大きな腫瘍や腺がんに対して期待のもてる治療法
ピンポイントかつ高い有効性 まだまだ発展する重粒子線治療
現在のがんの標準治療は、外科手術、化学療法、放射線(X線)治療の3つだ。それに加え、放射線の1種である重粒子線による治療が急速な進歩を遂げてきた。重粒子線治療とはどのようなものか、子宮頸がんではどのようなケースに有効なのか。
日本が世界をリードする重粒子線治療
重粒子線治療は放射線治療の一種で、水素イオン(陽子)よりも重い粒子を加速器で光に近い速さまで加速させたものを、がんに照射し治療する。現在はどのがんに対してもまだ保険適用されていない。
「重粒子線治療ができる施設は日本に4カ所ありますが、日本以外ではドイツとイタリアの2つだけです。日本が世界をリードする分野です」
と放射線医学総合研究所(放医研、千葉市)の若月優さんは話す。
日本の中でも中心的な役割を果たしている放医研では、HIMACという世界初の重粒子線治療装置を使って、1990年代半ばから安全性と有効性を調べるための臨床試験と、先進医療としての治療を行ってきた(図1)。
HIMACは、サッカー場ほどの広さを持ち、イオン粒子を直径42メートルの加速器で光速の約84%まで加速して、そのまま治療室に運ぶ大掛かりな装置だ(図2)。
図2 放医研の重粒子線治療装置 HIMAC
線量集中性と難治性がんへの有効性
「重粒子線治療の特徴は大きく2つあります。1つは『線量集中性がいいこと』。いわゆるピンポイント照射ができます。もう1つは『難治性のがんに効く』ということです」
骨軟部肉腫や悪性黒色腫が難治性がんの代表格だ。若月さんはさらに続ける。
「標準治療ができるがんでも、より安全に、より短期間でということを求めて肺がんや前立腺がんで行われています。肺がんでは1日で終了する方法もあります」
生物学的効果はX線の2~3倍
線量集中性を図式化すると図3のようになる。「標準治療の放射線治療(X線)では、体の奥に入って行くほど影響力が下がりますが、重粒子線治療では影響力の大きさを体内の標的であるがんの部位に設定できます」
次に、重粒子の〝力〟。
「どれだけがん細胞を死滅させるかを生物学的効果と言いますが、炭素イオンはX線の2~3倍高いことがわかっています」
放射線治療はがん細胞のDNAを切断するのが目的だが、X線では2重らせん状のDNAの片方だけの切断になることが多い。それに対し、炭素イオン線は両方を切断することが多いため、より高い確率でがん細胞を殺すことができる。重い粒子ほどDNAを損傷させる力となる電離密度が高いことがその力の理由だ。
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