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ラジオ波療法、塞栓療法、肝動注等、IVR治療それぞれの選び方、使い方のポイント
打つ手はある 肝臓がんが再発しても、IVR治療

監修:塩澤俊一 東京女子医科大学東医療センター外科講師
取材・文:黒田達明
発行:2009年7月
更新:2013年4月

  
塩澤俊一さん
東京女子医科大学
東医療センター外科講師の
塩澤俊一さん

再発率が高い肝臓がん。手術で切除するという方法もあるが、再発率の高さを考えると、あまり体への負担が大きい治療は避けたい。
そうした時に、治療の選択肢としてあげられるのが体への負担が小さいIVR治療だ。

再発肝臓がん治療負担が小さいIVRが中心

[肝切除後の再発に対する初回治療方法の種類]
図:肝切除後の再発に対する初回治療方法の種類

出典:第17回全国原発性肝癌追跡調査報告(2002~2003).日本肝癌研究会事務局,2006.

再発肝臓がんの治療で、大きな役割を果たしているのが、ラジオ波焼灼療法(ラジオ波療法)や肝動脈化学塞栓療法(塞栓療法)などの低侵襲(治療による体の負担が小さいこと)な治療法だ。日本肝癌研究会が全国規模で行った調査報告(2002~2003年)によれば、初回治療では手術による肝切除が選択されることが最も多く、3分の1を占める。これに対し、切除後の再発に対する治療では、塞栓療法が3分の2、ラジオ波療法などの局所療法が4分の1強を占めている。

ラジオ波療法や塞栓療法などの治療法はひとまとめにIVRと呼ばれる。インターベンショナル・ラジオロジー(Interventional Radiology)の略で、「放射線診断技術の治療的応用」などと訳されるが、放射線療法の一種ではない。血管造影検査などの画像診断技術の応用から生まれたことに由来する名称で、内科や放射線科を中心に行われている。

ではなぜ再発肝臓がんの治療ではIVRが大きなウエイトを占めるのか。また、IVRの各治療法にはどのような特徴・効果があるのだろうか。東京女子医科大学東医療センター外科講師の塩澤俊一さんに話を伺った。

再発の形式で異なる治療選択の方針

「再発肝臓がんの場合でも、『肝癌診療ガイドライン』に掲載されている肝細胞がん治療アルゴリズムに則って考えることが基本になります。アルゴリズム(手順)を見て分かるように、治療選択で最も重要なポイントは、がんの進行度と肝機能の良悪の2つを含めて判断することにあります。たとえ、がんが治療できても肝機能が失われれば、肝不全から生命の危機に陥ってしまうからです」

しかし、アルゴリズムさえ見れば治療法が決まるかというと、話はそれほど単純ではない。再発ならではの検討事項もある。再発の種類による対応の違いだ。

肝臓がんの再発率は2峰性を示すと言われる。再発時期の統計を見ると、初回治療後2年以内に再発するケースが最も多い。その後はいったん再発率が下がり、4、5年目に再び再発率が増加してピークを迎える。前者を早期再発、後者を晩期再発という。

「早期再発の場合は肝内転移の場合が多く、比較的悪性度が高いがんであると考えられます。再発でも肝障害度が低く、腫瘍が1個であれば切除が1番いい治療法であることは明らかなのですが、腫瘍の位置や患者さんの状態によっては、侵襲性の高い治療は控えたほうがいいという判断も生まれます。仮に再切除しても、またすぐに再発してしまう可能性が高いからです」

切れば、腫瘍だけなく周囲の正常な肝組織も部分的に失われる。その分だけ、次の治療時に条件が厳しくなってしまうこともある。

「早期再発の場合に大切なことは、現状への対処だけでなく、次の治療まで視野に入れた上で、治療の選択を行うことです」

再発肝臓がんの治療で低侵襲のIVRが多用される理由の1つには、こうした事情があるのだ。一方、晩期再発の場合は、新たながんが生じたと考えられ、初回治療と同様に考えて治療を選択すればよいという。

[肝細胞がん治療アルゴリズム]
図:肝細胞がん治療アルゴリズム

出典:肝癌診療ガイドライン2005年版、金原出版

ラジオ波焼灼療法治療の確実性が高い

肝細胞がん治療アルゴリズムでIVRにあたるのは、「局所療法」「塞栓療法」「肝動注」の3つ。

「局所療法」では、現在、ラジオ波療法が代表格になりつつある。皮膚からがんに針電極を刺し、針先から生じる低周波の電磁波によって生じる熱でがんを焼き殺す治療法だ。治療後数日の入院で退院できるので、患者さんの負担も少ない。

「IVRの中では最も腫瘍壊死効果が高い治療法と言えるでしょう。切除が適応になる患者さんでも、切除にはある程度のリスクを伴うことや、高齢者で全身麻酔に問題があったりする場合には、ラジオ波療法が選択肢になると思います」

適応は、肝障害度がAまたはBであること。腫瘍は3個までで、3センチ以内であること。治療は超音波で腫瘍の位置を確認しながら行う。必要に応じて追加で治療するなど、何度でも繰り返し行える。ただし、注意点もあるという。

「ラジオ波療法の成績は治療者の技術や経験に依存するところが大きいようです。たとえ腫瘍径が3センチ以上であっても、高度な技術で治してしまう先生もいます。他方で、技術的な問題から急速な再発をきたしてしまったという報告もあります。焼き残しがあったのでしょう。ラジオ波療法を受ける場合は、豊富な治療経験を持つ施設を選ぶことをお勧めします。ちなみに当院では、とくに適応外のラジオ波療法を行う場合は、実績のある施設を紹介しています」

その他の局所療法として、現在はラジオ波療法に代替されつつあると言われるエタノール注入療法(エタ注療法)やマイクロ波凝固壊死療法(マイクロ波療法)がある。エタ注療法は99パーセント純エタノールを穿刺針でがんに直接注入することで、がん細胞を壊死させる治療法。マイクロ波療法は、ラジオ波療法とよく似た技術だが、ラジオ波よりも1回で治療できる範囲が小さい。

「エタ注療法は腫瘍制御力(確実にがんを殺す能力)ではラジオ波療法に劣りますが、使い方次第では今でも便利な治療法です。ラジオ波療法は使用する針が太く、出血や胆汁漏れといった合併症が5パーセントくらいはあるようですが、エタ注療法はリスクがより少なく、外来で手軽にできるというメリットがあります。エタノールは頻回に打てますから、こまめに治療を行えば、有効でしょう」

[肝障害度]

  肝障害度
項目 A B C
腹水 ない 治療効果あり 治療効果少ない
血清ビリルビン値(mg/dl) 2.0未満 2.0~3.0 3.0超
血清アルブミン値(g/dl) 3.5超 3.0~3.5 3.0未満
ICG R15(%) 15未満 15~40 40超
プロトロンビン活性値(%) 80超 50~80 50未満

2項目以上の項目に該当した肝障害度が2ヵ所に生じる場合には高い方の肝障害度をとる

出典:臨床・病理原発性肝癌取扱い規約(第5版)より一部改変


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