ラジオ波の利点はがんをくり抜き、何度でも 再発進行肝細胞がんと転移性肝がんの治療にもラジオ波焼灼療法が有望
ラジオ波焼灼療法(RFA)は、肝細胞がんの標準治療として『肝癌診療ガイドライン2017年版』(日本肝臓学会編)にも記載されているが、現在のところ、その適応は主に早期の肝細胞がんに留まっている。しかし、再発進行した肝細胞がんや、他の臓器のがんが肝臓に転移した転移性肝がんに対しても治療効果が見込めるとして、RFAを積極的行っている医療機関もある。その1つ、NTT東日本関東病院消化器内科主任医長の寺谷卓馬さんに治療の現状をうかがった。
肝細胞がんに対して2004年から保険適用に
ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法は経皮(けいひ)的局所療法の1つ。経皮的局所療法とは文字通り、皮膚の上から病変に針を刺して(穿刺)行う治療のことだ。これまで病変にエタノールを注入する経皮的エタノール注入療法(PEIT)、マイクロ波を使う経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)などが行われてきたが、近年主流となっているのが経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)だ。
ラジオ波は無線通信などに使われてきた電磁波の1種で、集束すると高熱を発する性質を持つ。ラジオ波焼灼療法はこの熱を利用してがんを焼き切る治療だ。
具体的には、両脚の太腿(ふともも)に対極板を張りつけ、超音波で確認しながら直径1.5㎜の電極を皮膚の上からがん病変に挿入し、対極板と電極の間で通電する。すると、電極周辺の温度が80~90℃位に達し、がんが焼き切られるという仕組みだ。
1995年にイタリアの内科医ロッシが肝細胞がんに対して良好な成績を報告し、日本でも1999年に東京大学において治療が開始されたが、2004年には外科的治療の主流とされてきた肝切除に比べても生存率がほぼ劣らないと判断され、保険も適用となっている。
肝細胞がんに対する治療として保険適用される基準は5つある。
①病変が切除不能または患者が切除を希望しないこと。
②病変が3cm×3個以内あるいは5cm単発(1個)であること。そして、肝臓の状態が悪くないことで、具体的には、
③血小板5万/㎜3以上。
④プロトロンビン時間50%以上。
⑤総ビリルビン3.0mg/dl以下となっている。
『肝癌診療ガイドライン』の診療アルゴリズムでは、肝予備能がよく(Child-Pugh:チャイルド・ピュー分類A)で、肝外転移も脈管侵襲(しんしゅう)もなく、腫瘍数が1~3個でいずれも3cm以内の場合の治療法として推奨されている。
初発の肝細胞がんの治療法として確立
つまり現段階では、主に早期肝細胞がんに推奨されている治療法であり、第1選択は手術だが、手術が不可能なケースや患者が希望しない場合に行ってもよい治療法として位置づけられている。
しかし、独自の判断で適応を拡大してラジオ波治療を行っているNTT東日本関東病院消化器内科主任医長の寺谷卓馬さんは次のように語る。
「肝細胞がんではすでに標準治療と言ってよいと思います。当院では腫瘍数や腫瘍の大きさに制限なく実施していますが、実際、欧米でも日本でも、『小さながんはすべてラジオ波焼灼療法で治療してよいのでは』という方向性が出ています。それでも、今までは手術とラジオ波のどちらの成績がよいか異なる報告があり、一概には言えないとされてきました。
そこで、2009年から日本でも東京大学を中心にした多施設共同のランダム(無作為)化比較試験(通称:SURF試験)が行われています。この結果が出れば、ラジオ波の位置付けがよりはっきりするのではないかと思います」
SURF試験の報告は、恐らく2019年に報告されると予測されており、肝癌診療ガイドライン2017年版にも「本邦初のエビデンスとして、SURF試験の結果が待たれる」と記述されている。その結果によっては、保険適用の基準に変更が加えられる可能性もある。
再発進行肝細胞がんや転移性肝がんにも行える
そうした現状を受け、当院では適応を拡大してラジオ波療法を行っているが、その対象は主に2つある。1つは再発進行した肝細胞がん、もう1つは他の臓器のがんが肝臓に転移する転移性肝がんだ。いずれに対しても、
「患者さんが希望し、適応があると思えたら、何個でも何回でもやります。とくに、手術も化学療法もできないけれども全身や肝臓の状態はよいという患者さんが、『これ以上できる治療はありません』と緩和ケアに送られてしまうのは忍びないと思っています。そういう患者さんの中には、ラジオ波をやれば寿命が確実に延びると思われる方も少なくありません。患者さんはあきらめず、ラジオ波焼灼療法の可能性を検討してほしいです」
ラジオ波焼灼療法は前記したように開腹せずに体の表面から穿刺し、肝臓の内部の病変に針を挿入して焼灼するので、たとえ病変が肝臓の奥にあってもくり抜くようにがん細胞を焼灼できる。当然、体の負担は確実に少なく、入院期間も短くて済む。
「手術が可能なケースでも、一度開腹手術を経験している患者さんの中には『もう手術はいやだ』と言われる方は少なくありません。癒着などの理由で、外科医が『できれば手術はしたくない』ということもあります。そのうえ、ラジオ波は分割してできる利点があります。例えば、がんが10個ある患者さんに行う場合、1回目に4個、2回目、3回目に3個ずつ焼灼するということもできます」
そうした治療だから、症例によっては化学療法と併用もできる。また、ラジオ波で腫瘍数が減った結果、手術が適応になった症例もあることから、肝がんのあらゆるステージで選択肢に入れておきたい治療法という感じがする。
キーワードは寿命。亡くなる直前まで行った例も
もちろん、治療の基本は手術、化学療法、放射線治療などすべての治療法の中で何が最適かを判断するため、「必ずしもラジオ波が第1選択ではありません。しかし、がんの数が増えてきて、通常なら分子標的薬に切り替えるような症例でも、ラジオ波の適応があれば併用で行います。腫瘍数が多すぎる場合には、たくさんある病変の中で予後(よご)に関わる病変を選択的に治療することもあります」
例えば、大きな腫瘍や急に大きくなるタイプの腫瘍では肝臓の表面が割れる、いわゆる肝破裂を起こすことがあり、出血性ショックの状態になる場合があるので、その予防にラジオ波療法を行うこともあるという。
「一番のキーワードは寿命です。侵襲が少なく、寿命が延ばせると判断したときには何度でも行います。肝細胞がんの初発時から、亡くなる直前まで行った患者さんもいます」
当院のホームページには、2006年~2016年の約10年間に行ったラジオ焼灼療法の成績がまとめられているが、延べ3,680例のうち肝細胞がんは2,780例、転移性肝がんは843例。転移性肝がんは全体の23%を占めている(図1)。
ラジオ波治療10回、焼灼病巣70個超の症例も
具体的な症例を3例、見てみよう。
Aさん(62歳女性):2006年1月に他院でS状結腸がん切除したが、肝臓に多発転移した。そこで2007年7月まで*FOLFOX4、*TS-1などの抗がん薬治療を行うが、効果が得られなかったため、2007年8月に当院を受診。肝転移巣20個中12個にラジオ波治療を行った。同時に、*mFOLFOX6+*アバスチン(BV)、*アービタックス(C-mab)などの化学療法を併用しながら、2011年4月まで計10回、全部で78個に対してラジオ波療法を行っている。Aさんは2011年9月に他院で亡くなられたが、ラジオ波療法から約3年半、生存した(図2)。
Bさん(57歳男性):2012年4月に他院で胃がんを切除後、TS-1の投与を受けるが、同年11月に4カ所の肝転移を発見。2013年1月から抗がん薬TS-1+*シスプラチン(CDDP)+*ハーセプチン(HER)、*タキソール(PTX)+ハーセプチンなどを行うが、同年12月に肝転移巣が増大。この病院ではラジオ波ができないと説明され、当院を受診した。
抗がん薬の投与を受けながら、2015年12月までに合計8回、31病巣へのラジオ波焼灼療法を受ける。その結果、効果があり肝切除が可能になったため、2015年12月に肝切除も行う。しかし、2016年8月に切除断端に再発し、2017年10月に他院で亡くなるまで、化学療法を併用しながら、さらに4回、7病巣のラジオ波療法を行っている。当院初診後から亡くなるまで、約4年生存することができた(画像3)。
Cさん(60歳男性):2016年2月、他院で膵頭部がんの手術を受け、術後に*ジェムザール+*アブラキサンの抗がん薬を投与されるが、半年後に腫瘍マーカーが上昇し始めてTS-1に変更。しかし、1カ月後に再び数値が上昇、抗がん薬治療が中止となる。2018年1月、肝転移が見つかり緩和ケアへの移行を進められるが、2月に当院を受診。直後に3個、4月に2個の病変に対してラジオ波療法を行い、9月現在、腫瘍マーカーは落ち着いている(画像4)。
*FOLFOX4=5-FU(フルオロウラシル)+エル-ロイコボリン(レボホリナート)+エルプラット(オキサリプラチン)による3剤併用療法 *TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム *mFOLFOX6=FOLFOX4は投与法が煩雑なためより簡素化したもの *アバスチン=一般名(BV)ベバシズマブ *アービタックス=一般名(C-mab)セツキシマブ *シスプラチン(CDDP)=商品名ブリプラチン/ランダ *ハーセプチン(HER)=一般名トラスツズマブ *タキソール=一般名(PTX)パクリタキセル *ジェムザール=一般名ゲムシタビン *アブラキサン=一般名ナブパクリタキセル
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