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国際的な大規模臨床試験で評価高まる
進行肝がんに対する分子標的治療の新しい成果

監修:高山忠利 日本大学医学部消化器外科教授
取材・文:七宮 充
発行:2012年1月
更新:2019年7月

  
高山忠利さん
肝がんの治療法は多彩で、
しかもめざましい進歩を
遂げていると話す
高山忠利さん

最近の肝がんの治療法は、以前に比べ格段に向上しています。その1つがネクサバールという分子標的治療薬の成果で、生存期間や病気が進行するまでの期間を延長する効果につながっています。

肝がんの主因は肝炎ウイルス

毎年、肝がんと診断される人は全国で約3万5千人。その95パーセントが「肝細胞がん」で、一般的に肝がんと呼ばれているのは、この肝細胞がんのことです。肝がんの主因はB型、C型肝炎ウイルスで、かつては90パーセント以上を占めていました。しかし、B型肝炎ウイルスでは母子感染がブロックされ、C型肝炎ウイルスも輸血の際のチェック体制が確実なものになって、新規の発生はとても少なくなっています。とはいえ、以前に感染し、今でも持続的にウイルスを持っているキャリアは多く、こうした人が将来、肝がんになる危険性が高いということになります。

ただ、原因がはっきりしているため、定期的に血液やエコー検査でチェックして早期発見につなげたり、インターフェロン療法を行うなどリスクを減らす事前対策をとることが可能です。高山さんは「そこが、胃がんや大腸がんなどと異なる肝がんの1つの大きな特徴」と指摘します。

治療法は多彩

肝がんの治療は、がんの個数、大きさ、そして肝機能の状態(肝障害度)によって、もっともふさわしい方法が選択されます(図1)。見つかったがんが1個で、肝障害度が軽度(A)~中等度(B)の場合は、手術がファーストチョイスとなります。高山さんによると、「肝臓の中に転移がなかったり、門脈(栄養分を含んだ血液を肝臓に運ぶ血管)や肝静脈にがんが入り込んでいないケースは、手術が可能で治る可能性が高い」ということです。

[図1 肝細胞がんの治療アルゴリズム]

図1 肝細胞がんの治療アルゴリズム

* 脈管侵襲,肝外転移がある場合には別途記載 † 肝障害度B,腫瘍径2cm以内では選択 ‡ 腫瘍が単発では腫瘍径5cm以内
※ 脈管侵襲を有する肝障害度Aの症例では肝切除が、肝外転移を有する症例では化学療法が選択される場合がある。

科学的根拠に基づく肝がん診療ガイドライン(2009年度)

ちなみに、肝切除の技術は飛躍的に進歩しており、20年前わずか20~30パーセントだった手術後5年目の生存率は、60パーセント近くに到達しています。もっとも、肝臓には多くの血管が集中しており、いかに出血量を少なくしてがんを切除するか、外科医の腕が問われるのも事実です。

「かつては肝臓を切ると5000~1万ccもの出血がありました。最近では丁寧に止血しながら手術することで、平均1000ccの出血に抑えられています。我々のチームの場合、出血量は400ccほど。ですから輸血の必要がありません」と高山さん。

一方、がんが2~3個で、肝機能が軽度(A)~中等度(B)の症例では、がんの大きさが3センチを目途に、治療法が変わってきます。3センチ以内なら第1選択は切除手術ですが、最近は手術以外の局所療法として身体に負担の少ない「ラジオ波焼灼療法」を選ぶ患者さんも増えています。エコー画像で肝臓を映しながら、針を肝がんの部分に刺し、高周波のラジオ波を流して、がんを焼き固める方法です。お腹を切る必要がなく、3~5日ほどで退院できる利点があります。

がんが3センチを越えるケースでは、切除手術か「肝動脈塞栓療法」が選択されます。肝動脈塞栓療法は、がんの栄養源となっている血管(肝動脈)を塞ぎ、血流を止めてがんを兵糧攻めする治療法です。繰り返し行うことで、がんの進行を止めたり、少数例ですが治癒する方もいます。

期待集めるネクサバール

このように肝がんの治療法は多彩で、しかもめざましい進歩を遂げています。しかし、すべての患者さんがその恩恵を受けられるわけではありません。高山さんによると、たとえば外科手術の場合、実際に適応になるのは肝がん全体の3割程度。「がんが進行していたり、転移があったり、肝硬変で肝機能が低下して手術できない患者さんが7割を占める」といいます。

手術不能の進行肝がんに対する最後の砦は化学療法であり、代表的な抗がん剤としては、シスプラチン()、5-FU()、ファルモルビシン()などがありますが、「残念ながら単剤だけでは芳しい成績が得られていない」(高山さん)のが実情です。

そうした中で最近、ネクサバール()という新しい抗がん剤が登場し、期待を集めています。この薬は、分子標的治療薬というタイプで、①がん細胞が増え続けるのを抑える、②がん細胞に栄養を送る新しい血管が作られることを邪魔する、という2つの働きによって、がんの進行を食い止めます。

一般に抗がん剤の効果は、CR(完全寛解:著しい効果)、PR(部分寛解:部分的な効果)がどれだけあったかで評価されます。ネクサバールの場合、これまでの市販後調査の臨床成績によると、CR、PRを合わせても4.7パーセントにとどまります。これは決して高い数字ではありません。しかし、がんを縮小しないまでも大きくしない効果があり、SD(不変)の患者さんが32.4パーセントにものぼることが明らかになっています。

これは、ネクサバールが長期にわたってがんの進行を抑えている証拠の1つで、高山さんは「それが生存期間や病気が進行するまでの期間を先延ばしする効果につながっている」と指摘します。

実際に高山さんは、そうした患者さんを数例経験しています。その症例を紹介します(写真3)。

[写真3 症例(70歳 男性)CT画像]

写真3 症例(70歳 男性)CT画像

70歳の男性は、来院した時点で肝がんが進行しており、手術不能で余命2~3カ月と診断されました。その後、肝動脈塞栓療法を数回行い、その後にソラフェニブを使用したところ、肝がんの大きさは投与直前のCTで14x12cmで、投与約1年後のCTで13x11cmとやや縮小しています。ただし、肝がん取扱い規約での抗腫瘍効果はSDとなります。さらに、全身状態も改善し、2年半たった現在でも元気に暮らしています

シスプラチン=一般名
5-FU=一般名フルオロウラシル
ファルモルビシン=一般名エピルビシン
ネクサバール=一般名ソラフェニブトシル酸塩


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