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がん患者に鍼灸治療で緩和ケア!

西洋医学でコントロールしきれない つらい症状を緩和する鍼灸治療

監修●里見絵理子 国立がん研究センター中央病院緩和医療科科長
監修●佐々木久子 国立がん研究センター中央病院緩和医療科鍼灸スタッフ
取材・文●池内加寿子
発行:2016年4月
更新:2019年7月

  

「鍼灸はがん患者さんのつらい症状を緩和する補助的な方法の1つです」と話す里見さん(左)、佐々木さん

鍼灸は、専用の鍼や灸を使って、体表にあるツボを刺激する治療法。がん治療中の術後の痛みや、終末期の倦怠感など、西洋医学だけでは取り除くことができない症状を緩和する効果があると言われている。国立がん研究センター中央病院の緩和医療科には鍼灸専用の治療室があり、艾(もぐさ)の心地よい香りの中、「刺さない鍼」での治療が行われている。

「鍼灸」を採り入れて30年 国立がん研究センターの取り組み

国立がん研究センター中央病院のパンフレット「緩和ケアチームでの鍼灸治療について」より

数千年の歴史をもつ「鍼灸」を、30年以上も前からがん医療に取り入れているがんセンターがある。国立がん研究センター中央病院だ。

きっかけは、現在も同センターで麻酔科医として活躍している横川陽子さんが、医学部時代以降学び続けた鍼灸を、がん手術後の疼痛緩和に用いたことに始まる。1985年当時、横川さんは、乳がん術後の患者を2つのグループに分け、鍼灸を用いた群と用いなかった群の比較試験を行ったところ、鍼灸を用いた群では、鎮痛薬の投与量、回数ともに有意に少ないという結果を得た。また、手術後の傷の痛みに伴って起こる全身の苦痛にも効果があったという。

その後、肺がんや食道がん術後の痛みに対する鍼灸の依頼が増加。鍼灸師2名がスタッフとして携わるようになる。1999年以降は緩和医療科の所属となり、治療用のベッドを2つ置いた鍼灸専用の治療室が設けられた。

緩和ケアチーム医療の一環として位置づける

緩和医療科科長の里見絵理子さんは、次のように話す。

「これまでの当センターの経験から、鍼灸による症状緩和の可能性があると考えています。鍼灸師は緩和ケアチームの一員として医師、看護師、薬剤師などと共にカンファレンスに参加し、患者さんが感じる苦痛をどのように緩和していくか話し合います。対象は、当院に入院中または外来治療、経過観察中で疼痛など症状緩和目的に緩和医療科で診療を行っている患者さんで、緩和ケア医が診察し、標準的な症状緩和でなかなかコントロールができないと判断される場合に鍼灸の適応を考慮しています」

現在は週2回、鍼灸師の佐々木久子さんが、1日6~7人の患者に鍼灸の施術を行っている。年間の新患数は、30~40人ほどになるという。

実は2年前、里見さんが同センターに着任した頃、鍼灸治療室の存続について議論があったというが、里見さんは存続を選択した。

「欧米ではがんの支持療法にも鍼灸が取り入れられ、WHO(世界保健機関)やNCCN(全米総合がん情報ネットワーク)ガイドライン等の補完代替医療の項目で、抗がん薬の副作用軽減や疼痛緩和など、鍼灸の有効性が示されています。海外の医師に『日本のドクターは鍼灸ができるからいいね』とよく誤解されるのですが、日本の医学教育では鍼灸について学ぶ機会はなく、医療と鍼灸の接点が薄いと感じます。

このような中で、当センターでは以前より鍼灸が緩和ケアに用いられ、患者さんから喜ばれていることには意味があると思います。また、がん患者さんが増え続けている一方で、症状緩和に従事する鍼灸師は少ないという問題点があります。患者さん自身が鍼灸を通して、元気を取り戻し、セルフケア能力が高まっていくことは望ましいことではないでしょうか」と、鍼灸が持つ可能性に期待を込める。

肺がん、乳がんの術後の痛みや 終末期の倦怠感を和らげる

図1 2005年~2015年 鍼灸介入患者の主訴

では、どのような症状の患者さんが鍼灸を受けているのだろうか。

「2015年まで約10年間の主訴をみると、上位にくるのが痛み、しびれ、こりです(図1)。また、この他便秘、むくみ、倦怠感、不眠、食欲不振、呼吸困難などに対しても行われています。患者さんから『心身ともに癒されました』という声を伺うとき、東洋医学は心身一如だと痛感します」(佐々木さん)

がんの種類では、肺がん、乳がんが多く、肝がん、大腸がん、胃がん、悪性リンパ腫と続く(図2)。

図2 疾病別患者数(2005年~2015年集計)

「患者さんの3分の1は進行がんで治療中の方、3分の1は抗がん薬治療終了後のしびれなどの有害事象が持続している方、残る3分の1は、終末期特有の倦怠感など、医療用麻薬等の薬物療法や酸素療法などのケアを十分にしていても取りきれない痛みやつらさを抱える方などです」(里見さん)

例えば、乳がんや肺がん等の開胸術後の傷の痛みや、がんの治療後に関節や筋肉の拘縮により日常生活に支障があるケース、抗がん薬の副作用でしびれが起こり、薬物療法でも改善がみられないケースなど。さらに薬の服用を望まない人、薬による眠気で日常生活に支障が出る人、下剤を飲んでも腸の動きが改善されないケース、長期仰臥によるこりや痛みなどには鍼灸を考慮する。乳がんや婦人科がんのリンパ浮腫には蜂窩織炎ほうかしきえんなどのリスクがあることから、リハビリやリンパドレナージなど他の方法の補助として、必要に応じて皮膚に刺入しない治療法が行われることがある。

「鍼灸の役割は、従来の標準的な治療、薬物療法等でコントロールしきれない症状を緩和することにあります。海外では、抗がん薬の副作用で起こる消化器症状に鍼灸が有効との報告がありますが、薬物療法と比較した場合の優劣はわかりません。ですから、吐き気がある場合は、ガイドラインに基づいた薬物療法を行います。また、リラクゼーションを目的に鍼灸を希望される患者さんもありますが、より良い緩和法を実施するという観点から、他の治療で緩和できない苦痛をお持ちの患者さんを対象としています」(里見さん)

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