乳がん、前立腺がん、膵がんの保険適用にも期待
ピンポイントでがんを狙い撃ち! 副作用が少ない治療「サイバーナイフ」
サイバーナイフは、頭頸部・脊椎以外の病気でも保険診療が望まれていた。2009年、ついに肺、肝臓といったがんで、腫瘍の大きさや個数など制限つきではあるが保険適応となった。放射線治療の最先端でもあるサイバーナイフのメリット、デメリット、そして適応や限界はどうなっているのだろうか?
ミサイルの技術を応用し、標的の動きを把握
がんの放射線治療の理想は、がん細胞に放射線があたり、まわりの正常な細胞には一切あたらないことだ。それが可能なら、まわりの細胞を傷つけることから起こる副作用や後遺症を気にせず、高線量の放射線をがん細胞だけにあてることができる。
近年、コンピュータ技術と画像診断技術の進歩にともない、そんな理想に近い放射線治療機器が次々登場している。サイバーナイフもその1つ(図1)。関東脳神経外科病院サイバーナイフセンター長の井上洋さんは語る。
「サイバーナイフはピンポイントでターゲット(病巣部)を、いろいろな方向から狙い撃ちします。しかも、患者さんが多少動いても、コンピュータが瞬時に位置修正を行うため、目標がずれません」
では、サイバーナイフは具体的にどう使われるのか?
恐竜の頭にあたる部分は200kgに軽量化されたリニアック。精密に動くロボットアームに搭載したことで、全方向から放射線が撃てるようになった。これに2台のカメラとパネルからなる病変追尾装置と呼ばれる装置が搭載され、患者さんの位置は常時把握され、治療器が調整される。これにより、
「およそ100のポイントから各12方向、つまり、計1200もの方向から正確に放射線が撃てるようになりました」(図2)。
皮膚にも優しい微弱ビーム100本集まれば強力高線量
X線は皮膚表面にもダメージを与えるが、サイバーナイフのビーム1本1本の線量は微小なので、皮膚への影響が少ない。また、重要な臓器などを通過しない通り道を選んで放射線を照射するので、他の臓器への影響も少なくてすむ。しかし、微小なビームも、1つのターゲットに100本、150本と重なり集中すれば、大きな線量となる。
「サイバーナイフの特徴の1つは『高線量を短期にできる』点なので、できるだけ1回で治療を終了します。たとえば、転移性脳腫瘍なら、1回に20グレイという途方もない線量を照射します。これは、通常の放射線治療で考えますと、1回2グレイを30日間かけて照射した場合の累積線量である60グレイと同じ効果があります」(画像3)
病状や状態によっては、必要線量を確保するため分割照射を行うが、多くは5、6回で終了するという。
治療のメリットとしては、
① 高い治療効果(がんをピンポイントで狙い撃ち)
② 少ない副作用や後遺症(まわりの臓器にあたる放射線量が少ない)
③ 体にメスを入れないので麻酔が不要で、傷や痛みがない
放射線を積極的に使う治療を「放射線外科治療」と呼ぶこともあるが、その考え方は「切開せずにターゲットを破壊する手術」。病巣はほぼ確実に破壊される。にもかかわらず、麻酔が不要で、治療後の傷や痛みもないのだ。
④ 短い入院・治療期間
関東脳神経外科病院のホームページには、「通常2泊3日ほどの入院、分割照射の場合、5~7日」という1文に続けて、「通院可能の場合は外来治療が可能となります」と書かれている(図4)。
治療の流れは簡単で、「治療日を決定したら、入院1日目に、病巣のある身体部位の大きな動きを抑える網状のマスクを、熱可塑性プラスチックでつくり、CTとMRIの検査を行い、そのデータを治療機のコンピュータに転送する(病巣を攻撃する際の「地図」として使用)。→2日目に治療→3日目に退院。あとはCT、MRIで経過を追う」ということになる。
入院したくない患者さんは、数日間通って、検査と治療を受けることができるのだ。
同じカテゴリーの最新記事
- 化学・重粒子線治療でコンバージョン手術の可能性高まる 大きく変わった膵がん治療
- 低侵襲で繰り返し治療ができ、予後を延長 切除不能膵がんに対するHIFU(強力集束超音波)療法
- 〝切らない乳がん治療〟がついに現実! 早期乳がんのラジオ波焼灼療法が来春、保険適用へ
- 肝がんだけでなく肺・腎臓・骨のがんも保険治療できる 体への負担が少なく抗腫瘍効果が高いラジオ波焼灼術
- 大規模追跡調査で10年生存率90%の好成績 前立腺がんの小線源療法の現在
- 心臓を避ける照射DIBH、体表を光でスキャンし正確に照射SGRT 乳がんの放射線治療の最新技術!
- 2年後には食道がん、肺がんの保険適用を目指して 粒子線治療5つのがんが保険で治療可能!
- 高齢の肝細胞がん患者さんに朗報! 陽子線治療の有効性が示された
- 腺がんで威力を発揮、局所進行がんの根治をめざす 子宮頸がんの重粒子線治療
- とくに小児や高齢者に適した粒子線治療 保険適用の拡大が期待される陽子線治療と重粒子線治療