進行性食道がん ステージⅢ(III)と告知されて そして……

「イナンナの冥界下り」 第13回

編集●「がんサポート」編集部
発行:2017年8月
更新:2020年2月

  

遠山美和子さん(主夫手伝い)

とおやま みなこ 1952年7月東京都生まれ。短大卒業後、出版社勤務を経て紳士服メーカー(株)ヴァンヂャケットに入社。約20年勤務の後、2011年8月病気休職期間満了で退職

<病歴> 2010年10月国立がん研究センター中央病院で食道がんステージⅢ(III)を告知される。2010年10月より術前化学放射線療法を受けた後、2011年1月食道切除手術を受ける。2015年9月乳がんと診断され11月に手術、ステージⅠ(I)で転移なし。2016年8月卵管がんの疑い。9月開腹手術。卵管がんと確定し、子宮・卵巣・卵管と盲腸の一部を摘出。9月手術結果を受け卵管がんステージⅢ(III)Cと診断。10月17日よりドース・デンスTC療法(パクリタキセルとカルボプラチンの異なる作用の抗がん薬を組み合わせた治療法)を開始し、2017年3月29日終了。


本格的な脱毛は髪(神)のお告げがあった翌晩、点滴から17日目に始まった。

シャンプーするとゴソっと気持ち良いほど抜ける。掴んで引っ張るとズルっと抜ける。今なら後ろ髪を引かれるようなことがあっても、心置きなく振り切って前へ進めそうである。

風呂場で抜け毛まみれになるのは不快なので、洗面台でシャンプーすることに切り替える。抜け毛を手のひらに丸めると5㎝径ほどの塊になった。「一気に来ますよ」と言われていたが、毎日この調子で進むとあっという間に丸坊主になりそうだ。

「お腹がへこんで楽になりました」

治療が終わって猫の頭ほどに伸びた頭髪の遠山さんと飼い猫のみゅう

血小板が足りなくてスキップした翌週火曜日は乳腺外科のマンモ(マンモグラフィ)検査。乳房切除から怒涛(どとう)の1年。手術もあり、検査もあれこれやったので、マンモが「いとちょろい」気分だ。(いと=たいそう、ちょろい=たやすい)高校時代、古文で習った「いと」を多用して遊んだのを思い出す。

1クール最終1剤の日は血小板値の盛り返しが目覚ましかったが、カルボ(カルボプラチン)を約1ml減量での点滴となる。スキップの翌週だからか、このあたりが腫瘍内科の微妙な匙加減と言うところなのか。

この調子で2クール目突入! と意気込んだが、今度は好中球値が2剤点滴可能とされるボーダーライン数値の半分ほどまで落ちてしまい、あえなくスキップ。

こんなことで完走できるのかと不安がよぎるが、この時には腹水はほとんど抜けてお腹はぺったんこ。足の浮腫みも引いて体重もだいぶ減っていた。

「体重が29㎏になってしまいました」

「大丈夫ですか?」

「はい、お腹がへこんで楽になりました」

「では、良い意味での体重減少ですね」

まゆゆ先生にっこり。

「次回は薬の量を調整しましょう」

抜け毛も1回の量は半分程度に減ってきて、ぼそぼそと鬱陶(うっとう)しく抜け続けているが、まだ帽子でカムフラージュできる段階だ。不祥事を起こして頭頂部が見えるほど深く頭を下げて謝罪するような事態でも招かない限り大丈夫。

やるときはやる武闘派だ

11月22日、半年ぶりに乳腺外科K先生の外来。

診察室に入ると、「先に診察しちゃおうか」と先生。私の顔に「積もる話」と書いてあったらしい。乳腺はマンモ・診察の結果とも異常なし。

患者さんがたくさん待っているので長話は無用だが、今回もまた、検査も手術も早めていただき、すでに通院で化学療法を始めて1クールが終わっていることなどお話しした。

「G先生のおかげだね」

そうおっしゃって帰り際、K先生はそっと握手してくださった。黙ったまま『頑張って』と励ましてくださり、私は『ありがとうございます、頑張ります』と心の中でお礼を言った。声に出したら涙声になってしまう。

食道がんだって大変だったのに、そのあと2度もがんになって、今や死んだ上、踏んづけられて往ったり来たりされたような気分だけど、こんなキャラだし、涙ぐんだって似合わない。でも、こういうのは弱い。だから優しくしないでって、いつも言ってるのに。

2クール目開始。血液検査値もいい感じに回復していて、カルボを約7.4ml減量して点滴。ただ、針を刺すのにまた手間取って看護師さんと私とお互いに恐縮。

「じゃぁお詫びの印に病棟でゲットしたポケモンの画像を見てください」ということで丸く収まる。

薬剤師さんには「29㎏って数字で聞くと驚くかもしれないけど、全然そんな風に見えないからあまり数字にこだわらなくて大丈夫ですよ」と励まされる。

点滴4回目ともなると自分なりの過ごし方が見えてきて、要するに眠くなったらうとうと気持ちよく寝て過ごす。

私がうとうとしていても看護師さんは常に私の体調や、点滴の薬が漏れてないかと目を光らせてくれている。2剤初回の轍(てつ)を踏まぬようにと、新たに吐き気止めとしてジプレキサが投入された。

私もこれ以上体重を減らすわけにはいかないという決死の覚悟で、朝から黒蜜きな粉かけ葛餅を食べたりの変則技を使う。子供のころ家族で出かけた初詣は亀戸天神から浅草観音へのはしごだった。天神様の近くに店を構える船橋屋のくず餅は懐かしい味、食べられるじゃないか。

点滴の後はやはりひどい下痢があり、次いで3日間も便秘になる。どうせ便秘ならと今までは下痢が心配であまり食べられなかったアイスクリームをペロパク食べる。少しお腹に来たけれど、半分は栄養になったはずだ。私は心配性で用心深い、が、やるときはやる武闘派だ。

「三蔵法師みたい」という嬉しい声

昨年の11月頃、頭髪が抜け始め、リンスなんかしたくない時の遠山さんの頭頂部

2クール2回目1剤。午後の予約だった点滴だが、キャンセルが出て午前中の枠に入れてもらえた。病院内の美容室に電話すると、ちょうど午後予約が取れたので思い切ってすっきりしてしまおうと思う。

髪の毛は煮え切らないペースで日々抜け続け、いずれ私を見捨てて抜けていくやつらにリンスなんかしてやるものか、という気になっていたところだ。乳がん友達のMさんは院内の美容室でウィッグのスタイリングもしてもらったと言っていたが、事情を了解してやってもらえるので、気後れすることなくいろいろ相談できて有難かった。

で、マルガリータになる。マルガリータと聞くと「ムイ・ビエン」(とても美味しい)な感じだが「ジャクチョウ(寂聴さん)?」という声や、「三蔵法師みたい」という嬉しい声。夏目雅子はおこがましいが、我ながら頭の形状はなかなかの仕上がりである。

1剤のみでも翌日までに腹痛を伴って下痢があり、薬剤の何かが体質的に合わないのかと思う。まゆゆ先生の見解は「一過性のもののようだし、薬を替えるほどの状態ではないと思う」であったが、「症状が酷いときに受診できる近くのお医者さんはありますか」とフォローしてくださった。

カルボの副作用として挙がっていた末梢神経障害は、最初、手足の指先がジンジン痺れるような熱くなる感じがあったが、痛みに移行することはなく、その後は点滴後数日間、腕の外側が痺れる感覚が出るだけで推移している。

2クール目はスキップなく2の3を迎えた。

午前点滴予約の日は採血室が混む前に血液検査を済ませたいのと、通勤ラッシュの時間帯に電車に乗るのは大変なので、5時前に起き6時半には家を出て、病院で受け付け開始まで待つ。整然と整理券が配られるが、いつも30名以上の患者さんが並んでいて、私もテーマパークで待っている気分でお菓子を食べながら並んだ。

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