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いかに手術に持ち込めるかがカギ 大腸がんの肝転移治療戦略 肝切除においては肝臓の機能、容積の確保が重要

監修●吉留博之 さいたま赤十字病院外科部長
取材・文●伊波達也
発行:2016年2月
更新:2020年3月

  

「例え大腸がんが肝臓に転移したとしても、決して諦める必要はありません」と語る吉留博之さん

大腸がんは肝臓に転移しやすい。ただ転移したとしても、決して諦める必要はない時代になってきた。手術で切除できれば、長期生存が可能になってきており、例え手術ができないと判断されても、手術のアプローチ法を変えたり、近年登場した新規薬剤を組み合わせることで、手術に持ち込めるケースも増えてきている。

治癒の可能性のある唯一の治療法は肝切除

図1 大腸がん肝転移に対して肝切除を行った際の治療成績

食生活の欧米化などの要因により、増加の一途をたどるのが大腸がんだ。国立がん研究センターがん対策情報センターの調査によると、大腸がんの罹患率は、男性4位、女性2位となっている。

ただし、大腸がんは、早期に発見できれば根治が見込め、化学療法も有効性が高い。とくに最近では、新規の抗がん薬や分子標的薬が登場しており、例え進行・再発していても、治療成績が飛躍的に向上しているのが、大腸がんの特徴と言えるだろう。

では、大腸がんが進行・再発してしまった場合、どこの臓器に転移することが多いのか。

「最も多いのが、肝臓への転移です」

そう説明するのは、さいたま赤十字病院外科部長の吉留博之さんだ。これは門脈を通じて大腸と肝臓がつながっているため、血流によって、がんが転移しやすいのだ。再発した場合、全体の2~3割は肝臓への転移だという。

大腸がんの肝転移治療の考え方について、吉留さんはこう説明する。

「大腸がんが肝臓に転移した場合、治癒の可能性のある唯一の治療法は、肝臓を切除することです。ですから、肝機能や患者さんの全身状態(PS:パフォーマンス・ステータス)などを考慮して、手術が適応できる場合には、肝切除が第1選択となります。肝臓に対する局所療法では、ラジオ波焼灼術(RFA)という選択肢もあります。しかし、大腸がんの肝転移は肝細胞がんと違い、腺がんであるため腫瘍自体が硬く、焼き切れないことがあったり、針を刺したルートで再発する可能性もありますので、適応には厳格さが必要だと、私は考えています」

吉留さんは2000年ごろから、大腸がんの肝転移症例に対して、肝切除により、いかに患者の生命予後を延ばすかを試行錯誤し続けてきた。

「これまでの経験した300例を超えるデータでは、大腸がんが肝臓に転移した患者さんで切除できた場合、治療成績は5年生存率で約40%でした。大腸がんの肝転移では、肝切除で長期生存に導ける可能性がありますので、残る肝臓の量と肝機能、そして患者さんの全身状態に問題がなければ、できるだけ切除します。再発する場合も多いですが、Ⅳ(IV)期であっても長期生存が可能です」(図1)

手術可能かどうかは 残された肝臓の容積で決まる

大腸がんが肝転移した場合の第1選択は手術による肝切除になるが、ではどういった場合に、切除可能と判断されるのだろう。

「肝切除が可能かどうかの判断は、残される肝臓の機能的容積で決まってきます」と吉留さん。肝機能が正常の場合、切除した後の残りの肝臓の容積が35%以上あれば、手術可能と判断されるという。CT画像で予測残肝量を測定するなどして、肝切除の適応に入るかをきちんと判断した上で、手術は行われる。

では、転移している個数はどうか?

「通常、技術的な問題においては、転移数に制限はありません。ただし、統計学的に転移が5個以上であると、予後は悪くなるというデータが出ています。個人的には転移数が8個を超えると、やはり治療成績が悪くなることが多いと考えています」

肝切除の適応として重要な残肝容積だが、残肝量が足りない場合にも、切除を可能にする方法がある。それが、門脈枝塞栓術や2期的肝切除という方法だ。

門脈枝塞栓術とは、肝臓の中にある門脈に塞栓物質を入れる方法のことを指す。手術で取る予定の肝臓部分の門脈を塞いで血液が流れないようにすると、その他への血液量が増えるため、残す予定の肝臓部分が肥大してくる。その結果、残肝量が増え、手術に持ち込むことができるのだ。

一方、2期的肝切除とは、肝切除を2回に分けて行う方法をいう。

「例えば、肝臓の左葉と右葉に腫瘍が多発転移しているというような場合は、その時点で取れる左葉の少ない転移巣を部分切除して、その後、右門脈枝塞栓術により門脈を詰めて、左葉の残りの肝臓を肥大させて残肝容積を増やしたのちに、右葉の切除を行って腫瘍を全て取り切る方法を行います。通常2回目の切除は、我々は2週間後にCT画像で評価してから行います。海外の報告では4~8週間で、化学療法を間に挟む場合は8週間後が多いです」(図2)

この2期的肝切除にも様々なアプローチ方法があり、肝転移の数や転移巣の位置など患者ごとの病態に応じて切除方法は変わるという。

図2 2期的肝切除とは
図3 大腸がん肝転移に対するコンバージョンセラピーの例

60歳代の女性患者さんで、大腸がんが肝臓に転移。化学療法を行う前は20㎝ほどの大きさであった腫瘍だが、FOLFOX+アービタックスが効果を示し、腫瘍は縮小。その後、手術に持ち込むことが可能となった

切除不能例でも 化学療法で手術に持ち込むコンバージョンセラピー

さらに、大腸がんの肝転移で切除不能となった進行・再発例を切除可能に転じさせる方法もある。

通常、切除不能例とは、肝臓内の静脈全てにがんが広範囲に浸潤してしまっている場合や、肝臓全体に腫瘍が多発しているために残った肝臓の容積不足の場合などをいうが、こういった切除不能例に対して行われているのが、〝コンバージョンセラピー〟という方法だ。これは、切除不能例に対して、化学療法を行い、腫瘍を縮小させてから手術に持ち込むという治療戦略となる(図3)。

「コンバージョンセラピーの場合は、まずは遺伝子検査を行い、RAS遺伝子が野生型か変異型かを判断した上で適応する薬剤を決めて、化学療法に入ります。基本的にRAS遺伝子が野生型の場合には、FOLFOX+アービタックスを、変異型の場合にはFOLFOX+アバスチンを選択するケースが多いです。また状況によっては、FOLFOXIRIを考えるケースもあります。

化学療法を開始してから2カ月ごとに評価をし、切除可能なタイミングと判断できたら手術を実施します。化学療法の効きが良く、すぐに手術に持ち込めた場合、やはり治療成績はいいですね」

この場合、化学療法を続ける期間も重要になってくると、吉留さんは指摘する。

「できれば4カ月以内に手術をしたほうが、肝機能も落ちずに手術ができ、治療成績も良いです。微小転移などにとらわれて、あまり長く化学療法を続けると肝機能障害を起こしたりして、手術する機会を逸してしまいかねません。手術をするタイミングを的確に判断し、逃さないことが重要です」

例え切除不能と判断されたとしても、こうしたコンバージョンセラピーを行うことによって、肝切除適応例を増やし、予後を向上することができるケースが増えているという。

FOLFOX=5-FU+ロイコボリン+エルプラット アービタックス=一般名セツキシマブ アバスチン=一般名ベバシズマブ FOLFOXIRI=5-FU+ロイコボリン+イリノテカン+エルプラット

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