受診率アップのためには若い世代への意識付けが肝要 大学生に対する子宮頸がん検診啓発活動を実施~福井県
日本で子宮頸がん検診の対象となる20歳以上の女性の受診率は、全体で42.3%(※2016年 国民生活基礎調査 厚生労働省より)と、先進国の中で特に少ないことが知られている。子宮頸がんの罹患が若年化傾向にあることや妊孕(にんよう)性温存を考えると、若い年代からの検診習慣が望まれる。
福井大学医学部では、県の委託を受けて2017年から福井県内の5大学の学生に対し、子宮頸がん検診を啓発する講義を行っている。この活動内容について、福井大学医学部産科婦人科の知野陽子さんに話を伺った。
若年化が顕著な子宮頸がんは性感染するHPVが主な原因
子宮頸がんの罹患者は年々若年化している。1970年代から80年代にかけては50~60歳代が発症のピークだった。しかし、2000年代になると20~30歳代の患者が増加し、今では30歳代の罹患率がピークとなっている(図1)。
「若年化の理由の1つとしては、初交(初めての性交)年齢が若くなっていることが考えられます」と、知野さんは言う。なぜなら、子宮頸がんはHPV(ヒトパピローマウイルス)による性感染が原因だからだ。
HPV自体はありふれたウイルスで、性交経験があれば性別関係なく誰でも感染する可能性がある。仮にHPVが子宮頸部に感染したとしても、ほとんどの場合は免疫の力で自然に排除されるが、中にはウイルスが排除されずに長期間感染が続く場合がある。こういったケースのうち、一部は自然治癒せずに異形成と呼ばれる前がん病変となり、数年、時には十年以上かけて子宮頸がんへ進行するのだ。
「HPVは百数十種類以上の型があり、性交経験のある女性の約8割が一度はこのいずれかに感染すると言われています。そのうち悪性化しやすいハイリスクな型は14種類あり、特に16型と18型は子宮頸がん患者の約7割から見つかっていますが、特に20歳代の子宮頸がん患者では、約90%が16型・18型が原因です。しかし、ハイリスク型に感染したからといって必ずしも子宮頸がんになるわけではなく、発病しない人や、異形成のまま進行しない人もいますし、消滅してしまうケースもあります。ちなみに子宮頸がんワクチンは、この16型と18型を予防するワクチンです」と、知野さんは説明する。
先進国の中でワーストな日本の検診受診率
現在、日本では年間約1万人の女性が子宮頸がんに罹患し、約3,000人が死亡している。今世紀に入ってからは患者数・死亡率とも増加しており、残念なことに、これは他の先進国とは異なる現象である。
その理由の1つとして考えられるのが子宮頸がん検診の受診率の低さだ。子宮頸がん検診の有効性は世界各国で証明され、国策として対策型検診(*1)が行われている。アメリカは任意型検診(*2)だが、実に8割超えの受診率である。
日本では、2010年から国が行っているがん検診の普及啓発活動(*3)などによって子宮頸がん検診受診率は倍増しているものの、それでも約4割と先進国の中では低い(図2)。
「福井県の子宮頸がん検診の受診率も、ここ数年42%前後で推移しています。若い年代の受診率は最も低い。毎年20歳になる女性に対して自治体から検診無料クーポンが送付されるのですが、それでも2018年度の受診率はわずか12.2%でした。もちろん性交経験のない人は受診しませんから、その分を割り引いて考える必要はあります」と、知野さんは話す。
「若い世代から2年に一度の検診を習慣づけてもらうために、福井大学医学部産科婦人科では、福井県保健予防課から委託を受け、同課・福井県健康管理協会・福井県産婦人科医師連合と協力して、2017年から福井県内の大学生に向けて、性感染症と子宮頸がん検診啓発のための講義を行っています」
*1:対策型検診…がん死亡率の減少を目的として公的な予防対策として行われる検診。住民検診、職域検診など。
*2:任意型検診…医療機関などが任意で提供する医療サービス。人間ドックなど。
*3:「がん検診受診率50%達成に向けた集中キャンペーン」(厚生労働省)
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