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鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談
病気にはなったけど 決して病人にはなるまい 田部井淳子 × 鎌田 實
女性初の7大陸最高峰登頂者が 乳がん手術、子宮摘出、がん性腹膜炎を発症し余命3カ月と宣告されて
今から約40年前、女性で初めて世界最高峰・エベレスト登頂を成し遂げた田部井淳子さん。
その後も、女性初の7大陸最高峰登頂者となり、女性登山家として押しも押されもせぬ第一人者である。田部井さんは、2008年に乳がんの手術をし、2012年にはがん性腹膜炎の抗がん薬治療をするなど、ここ5~6年、がん闘病生活を送りながら、大好きな登山を続け、郷里・福島復興のために支援活動に奔走している。
相変わらず超人ぶりを発揮している田部井さんに、鎌田實さんがその活力の秘密を質した。
1939年福島県三春町生まれ。62年昭和女子大学英米文学科を卒業し、社会人の山岳会に入会し登山活動に力を注ぐ。69年「女子だけで海外遠征を」を合言葉に女子登攀クラブを設立。75年エベレスト日本女子登山隊副隊長兼登攀隊長としてエベレストに女性世界初の登頂に成功。92年女性世界初の7大陸最高峰登頂者となる。2000年九州大学大学院比較社会文化研究科修士課程修了。現在までに世界66 カ国の最高峰・最高地点を登頂。近著に『それでも私は山に登る』『山の単語帳』など
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数
乳がんの手術を受け 抜糸もせずに山登り
鎌田 田部井さんと初めてお会いしたのは、3年ほど前でした。尾道でNHKラジオの「鎌田實いのちの対話」の収録をしたとき一緒でしたね。
田部井 そうでした。あれからたった3年の間に、私にもいろんなことがありました(笑)。
鎌田 あのときはすでに乳がんの手術をされていたんですよね。
田部井 乳がんの手術をしたのは2008年です。すぐに山に登ることができたほどで、大したことはなかったんです。
鎌田 あのラジオの座談会でも、山の話ばかりでしたよ(笑)。普通なら、乳がんの手術をしたんだから、山登りは少し控えようということになると思うんですが、そうはならなかった?
田部井 手術する前にまず「終わったら山へ行けますか?」と訊いたんです(笑)。
鎌田 それで抜糸ぐらいはしてから行ったんでしょうね。
田部井 いえ、抜糸しないうちに登りました(笑)。
鎌田 前から山へ行くスケジュールが決まっていて、仲間に迷惑をかけてはいけないと思って、無理したんですか。
田部井 私がツアーの代表者でしたから、それも多少はありました。それよりも行き先が私にとって初めてのバルト三国の最高峰でしたから、とても楽しみにしていたんです。それで手術前に、「手術のあとにバルト三国の最高峰に登りますが、大丈夫でしょうか」と確認したんです。先生は「それはあなたの経過次第です」と言われました。
鎌田 保証はしてもらえなかったんだ。でも、行くことを前提に手術に踏み切った。
田部井 手術が出発の10日ぐらい前でしたから、10日あれば大丈夫だと思って(笑)。しかし、抜糸が間に合わなかったので、先生から消毒セットを渡され、「ちゃんと消毒してくださいよ」と言われましたよ(笑)。
鎌田 乳がん治療では、放射線とか抗がん薬とかホルモン療法とか、何かやったんですか。
田部井 28回の放射線治療をやり、*アリミデックスという薬を5年間飲みました。
鎌田 放射線治療の合間にも山へ行っていたんですか。
田部井 いや、放射線治療は間を空けてはいけないということで、1カ月びっしりやりました。
*アリミデックス=一般名アナストロゾール(ホルモン薬)
「山登りに支障はないですか」と尋ねる鎌田さん
山登りを始めてからポジティブになった
鎌田 それにしても、がんの手術後、抜糸もしないまま山へ登るなんて、よほど山が好きなんですね。田部井さんは山で何回も死にかけていますよね。
田部井 3回ありました。そのうち1回はエベレストです。35歳のときでした。
鎌田 そのときの話をラジオの収録のときに聞きましたが、感動しましたよ。田部井さんは登攀隊長としてエベレストに登っていて、途中で雪崩に遭ったんですよね。しかも田部井さんが怪我を負った。普通ならそこで下りると思うんですが、田部井さんは下るほうが危険と考えて上りを選択し、女性として世界で初めてエベレスト登頂を成し遂げた。
田部井 あのときの雪崩は規模が大きかったんですが、すぐにシェルパも隊員も誰も死んでいないことがわかったんです。あれだけの雪崩で全員無事だった。だったら、あきらめることはない。そう思ったんです(笑)。
鎌田 ベースキャンプの隊長は、「すぐに下りてこい」と連絡してきたんでしょう?
田部井 はい。でも帰りの道にアイスホールという難所があるんです。雪崩でパニックになり、隊員に精神的な動揺が残ったまま、その難所を下りるのはむしろ危険だと考えました。
鎌田 そのとき他の隊員たちの気持ちも同じだったんですね。
田部井 「田部井さんが下りないんだったら、私たちも下りません」と言ってくれたのが心強かったですね。
鎌田 田部井さんは山に対しても、がんに対しても、楽観的と言いますか、向き合い方が常に前向きなんですね。子どもの頃からそうだったんですか。
田部井 違うんです。子どもの頃は気が小さいし、くよくよするし、落ち込むし、慎重だし、石橋を叩いても渡らないような女の子でした。山へ登るようになってから変わってきたかなと思います。
鎌田 山へ登るようになってから、ポジティブになったというのは、どうしてでしょうね。
田部井 山に登るようになって、いろんな経験をしました。同じ列車の隣に乗り合わせた人たちが、同じ岩場を登っているときに滑落して、アッという間に亡くなるというような経験を重ねると、人はいずれ必ず死ぬんだということを、若いうちから感覚的に理解するんですね。そして、そういう現場に遭遇すると、人間はどうしてもパニックになります。私もそうでした。しかし、何回もそういう経験を積み重ねているうちに、パニックになっても何も解決しないということがわかって、「まず騒ぐな」という身の処し方を身につけたような気がします。
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