肝臓がん、これだけは知っておきたい基礎知識
手術だけでなく化学療法の進歩にも期待
千葉大学大学院
臓器制御外科学教授の
宮崎勝さん
肝胆膵がんはひとまとめにして語られることの多いがんだが、ほんとうに似かよったがんなのだろうか。
肝臓、胆道、膵臓の位置と働き、そして、肝臓がんについて基本となる特徴および治療について千葉大学大学院臓器制御外科学教授の宮崎勝さんに伺った。
肝胆膵がんはまったく性質の異なる3つのがん
肝臓がん、胆道がん、膵臓がんは、まとめて一緒に語られることがよくある。今回の特集もそうだが、「肝・胆・膵」をひとまとめにするという発想が、一般的にはしばしばあるようだ。では、これらの3種類のがんは、よく似たがんなのだろうか。その点から、千葉大学大学院教授の宮崎勝さんに聞いてみた。
「結論から言えば、この3つのがんは、それぞれまったく違う別々のがんです。胆道がんと膵臓がんは多少似た部分もありますが、肝臓がんとはまったく違います。病気のほうから見ていけば、肝胆膵がんは、あくまで3種類の別々のがんで、ひとまとめにする根拠はないでしょうね」
では、どうしてまとめて語られることが多いのだろうか。
「実は、これは治療する側からの分類なんですよ。肝臓、胆道、膵臓は近接臓器です。外科治療の場合、解剖学的に近くにある臓器は、当然、その領域に習熟した医師がよく治療します。肝臓の手術を行う外科医は、胆道のこともよくわかるし、胆道をやる外科医は、膵臓もすぐ近くにあるので、よくわかったうえで手術することができる。ということで、肝胆膵外科という言葉があるし、肝胆膵がんという言い方もするわけです」
つまり、肝胆膵がんをひとまとめにするのは、診断および治療する医師の側からの分類、とくに外科的によく用いられる分類ということになるようだ。
「白血病のように内科が治療の中心となる病気と違い、肝胆膵がんでは外科が治療の中心となってきた経緯があります。それが、こういった分類にも現れているのでしょうね」
そこで、それぞれのがんについては、別々に解説していくことにしよう。その前の基礎知識として、肝臓、胆道、膵臓の位置と働きについて、知っておく必要があるだろう。
肝臓と胆道と膵臓の位置関係は、図のようになっている。
肝臓は人間の体内にある最大の臓器で、右葉と左葉に分かれている。主な働きは、(1)胆汁の合成、(2)栄養物の分解・合成・貯蔵、(3)有害物の分解、などである。
胆道は、肝臓で作られた胆汁の流れていく通り道の総称。管である胆管と、胆汁を一時的に溜めておく胆のうから成る。胆汁は消化液なので、胆管は十二指腸につながっていて、そこから腸内に分泌される。
膵臓は、消化液である膵液を分泌する働きを持つ臓器。作られた膵液は、膵管に集められて流れていく。最後は胆管と一緒になり、十二指腸につながっている。また、膵臓は、インシュリンというホルモンを内分泌する重要な働きも担っている。
次に、肝臓がんについて、基礎知識を学んでいくことにしよう。
日本人の肝臓がんの大部分はウイルスが原因
肝臓がんとは肝臓で発生するがんで、肝臓の中にある胆管にできる肝内胆管がんを肝臓がんに含める分類方法もある。しかし、通常は、肝臓の細胞から発生する肝細胞がんを肝臓がんといい、肝内胆管がんは胆道がんの一部とする。
ここではこの分類に則って説明していこう。
肝臓がんが他のがんと大きく異なっているのは、原因がはっきりしていることだ。日本人の肝臓がんであれば、そのほとんどが肝炎ウイルスの感染が原因になっている。とくに多いのがC型肝炎ウイルスで、B型肝炎ウイルスが原因のこともある。
ここで誤解しないでほしいのは、肝炎ウイルスに感染した人が、みんな肝臓がんになるわけではない、ということだ。肝臓がんになるのは、肝炎ウイルスに感染した人のごく一部。ただ、日本で肝臓がんを発症する人のほとんどが、肝炎ウイルスに感染している人なのだ。
「肝炎ウイルスの感染はアジア地区に多いのが特徴で、日本ではC型が多いのですが、台湾ではB型が圧倒的に多い。どちらも肝臓がんの原因になります。欧米では、かつてはアルコール性の肝障害から肝臓がんになる人が多かったのですが、最近はウイルス性の肝障害から肝臓がんになる人が増えてきました。アジア地区からの移民が増えたことが関係しているとも考えられています」
肝炎ウイルスに感染してから、肝臓がんが発生するまでには長い年月を必要とする。通常は、慢性肝炎を発症し、さらに肝硬変へと進行してから、がんが出てくるのが普通だ。
「ただし、頻度は少ないですが、肝硬変を経ずに、慢性肝炎の段階でがんが発生することもあります。慢性肝炎だからまだ心配ない、とは言えないわけです」
このように、ほとんどの肝臓がんは、障害を受けた肝臓に発生してくる。これが肝臓がんの治療を難しくしている大きな理由だ。
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