治療法がなかなかなかった難治性の病気に、延命への希望が生まれた
2種類の薬の登場により骨髄異形成症候群の治療は新時代へ!
自治医科大学医学部
内科学講座 血液学部門講師の
鈴木隆浩さん
難治性の血液がんの一種、骨髄異形成症候群に、昨年から立て続けに2種類の薬が承認され、治療の選択肢の広がりに希望が持てるようになってきた。
血球になる造血幹細胞が突然変異を起こす病気
骨髄異形成症候群という病気は、一般にはあまり知られていない。調べようとしても一般向けの解説は少ないし、専門的な解説を読んでみると、染色体の話などが出てきて、理解するのはなかなか難しい。そこで、自治医科大学医学部内科学講座血液学部門講師の鈴木隆浩さんに、この難しい病気について、わかりやすく解説してもらった。
「血液のなかには、赤血球、白血球、血小板などの血球があります。これらの血液細胞は、骨髄のなかで造血幹細胞という同じ細胞からつくられます。造血幹細胞がいろいろな血球になっていくのですが、骨髄異形成症候群は、造血幹細胞に突然変異が発生し、できてくる血球に異常が現れてくる病気です」
すべての血球の元になる造血幹細胞が突然変異を起こすと、正常ではない細胞がどんどん増えてしまう。また、突然変異を起こした細胞は、正常な血球になっていかない。
「異常な造血幹細胞からは、異常な赤血球や白血球や血小板がつくられます。形が異常だったり、機能が不完全だったりするのです。こうして、正常な赤血球、白血球、血小板が不足します」
自分では気づきにくいさまざまな症状
骨髄異形成症候群とは、このような病気だ。最終的には異常な細胞が増えるが、その前に正常な血液細胞をつくれない状態になる。それによって次のような症状が現れるそうだ。
●赤血球の異常┅┅赤血球の数が減り、貧血になることが多い。めまい、だるさ、息切れ、疲れやすさを感じる。
●白血球の異常┅┅感染症に対する免疫力が低下するため、発熱や肺炎を起こしやすくなる。口内炎も起こしやすい。
●血小板の異常┅┅血が止まりにくく、出血しやすくなる。そのため、皮膚の内出血、青あざ、鼻血、歯茎からの出血などが見られる。
「ただ、赤血球、白血球、血小板が異常でも、程度が強くない限り、患者さん自身がそれに気づくことはあまりありません。多いのは、医療機関で血液検査を受けたときに異常を指摘され、血液科を受診するようにと言われるケース。診断がついてから、そういえば最近息切れするようになっていた、などと気づくことはよくあります。そういった症状があっても、年のせいなどと見逃されることが多いようです」
骨髄異形成症候群の患者数は近年増加傾向にある。その原因は、高齢者に多い病気なので、まず社会の高齢化がある。さらに、いろいろな検査を受ける人が増え、かつては埋もれていた患者さんが発掘されるようになったからではないか、ともいわれている。また、過去に受けた放射線や抗がん剤による治療が骨髄異形成症候群になる原因と考えられており、2人に1人ががんにかかっている今、患者数はさらに増えるとみられる。
7 つのタイプに分類されている
骨髄異形成症候群と診断するためには、問診と診察に続き、血液検査と骨髄検査が行われる(表1)。
血液検査では、赤血球、白血球、血小板など、血液細胞の数を調べ、さらに血液細胞の形や種類の異常の有無を調べる。
骨髄検査は、骨の中にある骨髄に針を刺し、骨髄液を採取して調べる検査だ。造血細胞の数や形、それから芽球という異常な細胞の数を調べる。また、遺伝子検査も行い、染色体の異常があるかどうかも調べられる。
こうした診察や検査の結果から、骨髄異形成症候群は7つのタイプに分類される(表2)。
「まず病気の性質によって分類されています。それから、予後がいいか悪いか、つまり今後の経過の見通しがどうかということも、タイプ分けの重要な要因になっています」
各タイプの予後については、表の上から5番目までは、下に行くほど悪いそうだ。鈴木さんの印象による予後の5段階評価では、〈1系統の血球異形成を伴う不応性血球減少症〉と〈環状鉄芽球を伴う不応性貧血〉は、おとなしいタイプで評価は1~2。〈多系統血球異形成を伴う不応性血球減少症〉は、やや予後が悪くなり、評価は2~3。〈芽球増加を伴う不応性貧血-1〉は評価4、〈芽球増加を伴う不応性貧血-2〉は評価5となる。また、特徴的な染色体異常を持つ〈5q-症候群〉は、比較的予後が良く、評価1~2だという。
検査法 | 確認する内容 |
---|---|
問診・診察 | ●現れている症状、全身状態 ●これまでにかかった病気と受けた治療、これまでの検査結果 |
血液検査 | ●血液細胞の数、血液細胞の形や種類の異常の有無 |
骨髄検査 | ●骨髄中の造血細胞の数、形、芽球の数 ●骨髄細胞の遺伝子異常(染色体異常)の有無 〈骨髄液の採取方法〉 骨髄液は、腸骨(骨盤の骨)や胸骨(胸の中央にある骨)から骨髄穿刺によって採取されます。最初に消毒と局所麻酔を行った後、骨髄穿刺針を刺し、骨の中にある骨髄液を吸引します。麻酔は骨の中まで効かないため、吸引時に痛みを伴います |
[表2 骨髄異形成症候群のWHO分類]
*MDS=骨髄異形成症候群
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