脇腹の痛みが続いたら要注意! 増えている骨転移

監修●片桐浩久 静岡がんセンター整形外科部長
取材・文●菊池亜希子
発行:2022年11月
更新:2022年11月

  

「脇腹の痛みが続いたら、躊躇せず、主治医に訴えてください」と強調する片桐浩久さん

がん医療において、最近問題になっている骨転移。骨転移は、体中どこの骨にも起こり得ますが、頻度が高く、QOLを大きく低下させるような骨折や麻痺を引き起こしやすいのが背骨(脊椎)、上腕骨、大腿骨、骨盤で、中でもいちばん多いのが背骨です。

原発となったがんの発症直後だけでなく、がん治療を終えた数年後、がんの種類によっては10年を超えた後に起こることもある骨転移。近年、好発年齢も高くなってきています。

そこで、長年、骨転移治療を牽引している静岡がんセンター整形外科部長の片桐浩久(かたぎりひろひさ)さんに、骨転移についてぜひ知っておきたいこと、そして現在の治療法について話を聞きました。

骨転移っていったい何?

がんが骨に転移した状態を「骨転移(こつてんい)」と呼びます。

私たちはずっと同じ骨で生きているわけではありません。常に古くなった骨を壊し(骨吸収)、新しい骨を作りながら(骨形成)、新陳代謝を繰り返しており(骨のリモデリング)、古くなった骨を溶かす「破骨(はこつ)細胞」と、溶かされた場所にタンパク質やカルシウムなどを分泌して新しい骨を作り出す「骨芽(こつが)細胞」がバランスよく働いているとき、骨は健康、かつ正常な強度を保っています(図1)。

がん細胞は、この破骨細胞と骨芽細胞のバランスを崩します。原発巣から血液中に流れ込んで骨にたどり着いたがん細胞は、まず破骨細胞を活性化させ骨をどんどん壊していきます。がん細胞はそこに住み着き、溶かした骨の栄養分を吸収して増殖。これが骨転移です。

乳がん、前立腺がん、肺がんで50%

骨への転移は、がん種を問わず起こり得ます。中でも乳がん、前立腺がん、肺がんに頻発するのが特徴で、骨転移全体のおよそ半分はこの3つのがんから発生します。

「乳がん、前立腺がん、肺がんは、骨に親和性が高い。つまり、骨に住み着きやすいのです。植物でも、酸性の土壌に生えやすい種類もあれば、アルカリ性の土壌を好むものもあるように、がんも、骨を居心地がいいと感じるがん種があるようです」と静岡がんセンター整形外科部長の片桐浩久さんは説明します。

これら3つのがんを患ったことがある場合、頭の片隅に骨転移の知識を持っていることは、もしもの備えになるでしょう。

骨転移は余命に影響するのか

骨は内臓でないことから「骨転移は余命に影響しない」と言われた時代もありましたが、「現在はそうは考えません」と片桐さん。

転移とは、原発巣のがん細胞が血液に乗って体内に散らばったことを意味します。骨転移が見つかった時点で、別の臓器や器官、リンパ節などに同時に転移が起きていることが多く、同時でなくても、少し遅れて肺転移が起きたり、リンパ節転移が追いかけてくることも少なくないのです。

「そういう意味で、転移が起きた以上、がんを完全に治癒させることは難しく、〝残された時間〟を意識する状況になります。骨転移も例外ではありません」と前置きしたうえで、片桐さんはさらに続けた。

「とはいえ骨転移の場合、残された時間の幅がかなり広く、乳がんなどでは20年以上に及ぶこともあります。例えば、65歳で乳がんが骨転移しても、そこから20年生きれば85歳。寿命とさして変わりません。ですから骨転移=末期では決してないのです」

骨転移が余命に影響する理由は、骨転移の特性そのものにもあります。

「がんが骨に転移すると、骨を壊し、骨の中の栄養分を取り込んで、がん自体が活性化します。つまり、がんの増殖が加速するのです。また、骨転移によって骨が壊され続けて脆くなると骨折したり、背骨に転移したがんが背骨の中を通って脳からの指令を手や足に伝える脊髄神経を圧迫し続けると下半身麻痺を起こします。こうなると、QOL(生活の質)を著しく低下させるばかりか、抗がん薬治療もできなくなり、余命や予後に大きく影響してしまいます」

骨転移治療の目的とは

「骨転移において最も大切なことは、骨折や下半身麻痺に至らないよう、いかに骨マネジメントするかです」と片桐さんは強調します。たとえ骨転移が起こっても、骨折や下半身麻痺が起きる前の段階で適切な治療を開始すれば、症状を進ませないよう制御できるというのです。

骨に転移しても、適切な骨マネジメントを行えば、余命に与える影響は小さく、しかも骨折や下半身麻痺を起こすことなくQOLを下げない生活が続けられるということでしょうか。

「そう考えてよいと思います。痛みを取り除くことと、QOLを下げずに自分で生活を続けていけるようにすること。この2つが骨転移治療の目的です」

QOLを下げないとは、骨折させないこと、そして麻痺を起こさせないこと。では、骨転移治療において、転移したがんそのものに対する治療は行わないということ?

「前述のように、骨転移を起こした場合、転移が骨のみというのは稀(まれ)で、同時にリンパ節転移や内臓転移にも注視し、必要ならば抗がん薬治療をしていくことになります。ですから骨転移治療は、あくまでも骨を守る治療。骨折させない、麻痺を起こさせない、そして骨折や麻痺が起こってしまった場合にはそれを治療してダメージを最小にする治療を行います」

とはいえ、大腿骨転移など、そこにがん病巣を残したままにすると、さらに骨が溶けて骨折が避けられない場合や、金属による骨の補強では長期間の歩行機能が維持できないと判断される場合には、がん病巣を切除して人工骨に置換する手術を行うこともあるそうです。ただ、その目的は、あくまでも歩行機能を守ること。どうしたら長期間、機能を持続させることができるか、にあるのです。

骨修飾薬は、治療薬でなく予防薬

骨転移の治療法は大きく分けて、骨修飾薬治療、放射線治療、そして手術の3つ。

骨修飾薬は、治療薬というより、新たな骨転移が発生する頻度を減少させる、また骨の強度を高め骨折を起こしにくくするための予防薬。

「すでに背中の痛みがひどく、下半身麻痺直前の患者さんには、骨修飾薬だけを投与しても意味がありません。痛みなどの症状が強い場合は、放射線治療が基本です」と片桐さんは話します。

骨修飾薬には、破骨細胞に自ら入り込んで破骨細胞を内側から弱らせるビスホスホネート薬(ゾメタ:一般名ゾレドロン酸など)と、破骨細胞の外側の刺激をブロックしてその作用を鈍らせる抗RANKL抗体製薬(ランマーク:一般名デノスマブなど)の2種類があり、放射線治療に追加する形で使われることが多いようです。

「乳がんや前立腺がんなど、ホルモン療法が効くタイプの骨転移ならば、ホルモン療法ががんの制御にもなるので、ホルモン薬と骨修飾薬の併用だけで症状をコントロールできることもかなりあります」

一方、大腸がんや、分子標的薬を使えないタイプの肺がんの骨転移の場合、通常の抗がん薬では骨転移に対する効果が乏しいので、早めに放射線治療を行います。

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