで、1度放射線をかけ、正常組織が回復するのを待ってまたかけるというようにすれば、障害を少なくしてたくさんかけられるというわけだ。
こうして現在のような放射線の分割照射の方法が確立したのである。
副作用を減少したピンポイント照射
では、分割はすればするほどいいかというと、そうでもない。30回(6週間)ぐらいを過ぎると、今度は正常組織の間質で線維化が起こり硬くなる。そのため血流が悪くなって細胞にとって住居のような間質は低酸素の状態になり、逆に放射線が効かなくなってくる。だから長期間になりすぎてもダメなのである。放射線の研究が積み重ねられその経験から、1回2グレイずつぐらいの分割照射がいちばん障害が少なく、いちばん効果的であることがわかり、今日に至っている。
このあたりの線量は非常に微妙で、たとえば子宮がんの全骨盤照射といって、骨盤全体に放射線をかける治療の場合、1日2グレイずつの照射では問題がないが、これを1割上げて2.2グレイずつの照射にするとほとんど全員に下痢が起こる、という具合だ。
耐用線量に影響を与えるもう1つは、照射範囲(体積)である。範囲が大きくなればかけられる線量は少なくなる。たとえば先ほどの皮膚7×5センチから12×10センチに増えれば、20グレイかけられたものが15グレイしかかけられなくなる。つまり、照射範囲は小さくなればなるほど放射線はたくさんかけられ、治療効果は上がるというわけだ。正常組織への照射はできるだけ避け、がん病巣だけをねらい打ちするピンポイント照射は、ここから生まれ、これがガンマナイフやリニアック(直線加速器)による3次元照射、粒子線治療(陽子線治療と炭素イオン線治療)などの出現となり、今日の放射線治療の大きな流れになっている。このように放射線治療技術は、一般的に抱かれているイメージとは違って、大きく進歩し、障害を少なくして治療効果を上げる、患者にやさしい治療となっているのだ。
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