治療法を選択するための3大因子、「肝障害度」「腫瘍数」「腫瘍径」をしっかり把握することが大切
治療法がよくわかる「肝癌診療ガイドライン」のすべて
日本大学医学部
消化器外科教授の
高山忠利さん
手術、ラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法など、肝がんは打つ手がいろいろある。
患者さんにとってはうれしいことだ。だがかえってそれが、患者さんの治療方針に対する理解を妨げている部分もあるようだ。
そこで、肝がんの診療ガイドラインをわかりやすく解説。この際、治療方針をしっかりおさえよう。
今年中に改訂版が出るが基本的内容は変化なし
『肝癌診療ガイドライン』(初版)が刊行されたのは2005年2月。それからすでに4年余りが経過し、今年中には改訂された第2版が刊行される予定だという。編集作業はすでに終盤に差しかかっているようだ。
その内容が気になるところだが、ガイドラインの作成に関わっている日本大学医学部消化器外科教授の高山忠利さんによれば、「治療法の選択が根本から変わるような変更はない」という。そこで、現時点における最新版である2005年版に従って、解説してもらうことにした。
このガイドラインには、第1章が始まる前に、2つのアルゴリズムが掲載されている。1つは「肝細胞癌サーベイランスアルゴリズム」、そしてもう1つが「肝細胞癌治療アルゴリズム」である。
アルゴリズムとは、数学用語で「問題を解くための手順や方法」といった意味を持つ。何を行ったらいいかを示した手引きと考えたらいいだろう。
サーベイランスアルゴリズムは、肝臓がんのハイリスク群(B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、肝硬変の人たち)を、どのようにサーベイランス(監視)していけばいいかを示したものだ。肝臓がんの大部分はハイリスク群に発生することがわかっているので、この人たちを対象に、どのようなときに、どのような検査を行うべきかを決めておき、早期の発見につなげようというのである。
サーベイランスアルゴリズムが作成されているのは、肝臓がんの大部分がハイリスク群の人に発生するためだが、ここ数年、その状況に変化が現れているという。
「かつては肝臓がんの患者さんを100人手術すると、そのうちの95人はB型かC型の慢性肝炎や肝硬変から肝臓がんになった人たちでした。ところが、この4~5年、B型にもC型にも感染していない人が増えています。最近だと、100人中15~20人は、B型やC型にも感染していない患者さんですね。はっきりした理由はわかっていません」
こうした傾向が現れてはいるものの、ハイリスク群の人たちに対して、適切なサーベイランスが行われることの重要性が低下したわけではない。
もう1つの治療アルゴリズムは、肝臓がんと診断がついた後、どのような治療が選択されるべきかを示している。今回は、肝臓がんの患者さんが主な読者であると想定し、このアルゴリズムを中心にまとめていくことにしよう。
3つの因子によって治療法を選択する
この治療アルゴリズムの最大の特徴は、非常に簡潔にまとめられている点だろう。治療法の数も絞り込まれているし、そこに行き着くまでの道筋もきわめてシンプルだ。
アルゴリズムを作成した高山さんによると、よりわかりやすいものにするために、治療法を選択するためのファクターを、「肝障害度」「腫瘍数」「腫瘍径」の3つに絞り込んだという。
3つのファクターのうち、肝障害度については簡単に説明しておく必要があるだろう。肝障害度は、A(軽度)、B(中等度)、C(重度)の3段階に分けられる。5項目の検査値などから、肝臓がどの程度障害されているかを推定したものである。
「具体的にどのような状態かというと、Aは慢性肝炎か軽度の肝硬変レベル、Bは中等度の肝硬変レベル、Cは重度の肝硬変レベルです」
AかBであれば治療法を選択する余地があるが、Cになるとできることはかなり限られてしまうようだ。
肝障害度 | |||
---|---|---|---|
項目 | A | B | C |
腹水 | ない | 治療効果あり | 治療効果少ない |
血清ビリルビン値(mg/dl) | 2.0未満 | 2.0~3.0 | 3.0超 |
血清アルブミン値(g/dl) | 3.5超 | 3.0~3.5 | 3.0未満 |
ICG R15(%) | 15未満 | 15~40 | 40超 |
プロトロンビン活性値(%) | 80超 | 50~80 | 50未満 |
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