第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の開発が進行中
非小細胞肺がんEGFR-TKIの「使い分け」と「耐性への対応」
EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)の治療は、分子標的薬であるイレッサやタルセバ、さらにはジオトリフといったEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)がキードラッグであり、これらの薬剤登場によって大きく変わってきた。
一方で、当初は著効したEGFR-TKIもその効果がなくなる薬剤耐性が問題となっている。現在、その薬剤耐性を克服することが期待されている第3世代と呼ばれる新規薬剤の臨床試験が進行中だ。
薬の使い分けが可能な時代に
非小細胞肺がんには、がん細胞の表面にあるEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子に変異があるタイプのがんがある。EGFR遺伝子に変異があると、細胞の増殖・分化などにかかわる信号の伝達に重要な役割を果たす酵素であるチロシンキナーゼが異常に活性化し、がん細胞の増殖につながってしまう。
EGFR遺伝子変異の発現は、欧米人よりも日本人などアジア人に多く、非小細胞肺がんの中でも発生頻度の高い腺がんの患者さんの半分ほどにこの遺伝子変異があるといわれている。EGFR遺伝子変異に有効な薬が、EGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)。チロシンキナーゼ活性を阻害することにより、がん細胞の増殖を促す信号伝達を遮断し、がんの増殖を抑えてがんを死滅に導く。
日本では、EGFR-TKIとして*イレッサが世界に先駆けて2002年に承認された。ただし、EGFR遺伝子変異に有効と明らかになったのは04年になってからのことである。
07年には*タルセバも承認され、同年にはEGFR遺伝子変異の有無を調べる検査が保険適用に。14年には*ジオトリフが承認された。ジオトリフはチロシンキナーゼに結合すると離れにくい不可逆性の性質をもち、可逆性のイレッサやタルセバが第1世代と呼ばれるのに対し、第2世代の薬とされる。
このように3つの薬が登場したことで、それぞれの薬の特徴や副作用に応じて使い分けが可能になる時代になってきたと期待されている。
*イレッサ=一般名ゲフィチニブ *タルセバ=一般名エルロチニブ *ジオトリフ=一般名アファチニブ
1つではない遺伝子変異のパターン
がん研有明病院呼吸器内科部長の西尾誠人さんは次のように語る。「以前は単に『EGFR遺伝子変異』とひとまとめに言っていましたが、遺伝子変異にもいくつかのパターンがあることがわかってきました。パターンによって薬の効果が異なる可能性があり、今後、遺伝子変異のパターンにより薬を使い分けていく時代がくるかもしれません」
EGFR遺伝子変異のパターンはいくつもの種類があるが、エクソン19とよばれる部分の欠失変異と、エクソン21のL858Rとよばれる部分での点突然変異が全体の9割を占めていることがわかってきた。
現在のところ、進行期の非小細胞肺がんでEGFRの遺伝子変異があった場合、肺がん診療ガイドラインでは1次治療で用いる薬として、イレッサ、タルセバ、ジオトリフのどれを使ってもよいとなっている(表1)。注目されるのはジオトリフだ。これまでの臨床試験の結果、エクソン19欠失変異での効果が特に高い可能性が示されている。
一方で、ジオトリフはエクソン21のL858Rの点突然変異に対しては効果が落ちるとのデータもある。
そこで今後は、例えば、「エクソン19欠失による遺伝子変異がある場合には、イレッサ、タルセバではなく、より効果が大きそうなジオトリフを使う」、または「L858Rの点突然変異に対してはイレッサ、タルセバを使う」などのように、遺伝子変異のパターンによって薬を使い分けていくようになるかもしれない。しかし、この点について西尾さんは次のようにも述べる。
「以前はEGFR-TKIといってもイレッサしかなかった時代は、EGFRの遺伝子変異を細かく分けても薬が1つしかないのだから使い分けようもありませんでした。最近はタルセバやジオトリフのような新規の薬が出てきたことで、さらに細かい選択が可能になってきています。しかし、これまでの臨床試験では従来の殺細胞性抗がん薬とEGFR-TKIを比較したものであり、EGFR-TKI同士で直接比較したわけではありません。ジオトリフとイレッサ、タルセバを直接比較する試験は現在、行われているところなので、その結果を待つ必要があります」
効果と副作用のバランス考え選択
一方で、それぞれの薬には副作用の特性がある。「したがって、効果と副作用のバランスを考慮して使い分けるということは十分にあり得ます」
使い分けに当たっては、施設で使い慣れている薬にはメリットがある。使い慣れているということは、それだけ副作用に対する対応にも慣れているからだ。「前述のように、効果については直接の比較結果が明らかではないものの、現状のデータから、ジオトリフ、タルセバ、イレッサの順で効果が見込まれるとしても、一方で副作用を考えたら、イレッサ、タルセバ、ジオトリフの順で副作用が強くなっています。そのバランスを考えてどれを選択するかということになります」
3つの薬は、基本的には同じEGFR-TKIなので、ほぼ共通の副作用が発現し、通常多いのは皮疹、皮膚乾燥、爪囲炎などの皮膚障害、それに下痢や口腔粘膜炎(口内炎)など。ただし、薬によって各副作用の強さ弱さが異なる。
「下痢はジオトリフで多く、ほとんどの患者さんが下痢を経験します。下痢止めなどの薬を使わないと止まらない人が多く、このため、ほとんどのケースでジオトリフの減量が必要になっています。口内炎もジオトリフで多く、やはり減量が必要なことがあります。皮疹に関してはタルセバ、ジオトリフに多く、イレッサは比較的少ない印象です」
ただし、ジオトリフで注目したいのは、副作用発現時に減量しても効果が表れているという点である。臨床試験でも9割の人が副作用のために減量したが、それでも効果が高いことが明らかとなっている。
「減量すると効果がなくなるというものではなく、治療を続けることが大事です。適切な副作用対策をとっても継続が困難な場合は、無理に毒性マネジメントして頑張ろうとするよりは、減量して継続するほうがよいと考えています」
事実、9割の人が減量した「国際共同第Ⅲ相試験」の結果では、*アリムタ+*シスプラチンとの比較で、無増悪生存期間(PFS)の中央値がアリムタ+シスプラチン群が6.9カ月だったのに対してジオトリフ群11.1カ月と有意な延長が認められている。また、試験に参加した日本人についての解析(サブ解析)では、PFS中央値は6.9カ月に対して13.8カ月とさらによい結果だった。
*アリムタ=一般名ペメトレキセド *シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
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