大型新薬の登場で、薬物療法の選択肢が広がっている 完治も期待できるレブラミド。高リスクに有効な新薬も承認間近
埼玉医科大学総合医療センター
血液内科教授の
木崎昌弘さん
血液がんの1つである骨髄異形成症候群(MDS)は、有効な薬がほとんどなく、完治を期待するには造血幹細胞移植しか手立てがなかった。しかし最近、効果の優れた新薬が次々に開発され、薬物療法の治療成績アップに期待が集まっている。
標準治療が確立されていない
- 造血幹細胞移植
- ●完治が期待できる
- ●適応は高リスク群、頻回の輸血を必要とする症例
- 抗がん剤治療
- (1)急性骨髄性白血病に準じた化学療法
- (2)病勢コントロールを目的にした少量化学療法
(CAG療法、少量キロサイド療法など) - 抗がん剤を使用しない薬物療法
- (1)経口鉄キレート剤
- (2)免疫抑制剤
- (3)たんぱく同化ステロイド剤
- (4)ビタミンK、ビタミンD
- (5)サイトカイン(G-CSF、エリスロポエチン)
- (6)新規薬剤
- 支持療法(輸血など)
- ●高齢者(65歳以上)
骨髄異形成症候群(MDS)は、骨髄にあって赤血球や白血球のもととなる造血幹細胞ががん化する血液のがんの一種だ。独立した疾患として定義されてから30年弱しかたっていない、いわば「新しいがん」である。そのうえ、患者数が少なく、病態も多岐にわたることから、骨髄異形成症候群の研究は、ほかのがんの領域に比べ、著しく遅れてきた。このことは実際の治療にも影を落としている。
「骨髄異形成症候群は残念ながら、いまだに標準治療が確立されていません。たとえば、主ながんの領域には、一般的な治療手順を示したアルゴリズムがありますが、骨髄異形成症候群には、国際標準となるアルゴリズムがありません。骨髄異形成症候群は、研究が進んでいないためにエビデンス(科学的根拠)が不十分で、アルゴリズムをまとめることができないのです。したがって、手探りをしながら骨髄異形成症候群と日々格闘しているというのが、われわれ臨床の実情と言えるでしょう」
こう説明するのは、骨髄異形成症候群の治療に長年携わってきた埼玉医科大学総合医療センター血液内科教授の木崎昌弘さんだ。
年齢が治療方針を決めるポイント
骨髄異形成症候群は、血球減少の程度、血液中の芽球(異常な血液細胞で、これが増えると白血病に移行する)の割合などによって現在、7つの病型に分類されている。これが骨髄異形成症候群の診断基準となるWHO(世界保健機関)分類(*)と呼ばれるものだ。
診断結果を踏まえ、治療方針を決める際によく使われるのがIPSS(*国際予後スコアリングシステム)。IPSSは、骨髄中の芽球の割合、染色体の異常の有無などによってリスク分類し、低リスク、中間リスク1、中間リスク2、高リスクの4段階に振り分ける。低リスクの人の生存期間中央値は5.7年、高リスクの人は0.4年という研究報告がある。
「実際には、IPSSの低リスクと中間リスク1を低リスク群、中間リスク2と高リスクを高リスク群に分けて治療法を考えます。また、年齢も治療方針を決める大きなポイントです。とはいえ、骨髄異形成症候群は、病態の個人差がとても大きいので、患者さん1人ひとりに合わせた治療が求められます」
*WHO分類については「あなたの骨髄、血液細胞は大丈夫ですか?」参照
*IPSSについては「早期に見つけるには年1回以上の血液検査を」参照
生存期間中央値(年) | ||||
---|---|---|---|---|
低リスク | 中間リスク1 | 中間リスク2 | 高リスク | |
全症例(816名) | 5.7 | 3.5 | 1.2 | 0.4 |
60歳未満(205名) | 11.8 | 5.2 | 1.8 | 0.3 |
60歳以上(611名) | 4.8 | 2.7 | 1.1 | 0.5 |
Reproduced with permission from Greenberg P, et al. Blood. 1997; 89: 2079
移植を受けられる人は1割程度に過ぎない
骨髄異形成症候群の治療法は、造血幹細胞移植、薬物療法、支持療法の3つに大別される。
この中で、根治が期待できるのは造血幹細胞移植しかない。造血幹細胞移植は、がん化している造血幹細胞を抗がん剤などで死滅させたあと、正常な造血幹細胞を移植する治療法。高リスク群の人や、低リスク群でも頻繁な輸血が必要な人などが適応となる。ただし、ドナー(提供者)を確保できなければ、移植はできない。移植できたとしても、体への負担が大きく、合併症などで死亡する確率も高い。
「移植を受けるには、さまざまな条件をクリアする必要があります。移植法が工夫されてはいますが、危険が大きいので、基本的に65歳以上の人には行えません。骨髄異形成症候群は高齢者に多いので、年齢の壁で移植できない人も多いのです。骨髄異形成症候群の患者さんのうち、移植を受けられるのは1割程度ではないでしょうか」
白血球が減ったら感染症予防が肝心
一方、65歳以上の患者さんでは、体への負担が大きい積極治療をさけ、支持療法、つまり、対症療法を選択するケースが多い。若い患者さんでもリスクが極めて低い場合、支持療法で様子を見ることがある。主な支持療法としては、赤血球や血小板が減少したときの輸血、白血球が減少したときの抗生物質の投与などが挙げられる。
「骨髄異形成症候群では、予後(*)を考える上で白血病への移行のしやすさが注目されますが、血球減少や血液機能の低下も軽視できません。というのも、実際には、白血球減少による感染症、血小板減少による脳内出血などで亡くなる患者さんが多いからです。その意味では支持療法も重要です。以前は、輸血を続けていると余分な鉄分が体内にたまり、腎臓や肝臓、骨髄などを傷害する鉄過剰症が問題でしたが、現在は、鉄分を排泄する鉄キレート剤が開発され、予後延長に役立っています」
支持療法では、患者さん自身も、日常の過ごし方に注意しなければならない。
「白血球が少ないと言われたら、うがい・手洗いをまめにするなど感染症の予防を心がけてください。血小板が少ない場合は、出血を招かないよう転倒に気をつけたり、激しい運動を控えたりするようにしましょう」
造血幹細胞移植も支持療法も適応でない場合、骨髄異形成症候群の進行を抑える薬物療法が選択される。実際に、薬物療法を受ける患者さんは多い。ところが、薬物療法には大きなネックがあったと木崎さんは言う。
*予後=今後の病状の医学的な見通し、または余命
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