高い治療効果が期待できる 切除不能・進行肝細胞がんの最新化学療法
木下晃吉さん
肝細胞がんは、肝炎ウイルス感染による慢性肝炎や肝硬変、最近では生活習慣病などに起因する脂肪肝が原因となる予後不良のがんである。そのような肝細胞がんで、切除不能・進行肝細胞がんに対する化学療法が、近年めざましく進化している。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の併用療法への有効性が高まり、治療の選択肢が広がっている。
そこで、最新の切除不能・進行肝細胞がんの化学療法について、東京慈恵会医科大学第三病院消化器・肝臓内科准教授の木下晃吉さんに伺った。
転移なければ、化学療法、肝動脈化学塞栓術、肝動注化学療法の選択肢
切除不能・進行肝細胞がんとは、腫瘍が4個以上多発していたり、腫瘍径が大きかったり(3cm以上)、血管に浸潤(しんじゅん)していたり、他の臓器に転移していたりする場合を指す。肝切除術やラジオ波焼灼術(RFA)では治療が難しく、化学療法が治療の主体となる。
「切除不能の肝細胞がんの場合、他臓器への転移がある場合には、全身療法である化学療法が選択肢になります。また、肝臓の外に転移がない場合には、化学療法、肝動脈化学塞栓(そくせん)術(TACE)、肝動注化学療法(HAIC)という3つの選択肢があります」
そう説明するのは、東京慈恵会医科大学第三病院消化器・肝臓内科准教授の木下晃吉さんだ。
進行肝細胞がんの場合は、肝機能の程度が治療を進める上での大きなカギになるという。治療法を選択する際の肝機能の確認には、従来「Child-Pugh分類」(A、B、Cの3段階に分けられる。AかBの分類が治療を行う目安)が用いられてきたが、最近ではALBIグレード(1、2、3の3段階に分けられる)という分類を用いることもある(図1)。
「カテーテルで肝動脈に抗がん薬を注入した上で、がんに栄養を運んでいる動脈をゼラチンのような物質で塞いで、がんを〝兵糧攻め〟にするのが肝動脈化学塞栓術です。ところが、このカテーテル療法をやり続けていると、効かなくなりますし、肝臓をいためてしまいます。そこで、従来この塞栓術を行っていた患者さん、とくに腫瘍の数が多かったり、腫瘍のサイズが大きかったりする場合には、最近は、最初の治療から分子標的薬での化学療法を行う傾向にあります。
また、肝動注化学療法とは、リザーバーという小さな器具を皮下に埋め込み、そこから抗がん薬を注入する治療法で、主に日本で行われている治療法です」
現在、この治療法で使われている抗がん薬は、5-FU(一般名フルオロウラシル)とシスプラチン(一般名)である。B、C型肝炎がベースにある患者さんには、上記の5-FUとインターフェロンを併用する。
分子標的薬レンビマ承認から3年
「がんの化学療法においては、ここ5~10年、分子標的薬がめざましい進歩を遂げています。肝細胞がんの治療でも、分子標的薬による化学療法が主流になってきました」
なかでも、2018年3月に承認されたマルチキナーゼ阻害薬のレンビマ(一般名レンバチニブ)は、注目の薬剤だった。
レンビマは「REFRECT試験」という第Ⅲ相臨床試験の結果、従来の分子標的薬ネクサバール(一般名ソラフェニブ)との比較において、非劣性が証明された。全生存期間中央値(OS)13.6カ月、無増悪生存期間中央値(PFS)7.4カ月、奏功率(ORR)24.1~40.6%、病勢制御率73.8~75.5%。
さらに、その結果の日本人集団だけを検証した結果、国際試験の結果と遜色がないことがわかった。全生存期間中央値17.6カ月、無増悪生存期間中央値7.2カ月、奏功率24~38%、病勢制御率64%(表2)。
「承認から3年経って、いろいろと検証され、学会でもトピックになっています」
木下さんたちの施設が、過去1~2年追跡検証した結果(患者数23人、年齢中央値77歳)でも、全生存期間中央値16カ月、無増悪生存期間中央値9カ月、奏功率39.1%、病勢制御率73.9%と遜色はなかった。
「私たちの施設は、大学病院ですが、地域周辺の多くのご高齢の方々が通院する病院ですので、検証した23人の平均年齢は77歳と国際試験より高齢です。比較的、健康状態の良い方を選んだというバイアスは多少あるとはいえ、このように良好な結果が出たという点については喜ばしいことだと思っています」
同様に、岐阜県大垣市民病院からの論文でも、レンビマの有効性と安全性は、75歳以上と75歳未満でほぼ同等という結果が報告されている(表3)。
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