「忘れられて」はいない小細胞肺がん 医師主導治験で新薬開発も始まる
一般的に肺がんというと、罹患者数の多い非小細胞肺がん(NSCLC)をイメージすることが多い。一方で、小細胞肺がん(SCLC)は、患者数が少ないこと、新規治療薬が長く登場していないことなどで注目を浴びる機会は少なかった。そのような状況で、新たな分子標的薬を実用化しようという医師主導の臨床試験(治験)が始まった。小細胞肺がん治療の現状と将来展望ついて治験を進める医師にうかがった。
望まれる小細胞肺がんの治療開発
昨年(2016年)12月に福岡市で開催された日本肺癌学会学術集会で組まれた1つのシンポジウムのサブタイトル(副題)が注目を集めた。「小細胞肺癌の新治療戦略―本当に忘れ去られた疾患群か?―」。遅々として進まない小細胞肺がんの治療戦略を自虐的に表現したのだ。
「もちろん、忘れられてはいません。初日朝一番の設定にもかかわらず、立ち見も出る盛況でした。学会として大事な分野という認識なのだと感じました」
シンポジウムの中で講演した、国立がん研究センター東病院呼吸器内科医員の宇田川響 さんは、そう振り返った。宇田川さんが取り組んでいる新しい治療戦略については、後半で説明する。
放射線治療を行えるかがカギに
肺がんは組織型により、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分けられる。組織型により、治療効果や進展のスピードが違うため、区別して治療するべきだということだ。このうち小細胞肺がんは肺がん全体の15~20%にあたる。小細胞肺がんの原因は「ほぼ100%喫煙」(宇田川さん)とされており、特徴として進行・転移が早く、悪性度が高いことがあげられる。転移は脳や肝臓、骨などに見られることが多い。一方で、非小細胞肺がんよりも抗がん薬や放射線治療の効果が得られやすいこともわかっている。
病気については、通常の病期(ステージ)Ⅰ~Ⅳ期に加え、限局型と進展型に大きく分けて考える。限局型とは病変が片方の胸にとどまっている状態で、進展型とは反対側のリンパ節やほかの臓器に転移している状態を指す。放射線治療を行えるかどうかという重要なポイントとなる。
宇田川さんは「小細胞肺がんは、肺がんでは進行が最も早いタイプで、ほとんどの人が進展型で見つかります。手術ができる状態で見つかることはほとんどないのが現実。限局型で放射線治療が可能なら、化学療法と組み合わせて根治を目指します。進展型では、転移先すべてに放射線をかけるのは困難なので、化学療法のみとなります」と解説する(図1)。
一方で、「予後は非常に不良です。抗がん薬は7~8割に効きますが、少し休薬期間を置くとほとんどで再発してきてしまいます」とも話す。
放射線治療は化学療法と同時が効果的
放射線治療は、化学療法と同時に開始する方法と、化学療法が終了してから開始する方法があるが、全身状態(PS)が許すならば、放射線治療を同時に、できるだけ早い時期 に併用するほうが効果的とされている。限局型では放射線と化学療法が終了後に脳転移を予防するために、脳への放射線治療(予防的全脳照射)を行うことがある。
化学療法は、*シスプラチン、*カルボプラチン、*エトポシド、*イリノテカンの組み合わせとなる。「放射線治療と組み合わせるときには、シスプラチンとエトポシドを選択し、放射線を使わないときは、シスプラチンとイリノテカンが標準的な治療になります」。3または4週を1サイクルとし、4サイクル行うことが肺癌診療ガイドラインでは推奨されている(図2)。
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *カルボプラチン=商品名パラプラチン *エトポシド=商品名ラステット/ベプシド *イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン