intermediate stage(ステージB)肝がんの治療
BCLC肝がん病期分類のサブ分類により、肝動脈化学塞栓療法の適応を厳格化
肝がんの病期分類で国際的に影響力が強い*BCLC(バルセロナ臨床肝がん)病期分類。ところがその中でintermediate stage(インターメディエイト・ステージ:中間期)と呼ばれる、いわゆるステージBに属するものは対象となる症例範囲が広く、様々な治療法が行われており、当然、それによって生存率も異なってくることが予想される。その影響は日本においても無縁ではなく、薬剤溶出性ビーズ(drug-eluting beads;DEB)を使用した新しい肝動脈化学塞栓療法(TACE)や期待の大きい分子標的薬の適応が曖昧になり、欧米の報告を参照することが難しくなるなどのケースが出てくる可能性がある。この問題に詳しい泉 並木さんに、intermediate stageの解釈について聞いた。
肝がん発症の母地が国・地域により異なる
がん治療では、複雑な選択肢を簡潔なフローチャートで示したアルゴリズム(治療手順)は、治療法選択のよいガイド役となる。また最近は病期分類が記された診療ガイドラインがウェブサイトや書籍で公開されているが、肝がんではゴールデンスタンダードとなる世界共通の病期分類を含めた治療アルゴリズム(診療ガイドライン)はなく、国内外でいくつも存在する。
「そこが肝(細胞)がん治療の特殊なところで、どれを参照するかによって治療法が違ってくることもあります」(泉さん)
その背景を泉さんは次のように説明する。
肝がんは、日本を含むアジアではウイルス性のB型・C型肝炎から、また欧米ではそれらに加えてアルコール性肝炎から進展した肝硬変を母地として発症することが多い。「そのため治療はがんの進行度だけでなく、治療に耐えられる肝機能や治療後のQOL(生活の質)を左右する肝機能をどれほど残せるか。また残存肝から再発が高率で起こることを考慮しなければなりません。国内外で有力な病期分類/治療アルゴリズムがいくつも存在するのはそういった理由があるからです」
*BCLC=Barcelona Clinic Liver Cancer
日本で使用される病期分類/治療アルゴリズムとの違い
治療予後を計測し、効果予測する因子はいくつもある。腫瘍因子では腫瘍数や腫瘍径。肝機能ではアルブミン値、総ビリルビン値、プロトロンビン時間、ICG試験、腹水や脳症などである。
そのどれを重視して組み合わせるかで、病期分類や治療アルゴリズム作成に違いが出る。日本では「科学的根拠に基づく肝がん診療ガイドライン」(日本肝臓学会/編)で推奨される「エビデンスに基づく肝細胞がん治療アルゴリズム」が現在、よく用いられている(図1)。
一方、欧米でよく使われるのは前出の「BCLC」病期分類と呼ばれるもの。2000年にスペイン・バルセロナで開かれた欧州肝臓学会(EASL)でコンセンサスを得られた肝細胞がんの病期分類/治療アルゴリズムだ。特徴は、病期ごとの治療法や適応症例率(数)、5年生存率または全生存期間(OS)が付記されている点だ(図2)。
「治療法の適応は厳格で、その選択を明快にする意図のあるステージング(病期分類)に特徴がある」と泉さんは指摘する。
BCLC病期分類の問題点
「BCLC」病期分類では、全身状態(PS)とChild-Pugh分類(肝障害度)に基づき、まずStage0(PS0, Child-PughA)、StageA-C(PS0-2, Child-PughA-B)、StageD(PS>2,Child-PughC)に大きく分類。今回、焦点となるintermediate stageは、StageA-Cをさらに腫瘍数、結節数、門脈浸潤、PSにより、①Early stage(早期:ステージA)、②Intermediate stage(中間期:ステージB)、③Advanced stage(進行期:ステージC)の3つの病期に分類した中間に位置づけられ、具体的には「多結節を有し、PC0」と定義される。
この病期分類は日本の病期分類と比べると、病期によっては対象となる範囲が広すぎて、複数の治療選択があるため、「とても完璧とはいえない」と泉さんは指摘する。
治療法は病期によって大きく左右されるのは世界共通だ。それぞれの5年生存率は国によっても違いがあるが、一般的には手術可能例で50%、ラジオ波などの焼灼(凝固)療法で40~50%、TACEで10%前後とされている。BCLC病期分類のAかBのどちらに分類されるかは大きな問題である。
泉さんによると「ステージBは対象とする症例の範囲がいかにも広すぎる」と言う。
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