わたしの町の在宅クリニック 2 クリニック川越

老舗在宅クリニックの要はホスピスケアチームの力

取材・文 ●黒木 要
発行:2014年5月
更新:2020年1月

  

クリニック川越院長の
川越 厚さん
医療法人社団パリアン クリニック川越
 
〒130-0023 東京都墨田区立川2-1-9 KHハウス3階
TEL:03-5669-8301 FAX:03-5669-8303
URL:www.pallium.co.jp/clinic_zaitaku
 


わが国で緩和ケア病棟入院科が診療報酬に新設されたのは1990年。川越厚さんはこの頃より、がん患者さんの「在宅ホスピス」に取り組み始めた。まだどちらも狭い範囲でしか提供されていなかったホスピスケアと在宅ケア。それを兼ね備えたケアだ。婦人科腫瘍専門医として精力的に働いていたところからの転身に、仲間からは奇異の目で見られたそうだ。そんな川越さんは、末期がん患者さんの在宅ホスピスケアでは一定の要件が必要だと話す。

今のがん医療で最も手薄な部分

1990年に5病棟117床だった緩和ケア病棟は2012年には257病棟5,101床となった。また緩和ケアチームの設置ががん診療連携拠点病院の指定要件として加えられたこともあり、2012年時点で全国445以上の病院にそれが存在している。こんな情勢の中、在宅ケア、在宅ホスピスの意義について川越さんは「ますます重要になっていきます。在宅ケア・在宅ホスピスは、今のがん医療で最も手薄な部分ですから」と話す。

現在、急性期病院等で提供されている緩和ケアは、痛みの緩和を重視するあまり、精神的痛み、スピリチュアルな痛みを含む全人的なケアに対しては手薄で、終末期にあるがん患者さんをサポートする体制にはなっていないことが多いと言う。

「その点、生活の場である家では患者さんやご家族が最も安らげる場であり、自らの意思を最大限実現できる場でもあります。在宅ケアや在宅ホスピスはその希望をサポートするケアです」

国や新聞などの終末期医療に関するアンケート調査でも、多くの人が在宅ケアを望んでいることがわかっている。だが在宅では痛みや呼吸困難など「いざというとき」の医療に対応できないなどの不安から、在宅ケアを諦めているとの見方がある。これに川越さんは「誤解に基づくもの」と言う。

確かに肺がんなどの終末期では痛みが強く出ることもあり、しばしば医療用麻薬による時間単位のケアが必要になる。呼吸苦の管理も必要で、医療技術的に対応できない在宅医は病院へ搬送手続きをとることも。

「間違わないでほしいのは、それはバックアップ病院に頼る在宅医の限界であって、在宅ホスピスや在宅医療の限界ではないのです。経験豊富な在宅ホスピス医であれば十分に対応できます」ときっぱりと言う。

在宅での看取り率は97%

医療法人パリアンは2000年に開業。内科・婦人科を標榜するクリニック川越、訪問看護、訪問介護、ボランティアグループ、デイホスピスで構成されている。在宅支援の対象地域は墨田区・江東区・江戸川区・台東区・中央区・千代田区・葛飾区。2012年度は常勤医2名、非常勤医33名、常勤看護師99人、非常勤看護師44人の体制だ。

訪問看護パリアン 患者の主な疾患別人数(名) (2012.4.1~2013.3.31)

2012年4月から2013年3月の間に206名のがん患者さんが、それまでかかっていた医療機関からクリニック川越を紹介されて相談外来を受診。相談外来を経ずに直接在宅ホスピスに入った人も7名いた。相談外来を受診した人の82%がパリアンの在宅ホスピスケアを受けている。がん種では肺がん59名、結腸・直腸がん22名、胃がん14名、膵がん12名と続く。在宅ケアの期間は平均46・9日、最も頻度の多い期間は8日だった。死亡場所の内訳は自宅162名、病院1名、緩和ケア病棟4名で、在宅の看取り率は97%であった。

「在宅死の頻度が在宅ケアやホスピスケアチームの総合力を反映しているのは事実で、在宅ホスピスを専門とするグループが携わる在宅死は90%以上になります」

これは、在宅での看取りは医療技術的に十分に可能であることを実証している。

患者・家族に安心を与えるために

長年にわたり在宅での看取りを可能にし、支えているのがホスピスケアチームの総合力だ

この驚異的な在宅死率を支えているのは川越さんが言うようにホスピスケアチームの総合力であろう。

パリアンではチームミーティングを行う部屋の中央に設置してある60インチほどのディスプレイがある。チームの連携に不可欠な患者さん・家族に関する情報を瞬時に呼び出すことができる。現在の状況はいうまでもなくデリケートな患者さんの背景、希望・要望、その変遷も一目瞭然だ。主として看護師と医師が短時間で聞き出したもので、終末期のがん患者さんであれば毎日更新する場合もある。

「それをチーム全員が把握していなければ良いホスピスケアはできません。それができるのはパリアンという場を共有して密な情報交換をしていることが大きい」

看護師や薬剤師など外部のスタッフと連携することはないではないが、いずれも長年にわたり関係を結んでいる人達だ。

パリアンの在宅ホスピスの特徴の1つとして訓練を受けたスタッフによるボランティアグループの活動がある。「デイ・ホスピスボランティア」活動では、ボランティア手作りの食事を共にしながら、悩みを聞く。患者さん同士の交流の場を作る場合もある。

在宅ホスピスケアの医療者側の要件について川越さんは「症状コントロール、起こりうる症状の予想およびその準備、患者さんや家族に対する死の教育。これらの仕事を通して患者と家族に安心を与えることが最も重要です」と話す。

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