鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

5年、10年と節目をつけ、少しドキドキしながら、娘を見守っていく 女優/タレント・麻木久仁子 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成●江口 敏
発行:2013年8月
更新:2019年7月

  

脳梗塞、乳がんと50歳を目前に病魔を克服した知性派タレント

モデル、女優、司会、クイズ番組などで活躍しているタレントの麻木久仁子さんは、昨年、乳がんの手術を受けた。数年前、スキャンダルに巻き込まれたことは記憶に新しいところだが、その直後に脳梗塞も発症し、ここ数年、厳しい逆風を経験してきた。もともと、石橋を叩いて渡るタイプだが、なぜか石橋から落ちてしまうという麻木さん。乳がんを乗り越えた今、司会で身につけた「仕切り上手」からの新たな飛躍を期している。

 

麻木久仁子さん

あさぎ くにこ
1962年、東京都大田区生まれ。学習院大学中退後、芸能活動に入り、東京ディズニーランド開園のCMに出演するなど、モデルとして活躍し、NHKドラマ「シャツの店」で女優としてもデビュー。その後、生放送番組の司会も担当し、知性派タレントとして認知される。最近は、クイズ番組の回答者や情報番組のコメンテーターとして活躍中。2010年に脳梗塞を発症、2012年に乳がんの手術を受けた

 

鎌田 實さん

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

石橋を叩いて渡るのになぜか石橋から落ちる

「とても面白い生き方をしてるなって」話す鎌田さんに、「いつも石橋を叩いて、大丈夫だと思って渡るのですが、なぜか石橋から落ちるんです」と笑いながら話す麻木さん

鎌田 麻木さんを見ていると、いつも、ちょっと変わった人で、とても面白い生き方をしてるなって(笑)。

麻木 えっ、息も絶え絶え、あちこちにおでこぶつけてるんですけど(笑)。

鎌田 いや、私自身、自分もちょっと変わった人間だと思っているんです。実は今年、6週間ほど、取材を兼ねてアフリカに行ってきました。人類がアフリカに誕生し、21世紀に生きるわれわれが、アフリカに生まれたホモサピエンスの血を引いていることは間違いないんだけど、人類はなぜ住みやすいアフリカを出たんだろうということに関心があって、人類の骨がたくさん出ている大地溝帯の周辺を旅してきたんです。

そこで私が気がついたのは、人間は自然界では弱い存在ですから、子どもたちを守るために家族をつくるしかないし、さらに猛獣などから身を守るためには、コミュニティーをつくるしかなかったわけです。ところが、そのコミュニティーに収まり切らない人たちがいた(笑)。そういう変わった人たちが何代もかけて「出アフリカ」に成功し、さらに何万年もかけて、ベーリング海峡を渡り南アメリカの最南端に達する、グレートジャーニーを成し遂げた。言ってみれば、私たちは変わった人たちの末裔で、私も変わった人が好きですから、麻木さんもそういう意味で変わった人だなと思うんです(笑)。

麻木 そう言っていただくと、何かすごくうれしいです(笑)。ただ、私自身の自覚としては、自分は突出したところがなく、ごく普通の、面白みがない人間だなと、子どもの頃からずっと思ってました。ですから、大人になったら何やろうかなと考えたときにも、学校の先生とか、区役所とか、固い職場がいいなと。

鎌田 あっ、そうなんだ!

麻木 私は今日に至るまで、自分から進んで冒険をしたことは1度もないんですよ。いつも石橋を叩いて、大丈夫だと思って渡っているんですが、なぜか石橋から落ちるんです。私としては不本意というか、「おかしいなぁ。叩いて叩いて渡っているのに」と(笑)。ですから、私自身はアフリカを出る気が全然ないのに、気がついたら出てしまっているという感じでしょうか(笑)。

鎌田 月刊「文藝春秋」7月号で、麻木さんが子どもの頃に家を出て行かれたお父さんへの手紙を読みました。お父さんも変わってますよね。

麻木 いや、父は有り体なお父さんという形をすごく守ろうとしていた人です。だから、子どもたちにとっては面白みがなく、鬱陶しい存在でした。父としては誰からも文句を言われない、きちっとした形に収まる父親像をつくろう、つくろうと努力していましたが、結局できなかった。その性分が私にもあるような感じがします。ですから、私には、思い切って冒険する人や、人から何を言われても気にしないで、自分がコレと思った道を進む人を尊敬したり、憧れたりする気持ちが強いんです。

ネジが1個足りないとよく娘に言われます

鎌田 私は、麻木さんの人生が波瀾万丈なのは、もともと好奇心が旺盛で、面白いと思ったことにどんどんアプローチしていく人だからかな、という印象を持っていました。

麻木 好奇心が旺盛というよりも、むしろ、好奇心の赴くままに突き進んでいく人に対する憧れを、とても強く持っているということです。心のどこかに、私も好奇心の赴くままやってみたいと思うところがあるのかも知れない。いくつか選択肢があって、長いこと逡巡しながら考えに考えて、突き詰めていったとき、最後の二択でもうどうにでもなれという感じで、エイヤッと選択するのは、大抵、好奇心が赴くほうと言いますか、不用心なほうを選ぶ傾向があります。

鎌田 私もそっちのほうが好きだな。

麻木 でも、長いこと逡巡したわりには、いつも「下手の考え休むに似たり」という結果になるんです。だから、娘から「ネジが1個足りない」と言われてしまう(笑)。私としても、もうこんな人生はイヤで、そろそろ穏やかに静かに生きたいんですけれど(笑)。

鎌田 考えに考えて、わざわざ苦労が多いほうを選んでしまう。そこが人間の不思議なところですよね。

先日、車イスの人たちを連れて、総勢70人でハワイへ行ったとき、結婚式に立ち会いました。新婦は頸椎損傷で手足が動かない、しかも大腸がんの手術をし、肝臓への転移もある40代の女性で、新郎は26歳の健常な青年です。その女性はとても笑顔が素敵で、その笑顔で新郎を射止めたということです。女性にお金があるわけでもなく、男性にとって彼女と結婚することは、その女性の世話をすることが前提になるわけですが、新郎は「この人と一緒にいると、気持ちがとても穏やかになるんです」と言ってました。

麻木 とてもいいお話。私、あやかりたいです。

鎌田 彼も大いに逡巡したと思いますが、そういう選択のできる人がいるんですよね。とてもすばらしい結婚式でしたよ。

麻木 私は今、50歳ですが、数年前、騒動に巻き込まれたとき、若い人ならいざ知らず、こんないい歳をしたオバサンのことで、そんなに騒ぐことないじゃないのって感じもありました。自分でエイヤッと選んだことだけど、私としては反省もするし、後悔もするから、もう勘弁してほしいという感じでした。

その後、少し落ち着いて振り返ってみると、石橋を叩いて渡ったつもりでも橋から落ち、逡巡しながらも考えに考えて、エイヤッと決断しても失敗する。これは私の性分でもう直らないだろう。だったら、もうこれ以上、逡巡しながら考えることも、反省し後悔することも、自分に期待することもやめて、そろそろ穏やかにと思ったときに、病気になって……。

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