【副作用対策】~「プラークフリー」で臨もう~
抗がん薬・放射線治療による口腔粘膜炎 事前準備で症状は緩和できる
がん治療では、抗がん薬や放射線による治療の副作用として口腔粘膜の炎症が起こりやすい。ひどい場合は口からの食事ができない状態になってしまう。しかし、事前の準備で発症可能性を抑えたり、症状を緩和させることができる。
化学療法の40%で口腔粘膜炎
口腔粘膜炎(口内炎)とは、頬の内側や舌など口の中に腫れやただれが生じるもので、抗がん薬や放射線による治療の副作用としても起こる。
「以前は脱毛などに比べて認知度が低かったのですが、最近は患者さんの意識も高まっています。ご自身の事前の努力で症状を緩和できます」と、東京医科大学病院歯科口腔外科・矯正歯科の古賀陽子さんは話す。古賀さんは、医科と歯科の連携により、この分野での患者さんの負担を少しでも減らそうと取り組み続けている。
がん治療により、口腔粘膜炎が起こる割合は、抗がん薬治療を受ける患者さんの40%、骨髄移植を受ける患者さんの75%で、頭頸部がんの放射線治療を受ける患者さんは100%発症するという(図1)。使用される薬剤などの関係から、がん種別では非小細胞肺がんや大腸がんなどに多い(図2)。
重度の場合は、痛くて口から食事を取ることができなくなるため、鼻からチューブを通して胃に直接栄養を送ったり、腹部に胃ろうを作ったりしなければならなくなる。
なお、日本では大規模データベースに基づく報告はない
U.S.,Mattson Jack Database,2003 より引用
抗がん薬は粘膜細胞も攻撃する
なぜ、がん治療の副作用が口の中に発現するのか。「口の周囲への放射線照射があると直接の粘膜障害が起きたり、自浄作用のある唾液の分泌が抑制されるために炎症が起こります。また、抗がん薬は分裂が活発な細胞に作用しますので、正常な細胞も攻撃されてしまいます。口腔粘膜もそれにあたり、影響を受けてしまうのです」(古賀さん)
口腔粘膜炎を起こしやすい抗がん薬としては、シスプラチンやタキソールなどが挙げられる(図3)。
抗がん薬の副作用による口腔粘膜炎は、投与開始後すぐに出るものではなく、4~5日経ったころから現れ始める。粘膜が赤くなったり、はがれたりする。症状は約2週間続き、10日目ころに最もひどくなることが多い。古賀さんはこのパターンをしっかり理解しておくことが大切だという(図4)。
「しばらくは症状が出ません。そして1週間ほどでつらくなります。しかし、患者さんには『必ず症状は治まる』という終点を理解してもらうようにしています。ずっと続くわけではないのです」
それでも、患者さんの中には口腔粘膜炎のつらさから、抗がん薬治療を1クールで打ち切ってしまう人もいるという。副作用が起きないようにすることはできないが、発症の確率を下げたり、症状を軽減したりすることはできる。
*ブレオ=一般名ブレオマイシン *ダウノマイシン=一般名ダウノルビシン *アドリアシン=ドキソルビシン
*ダクチノマイシン=アクチノマイシンD *イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン *エトポシド=一般名ベプシド/ラステッド *5-FU=一般名フルオロウラシル *メソトレキセート=一般名メトトレキサート *TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム *ゼローダ=一般名カペシタビン *キロサイド=一般名シタラビン *ジェムザール=一般名ゲムシタビン *ハイドレア=一般名ヒドロキシウレア *アルケラン=一般名メルファラン *エンドキサン=一般名シクロホスファミド *シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *タキソール=一般名パクリタキセル *タキソテール=一般名ドセキタキセル
医科・歯科連携で口腔ケア外来受診
「口腔粘膜炎は、治療に入る前に対策が立てられます。『プラークフリー』と呼びますが、口の中をきれいにして抗がん薬などの治療に臨めば、発症しても重症になりにくくなります」
口腔内が歯垢(プラーク)や歯石で不潔な状態にあると、口腔粘膜炎は症状がひどくなってしまう。清潔な状態ならば、もし発症しても広がりが小さく済む。
古賀さんのいる東京医科大学病院では、抗がん薬治療が決まると、医師は患者さんに口腔ケア外来に行くように指導する。抗がん薬治療開始までは1~数週間あることが多いので、そこで「プラークフリー」の指導が行われる。
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