門脈塞栓術、静脈再建術を活用し、肝機能を保つ手術が今注目
肝臓をなるべく温存。それが肝がん治療のカギ
肝がんの治療法にくわしい
長谷川潔さん
肝がんはほかのがん種と異なり、手術、ラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法の3つが標準的な治療となっています。
根治性を保ちつつ、肝臓に与えるダメージをなるべく少なくするのが肝がんの治療成績を高めるポイントです。
肝がんは5年以内に7~8割が再発
肝がん(95パーセントは肝細胞がん)の主な原因は、ウイルス性の慢性肝炎にあるというのが他のがんにはない、肝がんの特徴です。これが肝がんの治療にも大きな影響を与えています。
「肝がんが他のがんと決定的に違うのは、治療において腫瘍の大きさや深さなど以外に、肝機能の状態が重要だということです。肝がんの人はウイルス感染などによって、肝臓自体がダメージを受けていることが多いため、きちんとした治療をしても再発しやすく、再発を念頭に治療戦略を立てなければなりません」
こう話すのは、東京大学大学院医学系研究科臓器病態外科学肝胆膵外科准教授の長谷川潔さん。
実際、肝がんは初発のがん治療がうまくいっても、その後5年の間に7~8割は再発するといいます。
肝がんの標準的な治療法は、『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』に掲載されている「肝癌治療アルゴリズム」(最新版は2009年版)。これは肝障害度、腫瘍の数、腫瘍の直径を考慮し、エビデンス(科学的根拠)に基づいて示された治療の指針です。また、医療の現場では、『コンセンサスに基づく治療アルゴリズム』も幅広く利用されています。
「『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』が診療の大枠を述べているのに対し、『コンセンサスに基づく治療アルゴリズム』はエビデンスが不十分な内容も含まれていますが、より細かな疑問に答えている面があります。また、2010年に発表されているため、前者より新しい知見が含まれており、参考になります」
手術ではできるだけ肝機能を残す
肝がんで根治が望める場合、まず選ばれるのは手術です。ただし、肝がんで手術できるのは、肝機能がある程度保たれ、腫瘍の数が3個以内の場合です(大きさは問わない)。
肝機能から手術の術式を決めるには、「幕内基準」(現日本赤十字社医療センター院長の幕内雅敏さんが考案)と呼ばれる判定基準が定められています。これは腹水の有無、黄疸の状態を示す「血清総ビリルビン値」、肝機能を示す「ICG(インドシアニン・グリーン)試験15分値」の3つを調べます。基準をクリアすれば、手術が行われます。肝臓は肝機能が正常であれば、3分の2ほど切除しても数カ月で再生しますが、慢性肝炎では30パーセント、肝硬変では15パーセントしか切除できません。そして、肝障害度や発症部位によっても切除可能な量は決まります。肝臓は生命を保つのに欠かせない臓器で、なるべく切除範囲は少ないほうがいいのです。
通常は、肝臓の一部だけを切除する「区域切除」と呼ばれる切除法が主流となっています。肝臓は8つの区域に分類されますが、腫瘍の部位によって区域ごとに切除し、肝機能を温存しながら再発リスクも下げる手術法です。
超音波画像を見ながら、腫瘍が存在する区域の門脈(*)に針を差して色素を注入し、色素に染まった部分(門脈の支配域)を切除します。今では画像診断のハイテク化により、1ミリ幅の精密なCT画像に基づいて、手術前シミュレーションができるようになっています。
「切除範囲を必要最小限にとどめる方法は常に模索されつづけています。いかに肝臓を残すかが治療を成功させるカギだからです」
*門脈=消化器から吸収した栄養を肝臓に運ぶ静脈の一種
肝機能を保つさまざまな手術法
残せる肝臓の容量を少しでも多くし、肝機能を保つ方法として門脈塞栓術や静脈再建術も行われます。たとえば、切除するのが右の肝臓の場合、門脈塞栓術では右の門脈を詰めると、右の肝臓へ栄養がいかなくなり小さくなるのです。すると、それを補おうと左の肝臓が大きくなり、肝臓全体の容量が保たれるのです。
一方、静脈再建術とは、手術で切った静脈をつなぐことで、血液が心臓へ戻るルートを確保し、門脈で血液が逆流することを防ぎます。門脈で血液が逆流すると、その部分の肝臓が萎縮してしまうのですが、それを防ぐことができるのです。門脈、肝静脈に支配されている肝臓がどれぐらい残せるかをコンピュータで細かく計算し、的確に切除範囲を割り出しています。
また、最近では体への負担が少ない腹腔鏡手術(内視鏡手術の一種)が、肝がんでも行われるようになっています。
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