鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

人間を診ないロボット医師にいのちを預けるわけにはいかない なかにし礼 × 鎌田 實 (前編)

撮影●板橋雄一
構成/江口 敏
発行:2014年10月
更新:2018年9月

  

食道がんの切除手術を拒絶し、陽子線治療で生還した直木賞作家の人生観とは?

なかにし礼さんといえば、歌謡曲のヒットメーカーとして一時代を築いた作詞家であり、『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞した作家として知られるが、2年前、食道がんを患い、名医の切除手術を拒否し、陽子線治療に辿り着いて生還した、硬骨漢でもある。なかにしさんのヒット曲を愛唱する鎌田さんが、2号にわたりなかにしさんに迫る――。

なかにし礼さん「モルモットでいい。失敗してもいいからやってみてください」

なかにし れい
1938年、中国黒龍江省(旧満洲)牡丹江市生まれ。立教大学文学部仏文科卒業。在学中より、シャンソンの訳詞を手がけ、その後、作詞家として活躍し、日本レコード大賞ほか多くの音楽賞を受賞。その後、作家活動に入り、2000年に『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞。その他、主な著書に、『赤い月』『兄弟』『夜盗』『戦場のニーナ』『生きる力―心でがんに克つ』『天皇と日本国憲法』など。2012年、食道がんを発症、切除手術を拒否し、陽子線治療でがんを治療した
鎌田 實さん「自分の歴史、自分の人生観を見てくれという思いだったんですね」

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

人間性を無視した食道がん切除を拒否

鎌田 なかにしさんの『生きる力―心でがんに克つ』(講談社)を読ませていただきました。見つかった食道がんはかなり大きかったようですね。

なかにし 一辺が4㎝大の四角いがんでしたね。最初見たとき、ぞっとしました。

鎌田 最初にまず、内視鏡の有名な専門医に、内視鏡による粘膜切除術ができるかどうか、確認されていますが、「ダメだ」と言われた。

なかにし 内視鏡手術を行うには、時期が大幅に遅れていたんです。

鎌田 そこで外科手術の先生を紹介されますよね。どんな気持ちでしたか。

なかにし いやぁ、ちゃんとした先生に紹介されて名医のもとに行ったわけですから、そう無碍に拒否するわけにはいかない。しかし、あまりにも非個性的というか……。やはり、がんって細胞でしょ。だからもう少し、ぼくの細胞っていうか、人間というか、そういうものに関心を持っていただいてもいいのに、それが何にもない。

ぼくは心臓に負担があるから、全身麻酔で長時間の手術には耐えられないことはわかっているはずですが、それを言っても、聞かないんですよね。「なかにしさんはどう見ても、心臓を患っているようには見えない。仕事の量から見ても、全然、心配ない」って言うんです(笑)。とにかく、「切りたい」「切ろう」「切るべきだ」一辺倒なんです。2人目、3人目の先生も同じです。それで4人目の先生のところへ行ったとき、「これはちょっと変だ」と思ったんです 

鎌田 手術の関係で4人の先生に会ったけれど、納得のいく説明は得られなかった。

なかにし それでパソコンで「世界の食道がん治療法の趨勢」を調べると、日本は7割強切るが、ヨーロッパは7割強切らない。これは一体何なんだ。そこがぼくの疑問の始まりです。日本ががんの切除手術を始めて40年以上になるようですが、その間、ずうーっと切ってきて、それが日本の伝統的ながん治療法になっている。ヨーロッパでは時代とともに切る症例がどんどん少なくなり、現在では2割ぐらいにまで減っている。つまり、世界の趨勢は切らない方向に行っているなと。

鎌田 実際にそうなんです。

なかにし だとしたら、切らない方法を考えてもいいのではないかと。

切除手術では俺は死ぬ 切らない方法にかける

鎌田 『生きる力』の中では、医者のことを「まるでロボットのようだ」と書かれてますね(笑)。26歳のときに心筋梗塞を起こし、54歳のときに心室細動で死にかけた男が、70歳を超えたところで、大きな食道がんになった。それでも切ろうとする医者に対して、自分の歴史、自分の人生観をきちんと見てくれという思いだったんですね。

なかにし そうです。ぼくは心臓病で倒れ、九死に一生のような助かり方をし、現に心筋梗塞を抱えて薬も処方してもらって生きている。何とかいのちをつないできているぼくの歴史に関して、何の関心もない。どんな薬を飲んでいるか、質問もない。ぼくが「医者はロボットだ」と言うのは、医者にとっては、ぼくという人間はどうでもいいわけで、要するに患者なんですよ。心臓を患っている人間が抱えているがん、というような想像力もいっさいなくて、ただ1人の患者がいるというに過ぎない。

鎌田 なかにしさんが50歳代だったら、また違った印象を受けたかもしれませんね。

なかにし 幸い、ぼくは病気だったし、いろんな経験もしていて、いい歳でもあったから、そういう感じ方をしたんだと思います。

家内などはぼくががんになるとはつゆほども思っておらず、がんの知識もなかったから、「あなた、切って治るものなら、切りましょうよ」と。「おまえね、切ったら俺死ぬよ」って言いましたよ。がんの手術が成功しても、心臓が耐えられなくなり死ぬだろうって思いました。ですから、「まだ全然可能性がないわけじゃないから、俺は切らないで治す方法に全面的にかけたい。納得してくれ」って、家内に言いました。「それで治らなくてもいいの?」って言うから、「全然、OKだ。切れば、その場で死ぬんだから」と言うと、納得してくれました。切らなくても、延命措置をとりながら、いろんな療法をやって、いくらかでも生き延びればいい、という感じでしたね。

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