鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

治ると思ってがんに対峙するのと ダメだと思って対峙するのとでは全然違う 与謝野 馨 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成/江口 敏
発行:2014年4月
更新:2019年7月

  

35年間に7回がん宣告を受けた「全身がん政治家」が今、語る憂国の情

文部大臣、通産大臣、官房長官、経済財政担当大臣など、政治の世界で数々の要職を歴任してきた与謝野馨さんは、初当選の翌年から35年間の長きにわたって、がんと闘ってきた。一昨年の師走選挙前に政界引退をしたが、下咽頭がん手術で一時失った声も、気管食道シャント法と呼ばれる手術で取り戻し、筋金入りの財政再建論者として、アベノミクスの行方を注視している。

その与謝野さんに、安倍内閣でのばらまき復活を危惧する鎌田さんが、長い闘病生活から財政再建の行方などについて聞いた――。

与謝野 馨さん「つらさを乗り越えられるかどうか、本人の意思力次第です」

よさの かおる
1938年、東京生まれ。63年、東京大学法学部を卒業し、日本原子力発電に入社。その後、中曽根康弘議員秘書を経て、76年、東京1区から衆議院議員に初当選。その後、文部大臣、通商産業大臣、自民党政務調査会長を歴任し、第1次安倍内閣で内閣官房長官、麻生内閣で財務・金融・経済財政担当大臣。自民党離党後、たちあがれ日本の結党に参加し、菅直人内閣で経済財政担当大臣として入閣した。平成12年に政界引退。初当選の1年後から35年間、がん闘病生活を送っており、著書に『全身がん政治家』(文藝春秋)など多数
鎌田 實さん「やるべきことをやったら、余計なことは心配するな、ということですね」

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

消費税を増税しても 今のままでは財政破綻

鎌田 与謝野さんは財政再建論者として、自民党の麻生内閣や民主党の菅内閣で経済財政担当大臣を務め、プライマリーバランス(基礎的財政収支)を改善するために、消費増税の路線を敷かれましたが、最近のアベノミクスのもとでの財政状況はいかがですか。

与謝野 私は以前から、消費税を上げるのが危機的状況にある日本の財政を改善する唯一の道だと思っていました。そこで私たちは、消費増税を国民にどうお願いしようかと考え、「消費増税分はすべて社会福祉に使います」と言ってきたんですが、「女性にも使ってくれ」とか「子どもにも使ってくれ」と言われ、財政状況を改善できないまま、今日に至っています。

平成25年時点で言えば、消費税1%は約2兆8000億円に相当します。消費税が10%になると、国・地方合わせて年間28兆円が入るわけです。しかし、今の金融財政政策を続けていたのでは、消費税を10%にしても、財政はいずれパンクしますよ。

鎌田 東日本大震災からの復興を含めて国土強靱化に巨額の資金を投じるとか、2020年の東京オリンピックの準備もしっかりやらなければ、という考え方もわからないではありませんが、同時に財政規律をきちんとさせておかないと、せっかく消費増税を国民にお願いした意味がわからなくなり、国家財政はますます悪化しますよね。

与謝野 おっしゃるとおりです。もともと日本の人口構造が不幸な形になっていて、少子化で人口は減っていき、働く世代も減少傾向にある一方、高齢者は増える傾向にあり、福祉に対する要望はますます強くなっている。ですから、「消費税を上げてもどうにもならないだろう」と言う人もいます。

しかし、私は「消費税を上げたほうが、上げないより傷は浅いよ」と言ってきました。そして、2015年ぐらいにはプライマリーバランスがとれる状況にし、2020年ぐらいから国債累積残高を減らせるようにしたい、という絵を描いていました。しかし、財政規律を無視したような昨今の金融財政政策を見ていると、とても借金を減らせるとは思えません。

また、消費税を来年秋から10%に上げたとしても、増税分は福祉に回されず、他の分野に回される可能性があります。それで超高齢社会に対応できるかどうか、本当に心配です。

「今の金融財政政策を続けていたのでは、消費税を10%にしても、財政はいずれパンクしますよ」と危惧する与謝野さんと
「財政規律をきちんとしなければ国家財政はますます悪化しますよね」と応じる鎌田さん

政治家が慎むべきインフレで景気回復

鎌田 アベノミクスはデフレ脱却が当面の目標とされ、日銀は「異次元の金融緩和」を断行し、2%のインフレをターゲットにしていますよね。これで本当に日本の経済・財政が立て直せるのでしょうか。

与謝野 先日、中学のクラス会に出ると、経済に詳しいクラスメイトが、「日銀がいくらお金を用意したって、使う場所がないよ」と言っていましたよ。金融緩和というのは本来、市場にお金がないから経済活動がうまく回らないという状況のときに、市場にお金を供給してあげて、経済活動を回転させることによって、景気を好くすることを目的に行われるものです。しかし、現在は、大震災復興は別にして、経済界に資金需要がないのに、異次元の金融緩和を行っている。輸血の必要がない人にどんどん輸血しているようなものです。

私が恐ろしいと思うのは、政治家がインフレを景気回復の道具に使うことです。これはやってはいけないことです。景気は一時的に回復したように見えたとしても、実際には、働く人たちが何十年も一生懸命汗水垂らして蓄えてきたものの価値が、インフレによって下がるわけですからね。政策としてお金を刷りまくるのは不健全で、私はとても賛成できません。実質的な経済成長は決して悪い話ではありませんが、カラ元気の見かけ倒しの成長では意味がありませんよ。

鎌田 実は、この10年間に医療福祉関係の雇用は238万人増えています。本来なら、雇用が増えることは資本主義社会にとっていいことですよね。その人たちがきちんとした給料をもらい、30歳前後で結婚して子どもを授かり、40代でローンを組んで家を持つ。そうなれば当然、内需の好循環に貢献できるはずです。

ところが、一部に「福祉は金食い虫だ」という誤った考え方があって、福祉関係予算は抑制、抑制の経過を辿ってきました。したがって、福祉関係の仕事に従事している若者たちの給料は低く抑えられ、結婚できない、子どもも作れない、家も持てないという状態で、辞める若者たちも少なくありません。消費増税の増税分をきちんと福祉に回し、また、コンクリートに回す予算の一部を少しでも医療福祉に回して、医療福祉を担う若者たちの給料をもう少し上げればいいと思うんですけれどね。

与謝野 若者が非正規雇用を余儀なくされ、低賃金のために結婚できないというのは、本当にかわいそうですよ。小・中・高・大学で一生懸命勉強した若者が就職できないというのは、いい社会ではありませんね。かつての日本社会は、自分が勤める企業に忠誠心を持って働き、企業の成長とともに自分も成長するという、二人三脚的な考え方が根づいていました。

ところが、バブル崩壊以後、リストラ、リストラで、企業家はつらい部分を働く人に押しつけてきました。同じ会社で同じ仕事をしているのに、正規と非正規では給料や社会保険の給付が違うというのはおかしい。マルクスも「同一労働・同一賃金」と言っていますよ。終身雇用というセーフティネットがなくなって久しいですが、自民党も民主党も、雇用政策の中に安心して働くことができる仕掛けを考えるべきです。私は最近の世界の政治・経済情勢を見ていて、政治家の能力が落ちてきているような感じを禁じ得ませんね。

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