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新薬で全生存期間延長という臨床試験結果も! 骨転移と併せて骨粗鬆症対策が重要。前立腺がんの骨転移治療

監修●鈴木啓悦 東邦大学医療センター佐倉病院泌尿器科教授
取材・文●伊波達也
発行:2016年1月
更新:2020年3月

  

「Bone healthという点では、骨転移と併せて骨粗鬆症対策も重要です」と語る鈴木啓悦さん

骨に転移しやすいという特徴がある前立腺がん。骨転移による痛みや骨折は患者のQOL(生活の質)に大きく影響を及ぼす。この骨転移に対して、最近では骨の健康"Bone health(ボーンヘルス)"という考え方が広まってきており、骨転移と併せて骨粗鬆症に対する対策も重要になってきている。登場が期待される新たな骨転移治療薬の最新情報も踏まえ、最新トピックをレポートする。

圧倒的に多い骨への転移

図1 前立腺がんの転移部位(診断時)

前立腺検診協議会、財団法人前立腺研究財団(編):前立腺検診の手引き(金原出版)、54-70、1993

国立がん研究センターの2015年のがん統計予測では、男性のがんで1位になると予測されているのが前立腺がんだ。食習慣の欧米化や、高齢化が進む影響で、患者数は昨今急激に増加している。前立腺がんは、他のがんと比べて進行が緩やかで、比較的予後の良好ながんではあるが、その一方で骨転移しやすいという特徴もある。

「前立腺がんの転移部位は約85%が骨で、次にリンパ節と続いています。圧倒的に骨に転移する患者さんが多いです。痛みなど自覚症状がなく、PSA検査や画像検査で見つかる場合や、痛みなど症状があり見つかる場合、さらに前立腺がんとは知らずに、腰痛などで整形外科を受診し、骨転移が判明して泌尿器科へ紹介されてくるケースもあります」(図1)

そう話すのは、東邦大学医療センター佐倉病院泌尿器科教授の鈴木啓悦さんだ。

「前立腺がんの場合、骨転移が見つかったとしても、5年生存率は約50%です。さらに長く生きられる方もおられますので、QOL(生活の質)を著しく低下させることになりかねない骨転移をどうコントロールしていくかは、前立腺がんを治療する上でとても重要です」

PSA=前立腺特異抗原

治療開始前に必ず口腔ケアを

骨転移は、PSA検査によるスクリーニングなども進み、以前に比べ早期の段階で見つかるケースが増えているという。転移している状態でも、早期のものから、かなり進んだものまで幅があるため、病状に応じての治療が検討される。

「通常は、前立腺がん自体に対する治療としてホルモン療法を行いながら、骨転移が見つかった時点で、ゾメタやランマークといった骨転移に対する治療を並行して行っていきます。海外では去勢抵抗性といって、ホルモン療法の効果がなくなった時点からしか使えない薬ですが、日本では骨転移を認めた時点から使うことができます」

骨転移の治療に入る前の患者にとって重要なことは、まず歯科を受診することだと鈴木さんは説明する。

「ゾメタ、ランマークといった骨転移治療薬の副作用として、顎の骨が腐って壊死する『顎骨壊死』が起こる可能性があるので、虫歯を抜歯したり、口腔内のメンテナンスをきちんとしてもらってから骨転移の薬の投与を始めます。治療中も、患者さんには3カ月に1回程度は定期的に歯科に通い、プラークコントロールなどのメンテナンスをお願いしています」

こうした骨転移治療以外でも、将来的にタキソテールなどの化学療法を行うのであれば、なおさら治療を始める前に、口腔ケアを行っておくことが重要だという。

ゾメタ=一般名ゾレドロン酸水和物 ランマーク=一般名デノスマブ タキソテール=一般名ドセタキセル

患者の状態を見ながら薬剤を使い分け

現在、骨転移の進行を抑える治療として多く用いられているのが、ゾメタやランマークといった薬剤だ。それぞれ、骨病変の進行を遅らせることが臨床試験の結果から明らかになっている。

また、ゾメタとランマークを比較した臨床試験も行われている。去勢抵抗性前立腺がん患者を対象に行ったものだが、それによると、骨関連事象(SRE)という骨転移により起こり得る骨折、放射線照射(除痛)、脊髄・脊椎圧迫、高カルシウム血症、骨に対する外科的手術という5つのいずれかが起こるまでの期間の中央値は、ゾメタ群では17.1カ月だったのに対し、ランマーク群では20.7カ月だった(図2)。なお、別の臨床試験では、こうした薬剤をいずれも使用しない場合、骨関連事象が起こるまでの期間は10.7カ月という結果が出ている。

ゾメタとランマークの違いはどういう点にあるのだろうか。

図2 前立腺がん患者に対するゾメタ、ランマークの効果
(初回SRE発現までのそれぞれの期間)

Fizazi K, Carducci M, Smith M, et al. Lancet 2011;377:813-822.

「確かに、臨床試験結果からすると、ランマークのほうが良い結果が出ましたが、この試験はあくまでも去勢抵抗性患者さんを対象にしたもので、最初から使う場合、どちらの薬剤を先に使ったほうが良いかというデータは出ておらず、基本的にはどちらから先に使っても良いと考えています。

両剤の違いという点から言うと、ゾメタのほうが、蓄積能力が強く、1度骨に沈着するとしばらくの間抜けませんが、ランマークは、血液中の薬剤濃度が半分になる『半減期』の期間が短く、蓄積しにくい傾向があります。顎骨壊死の副作用はどちらにもあります。

そしてゾメタには免疫系に対する副作用があり、3日目ぐらいに寒気がしたり、全身痛が起こるなど、インフルエンザに似た症状が10%弱の人に起こります。またゾメタには腎機能を悪化させる副作用があるため、腎機能が悪い人には減量が義務づけられています。

一方、ランマークにはこうした副作用はありません。ただし、ランマークは効き目が強いのですが、患者さんによっては低カルシウム血症を引き起こす可能性があります。このように、双方の薬は一長一短ですので、患者さんの状態、背景因子などを考えながら使い分けることになります」

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