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世界80カ国以上でHPVワクチンは定期接種に 子宮頸がんは、検診とワクチンで予防できる!

監修●宮城悦子 横浜市立大学医学部産婦人科学教室主任教授
取材・文●菊池亜希子
発行:2019年7月
更新:2019年9月

  

「女性だけでなく、男性も自身のこととしてHPVワクチン接種を考えるようになってほしい」と語る宮城悦子さん

現在、世界の先進各国では子宮頸がんの罹患数が減少し始めている。ところが若年女性の罹患数、死亡数ともに増加の一途をたどる日本。そこには検診受診率の低迷があるとともに、将来的にはHPVワクチン接種率も影響してくると考えられる。この現状を受けて、今、日本が考えなくてはならないことを横浜市立大学医学部産婦人科学教室主任教授の宮城悦子さんに伺った。

HPVに感染したら子宮頸がんになるの?

現在、日本では年間およそ1万人が子宮頸がんに罹患し、約2,900人が命を落としている。その数は年々増加しており、とくに若年層の20~40代での増加が目立っている。

そもそも子宮頸がんとは、どのような病(やまい)なのだろうか。

子宮がんには子宮の入口付近(子宮頸部)に発生する子宮頸がんと、子宮の奥(子宮体部)に発生する子宮体がんがあり、この2つは原因も特徴も異なる。

子宮体がんの多くは女性ホルモンのエストロゲン依存によって起こるため、肥満や高血圧症、糖尿病などがリスクとされ、更年期以降の女性に多く発症する。一方、子宮頸がんのほとんどがヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:以下HPVと記述)というウイルス感染が原因であることが科学的に証明されている。

HPVは100種類以上あるごくありふれたウイルス。その中でがんを引き起こす高リスク型HPVは16型、18型を筆頭に15種類あり、これら高リスク型HPVへの感染が子宮頸がんの原因である。

感染経路は性的接触。過去に1度でも性交渉の経験があるならば、誰もがHPVに感染するリスクがある。しかも、性体験を持つ女性の80%程度は生涯に1度はHPVに感染したことがあると推計されるほど身近なウイルスなのだ。

では、HPVに感染したら、どのような経緯を経て、また、どれほどの割合で子宮頸がんになるのだろうか?

性交渉によって高リスクHPVが子宮頸部の粘膜に付着して感染し、子宮の細胞内にウイルスが共存する状態を一過性感染と呼び、その後、細胞の形に軽度の変化が起こると軽度異形成(CIN1)となる。つまり、多くの女性が軽度異形成の状態にはなったが治癒(ちゆ)したことがある、とも言える。通常、ウイルス感染しても、免疫の働きによって、90%以上はウイルスが自然に排除され、治癒するのだ。

ところが「喫煙などによる局所の免疫低下や環境要因など何らかの理由で、ウイルスが排除されることなく細胞内に残り、しかも感染が長期間持続してHPVが持続感染の状態になり、HPVのDNAが子宮頸部の細胞内部のDNAに組み込まれてしまうことがあるのです」と横浜市立大学医学部産婦人科学教室主任教授の宮城悦子さんは指摘する。

この段階が中等度異形成(CIN2)、さらに進行すると高度異形成・上皮内がん(CIN3)となる。中等度異形成ならば、免疫の働きによって軽度異形成に戻り、治癒していくことが多い。ところが高度異形成まで進んでしまうと、血中に入り込んだHPVはがんを抑制する遺伝子の働きを停止させ、浸潤(しんじゅん)がんへ移行する割合が高まる。ちなみに、高度異形成から子宮頸がんに進行する確率は約10~30%と言われている(図1)。

子宮頸がん検診が目指すものと限界

つまり「HPV感染=子宮頸がん」では決してない。たとえHPVに感染しても9割強は自然治癒する。しかし、数は少ないが持続感染から中等度異形成、さらには高度異形成を経て、浸潤子宮頸がんへ移行することがある。その過程を見逃さず、浸潤がんになる手前の前がん病変で見つけ出し、円錐切除などで完治させるために行うのが子宮頸がん検診(細胞診)だ。日本では、中等度異形成までは自然治癒の可能性が高いので経過観察(ハイリスクHPV持続感染の長期存続の場合は治療を開始することもある)、高度異形成に移行した時点で円錐切除を行い、病変を摘出する。

子宮頸がんは、検診が有効であることが証明されている。なぜなら病状の進行が非常に「ゆっくり」だからだ。前がん病変である軽度・中等度異形成から高度異形成までに、年単位の期間を要する。そのため、急速に進展する数少ないケースを除いては、国の指針である20歳以降の2年に1度の検診で前がん病変を見つけ出せる可能性が高い。

ならば、検診を徹底すれば、がんの手前で見つけて円錐切除で済むのだからいいではないか、と考える人もいるだろう。けれども、それは短絡的だと宮城さんは警鐘を鳴らす。

「円錐切除で子宮の入口が狭くなったり閉じてしまうこともあり、月経障害を起こすことがあります。また、子宮頸部が短くなることで将来的に早産の原因になるなど、20~30代の女性には大きなリスクを伴います。また、高齢女性の場合、前がん病変で見つかったとしても、子宮頸部の奥にあって円錐切除では摘出し切れなかったり、そもそも見つかりにくいケースもあるのです。つまり年齢を問わず、検診で見つけて円錐切除すれば良いという考え方は危険と言えるでしょう。さらに、短期間に検診受診率を上げることも非常に難しいのです」

ちなみに、日本での子宮頸がん検診受診率は20~69歳でおよそ40%。十分な受診率にはほど遠い。加えて、検診にはどうしても一定の頻度で「見落とし」が起こることがある。何の検診であれ、検診に絶対はないそうだ(図2)。

2年に1度の検診=日本の住民基本検診(対策型検診)では20歳以上、2年に1度の細胞診による検診が推奨されている。ただし検診には見逃しが起こることもあり、出血や帯下の増加など、自覚症状があればすぐに医療機関を受診することが必須。また、検診は市町村が舵取りをしているので、地域によっては1年に1度行っていたり、独自にHPVテストを導入しているところもある

HPVワクチンのメカニズム

そこに登場したのが、HPV感染そのものを防ぐHPVワクチンである。

HPVワクチンは、HPVの表面抗原(L1タンパク)遺伝子を細胞培養して作り出した不活化ワクチン。言い換えると、表面の殻だけはHPVそのものだが中身は空っぽで、ウイルスとしてのDNAを持たない。ただ、外見がHPVにそっくりなので、接種によって体内に入ってきたワクチンタンパクを、体はHPVと認識して抗体を作り出す。

すると、それ以降に性交渉によって本物のHPVが体内に侵入すると、随時、その抗体が子宮頸部の粘膜に滲出(しんしゅつ)してHPVと結合し、HPV感染そのものをブロックしてくれるというわけだ。

ちなみに、性体験を持つ女性の80%以上が一度はHPVに感染したことがあり、そのほとんどが自然治癒するのだとしたら、その時点で抗体を獲得しないのだろうか?

「いいえ。性交渉によってHPV感染しても、ウイルスは局所に存在するだけで血液の中にまで入ってきません。そのため再感染を防ぐ十分な抗体は作られないのです」

HPV抗体は自然治癒によっては獲得できない。だから、たとえ自然治癒しても何度も感染するし、いつどのタイミングで前がん病変に移行するとも限らない。

一方、筋肉注射によるワクチン接種という形で偽(にせ)の抗原を体内に入れると、体はHPV抗体をしっかり作り出すことができるという。とはいえ、既にHPVに持続感染している細胞からHPVを排除することはできない。ゆえに、性交渉を体験する前の10代での接種が行われているのだ。

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