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新薬登場で骨髄移植が不要な患者が増加する可能性 急性骨髄性白血病(AML)に対する新しい分子標的薬が次々に登場予定

監修●矢野真吾 東京慈恵会医科大学附属病院腫瘍・血液内科教授/腫瘍センター長
取材・文●伊波達也
発行:2018年11月
更新:2019年9月

  

「一部の患者さんは新しい分子標的薬の登場で骨髄移植を行わなくても治癒する可能性が出てきます」と語る矢野真吾さん

かつては不治の病の印象が強かった血液のがん、白血病は、近年、化学療法の進歩により、根治を見込めるがんへと変わりつつある。その中の急性骨髄性白血病についても化学療法の選択肢が増えつつある。現在、有効性の高い1剤が保険承認され、7剤もの分子標的薬の臨床試験が日本で行われている。そんな急性骨髄性白血病の分子標的療法をめぐる今後の期待について、東京慈恵会医科大学附属病院腫瘍・血液内科の教授、矢野真吾さんに伺った。

急性骨髄性白血病治療のベースは変わらない

白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)の4つに分類される。ここでは、急性骨髄性白血病について取り上げる。

急性骨髄性白血病は、血液を作る細胞である造血幹細胞の中の骨髄系幹細胞から血液が作られる過程で、未熟な血液細胞である骨髄芽球(がきゅう)ががん化して増殖することで発症する病気だ。その発症率は人口10万人あたり5人、80歳では男性で50人、女性で30人ほど。

急性骨髄性白血病の治療は、通常「寛解導入療法」と、地固め療法などの「寛解後療法」に分けられる。寛解導入療法はキロサイドとダウノマイシン、あるいはキロサイドとイダマイシンの2剤併用療法である。地固め療法は高用量キロサイドが標準治療だ(図1)。


「このベースは30年変わりません」

そう説明するのは、東京慈恵会医科大学附属病院腫瘍・血液内科教授の矢野真吾さんだ。

なお、急性骨髄性白血病の1種である急性前骨髄球性白血病(APL)では、ベサノイドが使われる。

「急性前骨髄球性白血病は、もともと治りやすい白血病ではありましたが、出血など治療関連死もあり、最初の寛解導入療法で亡くなってしまう人もいました。ところが、1995年よりトレチノインというビタミンAの誘導体のベサノイドという分化誘導薬が発売され、急性前骨髄球性白血病の治療成績は向上しています」

キロサイド=一般名シタラビン ダウノマイシン=一般名ダウノルビシン イダマイシン=一般名イダルビシン
ベサノイド=一般名トレチノイン

予後中間群が問題に

「急性骨髄性白血病は、予後(よご)の良い群、予後中間群、悪い群に分けられます。これは染色体の異常や遺伝子変異の有無で分類します。良い群は化学療法だけで治癒に導ける一方、悪い群は造血幹細胞移植が必要になります。化学療法だけで治癒するのか、造血幹細胞移植が必要になるのか悩むのは予後中間群です。ガイドライン的には予後中間群は造血幹細胞移植を行うことを推奨していますが、同種移植を行わず治癒に導けないか模索されています。新しい分子標的薬の登場で、移植を回避出来る可能性がでてきました」

予後中間群に対しての治療はもちろんだが、分子標的薬は、高齢者や、併存症などにより臓器障害を持つ患者や再発・難治性(なんちせい)といった、未だ寛解へ導くのが難しい症例の治療の突破口になりそうだという。

再発・難治性の急性骨髄性白血病にマイロターグという分子標的薬によるGO治療法がある。マイロターグはCD33というタンパク質が陽性の患者が対象だ。

「この治療法は一時期、アメリカで有用性が立証されなかったことと、副作用が強いということで2010年に発売撤去となりました。その後、工夫して使うと予後の改善につながるというヨーロッパからの報告があり、2017年、再承認されました」

移植が適応できる比較的状態が良い若い人が再発した場合は、再度化学療法を行って再び寛解に入った時点で骨髄移植を行うのが一般的だ。しかし、高齢者や内臓に障害があり移植が適応できない人の場合には、かなり少ない量の抗がん薬か、マイロターグのような分子標的薬を減量して投与している。

造血幹細胞移植=自身の造血幹細胞を投与する自家移植とドナーの造血幹細胞を投与する同種移植がある 同種移植=臍帯血移植、骨髄移植、末梢血幹細胞移植 マイロターグ=一般名ゲムツズマブオゾガマイシン

いま開発中の分子標的薬は7剤

現在、分子標的薬は、新しく開発された7剤が、日本でも臨床試験に入り期待されている。

「今後、いろいろ出てくる分子標的薬には期待しています。通常の化学療法の治療成績をさらに向上させるタイプの薬と、通常の化学療法に耐えられない高齢者や、臓器障害のある人に対して投与し、生存率を高める(生存期間を延ばす)タイプの薬があります」

その中で注目されているのが、FLT3(Fms様チロシンキナーゼ3:フラットスリー)という遺伝子の変異を持つ患者に対して有効なFLT3阻害薬だ。FLT3の変異は、血液病患者の約4分の1が持っている(図2)。

■図2 血液がん患者の遺伝子変異

10%以上の患者に変異が起きていた遺伝子は5種類に限られ、最も頻度が高かったのがFLT3の変異(出典:日本内科学会雑誌 2015; 104: 1180-8.)

現在このFLT3阻害薬は、ゾスパタ、ミドスタウリン(一般名)、キザルチニブ(一般名)、FF-10101(治験薬記号)の4剤があり、その中の1つであるゾスパタという分子標的薬が、2018年12月、わが国で発売となる。

「今、私が期待しているのがFLT3阻害薬です。FLT3の変異があるタイプは治療成績が悪く、予後不良群に分類されます。この変異があると、薬物療法に効果を認めても再発のリスクが高く、すぐに移植をするか、移植が適応できない場合、高率に再発します。しかし、FLT3阻害薬を使うことによって治療効果が期待できるようになりました。私たちは別のFLT3阻害薬の治験に参加しましたが、治療抵抗性の白血病にも効果を認め、今後かなり治療効果が期待できる薬です」

通常の化学療法に併用して使う方法で治療成績が向上でき、再発した患者に対しては再度寛解に入れて移植を行える可能性があり、高齢者など移植不適応な人の生存期間を延ばすことができるという。

FLT3の変異を認める人に使うタイプの薬でもう1つ、キザルチニブという分子標的薬の第Ⅲ相の治験が行われている。移植後の再発予防の効果を期待するものだ。

「私たちが参加した治験はキザルチニブです。化学療法を行い再発し、他の化学療法に効果がなかった若い患者さんにキザルチニブを単剤で投与したところ、寛解を得ることができました」

欧米で承認されたミドスタウリンというFLT3阻害薬は、日本ではまだ第Ⅱ相試験の段階だ。FF-10101というFLT3阻害薬はこれから第Ⅰ相試験に入る(図3、図4)。

ゾスパタ=一般名ギルテリチニブ

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