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治療選択の拡がりが期待される 肝細胞がんの1次治療に、約9年ぶりに新薬登場!

監修●池田公史 国立がん研究センター東病院肝胆膵内科科長
取材・文●半沢裕子
発行:2018年8月
更新:2018年8月

  

「肝細胞がんの治療がやっと次の時代に突入したかなという感じです」と語る池田公史さん

今年(2018年)3月、マルチキナーゼ阻害薬レンビマが、「切除不能な肝細胞がん」に日本で承認された。これは、切除不能な肝細胞がんに対する世界で最初の承認であり、肝細胞がん全身化学療法の1次治療薬としては実に約9年ぶりの新薬になるという。

肝細胞がんの治療において、この新薬の位置づけはどのようなものだろうか。また、今後の治療にはどんな可能性が考えられるのだろうか。国立がん研究センター東病院肝胆膵内科科長の池田公史さんにお話を聞いた。

ネクサバールに続く1次治療薬の登場

新薬のレンビマはいわゆるマルチキナーゼ阻害薬と呼ばれる分子標的薬だ。

主な働きとしてがんの血管新生を阻害したり、がんの増殖を抑えたりする。血管新生とはがん細胞が血管細胞に働きかけて新たな血管を作らせ、自分に引き込むこと。それにより増殖に必要な栄養や酸素を得ようとする。キナーゼとはタンパク質リン酸化酵素のことで、この酵素はタンパク質をリン酸化することにより、転写や翻訳など細胞の分化に必要なメカニズムなどを発動する。

つまり、マルチキナーゼ阻害薬とはごく簡単にいうと、タンパク質をリン酸化し、メカニズムが作用するための経路を発動しないように、キナーゼを複数(=マルチ)阻害することで、がんの増殖や血管新生が起こりにくくする薬剤のことを指す(図1)。

切除不能な肝細胞がんの1次治療(最初に行う治療)として、分子標的薬ネクサバールが日本で承認されたのは2009年5月だった。以来、ネクサバールは長く標準治療薬として使われてきたが、その後、今日までの約9年間、切除不能肝細胞がんの1次治療薬に新たな選択肢が加わることはなかったという。

今回のレンビマの肝細胞がんへの承認はネクサバールとの比較試験を行い、非劣性が証明されたのを受けてのこと。つまり、薬の効果が、比較する対象(ここではネクサバール)に劣っていないことが明らかになったということだ。レンビマは甲状腺がんの治療薬として米国、日本、欧州など世界50カ国以上で承認を取得している。

また、35以上の国で腎細胞がんの2次治療におけるアフィニトールとの併用療法に対する承認も取得している。その適応が今回、切除不能な肝細胞がんにも広げられたわけだが、世界に先駆けての承認であり、やはり待ちに待った新薬の久々の登場と言えるだろう。

全生存期間がレンビマ群で1.3カ月延長

では、レンビマはネクサバールと比べて、どこがどんなふうに優れているのだろうか。いずれもVEGFR(血管内皮増殖因子受容体)、FGFR(線維芽細胞増殖)、PDGFR(血小板由来因子受容体)などを阻害するという作用機序は似ている。ただし、1つひとつの要素を取り上げて比較することにはあまり意味がないと池田さんは言う。

「分子標的薬にはいろいろなターゲットがあり、それらが相まって基礎的な阻害効果があるということ。どちらも血管新生と腫瘍細胞の増殖を抑制することによって、がんの増殖抑制効果を示す薬剤ですが、レンビマはVEGFR1~3、FGFR1~4、PDGFRα、また血管新生あるいは悪性化に関わる受容体型チロシンキナーゼのKIT、RETなどを阻害し、全体としてネクサバールよりキナーゼの阻害効果が高くなっていると言えます」

今回の承認のもととなったのはREFRECT試験(304試験)と呼ばれる臨床試験。これは切除不能な肝細胞がんで、全身化学療法治療歴のない患者954人を対象とした、レンビマとネクサバールの有効性と安全性を比較する国際多施設共同無作為化非盲検第Ⅲ相非劣性試験である。

954人の患者はそれぞれの投与群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、レンビマ群(478人)では1日1回12mg(体重60kg以上)または8mg(体重60kg未満)が投与され、ネクサバール群(476人)では1日400mgを1日2回投与された。そして、投与はがんの病勢が進行するか、有害事象が忍容できなくなるまで続けられた。

主要評価項目は全生存期間(OS)で、前述したように非劣性かどうかを検証することを目的とするが、結果はレンビマ群13.6カ月、ネクサバール群12.3カ月と非劣性が証明された(以下、数値は「中央値」)(図2)。

■図2 REFRECT試験結果(切除不能肝細胞がんで、全身化学療法治療歴のない患者)

出典:「レンビマ」の肝細胞がんを対象とした臨床第III相試験について米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム発表(エーザイ)

*1 PFS=無増悪生存期間 *2 TTP=無増悪期間 *3 ORR=奏効率 *4 主治医判定=各医療機関の治験担当医が一定の基準にしたがって判定する *5 独立画像判定=画像評価の均一性を保つために、試験実施医療機関から独立した検査機関で判定 *6 mRECIST=肝がん治療効果判定に血流評価を加えた基準 *7 RECIST1.1=2000年に固形がんにおける効果判定基準RECIST1.0が公表、2009年にRECIST1.1改訂 *8 ハザード比=治療効果の指標。危険性の程度を示す。ハザード比の数値の解釈はオッズ比と同様 *9 オッズ比=治療効果の指標。オッズ比が1であれば同等、1より小さいと薬効あり、1より大きいと薬害 *10 P値=有意確率(P<0.05で有意差あり)

無増悪生存期間と無増悪期間は2倍、奏効率は3倍近くに

上記の数字だけを見ると1.3カ月の延長であり、つい「効果はほぼ同じということか」と思ってしまうが、内容をよく見ると、かなり期待が持てることがわかる。

副次評価項目を見てみよう。まず、無増悪生存期間(PFS)はネクサバール群3.7カ月に対し、レンビマ群が7.4カ月、無増悪期間(TTP)はネクサバール群が3.7カ月、レンビマ群が8.9カ月。薬剤を投与してからがんが進行するまでの期間が2倍以上に延びている。

奏効率(ORR、がんが30%以縮小した患者さんの割合)はネクサバール群が9%、レンビマ群が24%と3倍近い。さらに、QOL(生活の質)に関し、臨床的に重要な悪化が認められるまでの期間を比較したところ、ネクサバール群/レンビマ群において、下痢は2.7カ月:4.6カ月、痛みは1.8カ月:2.0カ月、役割機能1.9カ月:2.0カ月(EORTC QOL-HCC30)という結果になっている。

池田さんは語る。

「全生存期間はハザード比が0.92であり、ネクサバールより若干ではありますが、良好な生存期間の延長が示されていると言えます。また、試験に参加された患者さんの肝臓の腫瘍マーカーAFPはレンビマ群の患者さんのほうが高かったことがわかっていたため、数値を調整した結果、ネクサバールに比べて有意な延命効果が認められています。さらに無増悪生存期間も奏効率も良好で、有害事象はほぼ同等。QOLもどちらかというとレンビマのほうが良好である。コストについてもレンビマのほうが安い。となれば、悪い要素はほぼないということになると思います」

レンビマ=一般名レンバチニブ ネクサバール=一般名ソラフェニブ アフィニトール=一般名エベロリムス

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