早期に見つけるには年1回以上の血液検査を
「貧血」「出血傾向」「抗がん剤経験者」に要注意!
川崎医科大学
検査診断学教授の
通山薫さん
血液がんの1つである骨髄異形成症候群(MDS)は、これまで謎が多く、治療薬もなかったが、近年は新薬が登場し、治療の選択肢が増えつつある。ただし、適切な治療を受けるには、骨髄異形成症候群を早期に、かつ確実に診断することが肝腎だ。
未解明の部分が多いがん
血液のがんの一種である骨髄異形成症候群(MDS)は、まだ未解明の部分が多い。そもそも、独立した疾患概念が位置づけられたのは1982年。近年になってからのことだ。それまではいわば、白血病の「前がん状態」のような扱いだった。骨髄異形成症候群ははじめ、通常の治療が奏効しない貧血、不応性貧血ととらえられていた。そして、不応性貧血が骨髄の異常、血液細胞のがん化によって起こることがわかったのである。
「私が骨髄異形成症候群の研究を始めた20数年前は、原因のわからない貧血や何の病気かわからない骨髄の異常を、とりあえず骨髄異形成症候群と総称していたのが、臨床の実情でした」
骨髄異形成症候群の診断法にくわしい川崎医科大学検査診断学教授の通山薫さんは、こう語る。そうした状況が、骨髄異形成症候群の研究の立ち遅れにつながったことは否めないだろう。
骨髄異形成症候群はその名のとおり、いくつかの病型に分けられている。しかも、その分類も目まぐるしい変遷をたどってきた。1980年代にまず、FAB分類によって5つの病型が打ち出された。その後、2001年にはWHO(世界保健機関)による分類で8つの病型にまとめられ、08年には、さらに7つの病型に再編された(*)。現在、このWHO分類が、骨髄異形成症候群の診断における国際標準となっている。
8割以上が貧血を訴える
骨髄異形成症候群は、骨髄にある造血幹細胞のがんだ。造血幹細胞は、赤血球や白血球、血小板といった血液細胞のもととなる細胞。造血幹細胞が異形成(異常な細胞ができること)を起こすと、正常な血液細胞が作られずに減っていき、さまざまな症状が出てくる。たとえば、免疫を担う白血球が減れば、感染症にかかりやすくなり、血液凝固を担う血小板が減れば、出血が止まりにくくなったり、内出血しやすかったりする。実際には、これらの症状が複合して起こることが多い。
骨髄異形成症候群が昔、不応性貧血と呼ばれていたことからもわかるように、骨髄異形成症候群の典型的な症状は貧血。これは赤血球が減って、体内への酸素の供給が滞るために起こる。骨髄異形成症候群の患者さんの8割以上が貧血を訴えるという。
「骨髄異形成症候群による貧血は慢性に進行しますが、特有の症状はありません。したがって、症状や視診などから骨髄異形成症候群を見分けることは不可能でしょう。貧血はポピュラーな症状です。そのため、骨髄異形成症候群なのに診断されず、治療を受けていない潜在的な患者さんが多いと考えられます。骨髄異形成症候群が手遅れになりやすく、治療成績が向上しないのは、その辺りの問題も大きいでしょう。ただし、正しい手順で診断を行えば、骨髄異形成症候群の確定診断にたどり着くのは難しくありません」
まず鉄欠乏かどうかを調べる
では、どうすれば、骨髄異形成症候群を早期に見つけられるのだろうか。
「貧血の半数以上は鉄分不足によるもの(鉄欠乏性貧血という)。そこで、まず鉄欠乏があるかどうかを検査で調べ、それが確認できた場合は鉄剤を投与して効果を確かめるのが、一般的な治療の流れです。同時に鉄欠乏の原因、とくに出血の有無や部位を探ることが重要です」
鉄欠乏性貧血の場合、通常は鉄剤を投与して1カ月ほどで効果が現れるはずである。
「逆に言えば、1カ月以上たっても効果が現れなかったら、鉄欠乏性貧血とは考えにくいので、専門医による血液検査を受けたほうがいいでしょう。鉄欠乏がないのに漫然と鉄剤の服用を続けると、かえって鉄過剰症を招きかねません」
貧血以外にも血球減少の症状を伴えば、骨髄異形成症候群の可能性が高まる。とくに、日本人の骨髄異形成症候群の場合、血小板減少による出血傾向が現れやすいと通山さんは言う。
さらに、過去にがんで化学療法を受けた人は要注意だ。抗がん剤投与後約2~10年の間に、2割弱の人が骨髄異形成症候群を発症することが疫学調査によってわかっている。遺伝的背景やウイルス感染、喫煙、飲酒、染毛剤の使用などもリスク要因ではないかと考えられているが、因果関係が特定されているのは今のところ、抗がん剤だけだ。
「抗がん剤を使った経験がある人は、貧血がなかなか軽快しない場合、骨髄異形成症候群も疑ったほうがいいでしょう」
検査法 | 確認する内容 |
---|---|
問診・触診 | ●現れている症状、全身の状態 ●これまでにかかった病気と受けた治療(とくにがんの治療) |
血液検査 | ●血液細胞(赤血球、白血球、血小板)の数 ●血液細胞の形態の異常、芽球の有無 ●肝臓や腎臓などの機能 |
骨髄検査 | ●骨髄中の造血の状態、芽球の有無 ●染色体異常の有無 〈骨髄液の採取方法〉 骨髄液は、胸骨(胸の中央にある骨)や腸骨(腰の骨)から骨髄穿刺によって採取されます。最初に局所麻酔を行った後、骨髄穿刺針を刺し、骨の中にある骨髄液を吸引します。麻酔は骨の中まで効かないため、吸引時に痛みを伴います |
赤血球が大きくなっている
血液検査の段階で骨髄異形成症候群かどうかはほぼわかる。定期検診で少なくとも年1回以上、血液検査を受けていれば、骨髄異形成症候群を見逃す心配はまずないと通山さんは言う。
「骨髄異形成症候群では、一般にさまざまな血球減少が見られます。芽球といった異常な細胞が末梢血に混じることも少なくありません。貧血の場合、赤血球の大きさにも注目します。鉄欠乏性貧血なら赤血球が小さくなっていますが、骨髄異形成症候群の場合は大型の赤血球のことがしばしばあります。一方、網状赤血球という若い赤血球が多ければ、骨髄で赤血球が正常に作られている証拠となるので、骨髄異形成症候群の可能性は低くなります」
ビタミンB12や葉酸といったビタミンB群の血中濃度も重要な手がかりになるそうだ。
「これらが不足すると、骨髄異形成症候群に似た症状が現れるのですが、もし不足していなければ、骨髄異形成症候群の疑いが大きくなるわけです」
ただし、骨髄異形成症候群の確定診断には骨髄検査が必要だ。骨髄検査では、特殊な針を皮膚から骨髄に刺し込む骨髄穿刺という方法で骨髄の組織を取り出し、くわしく調べる。
骨髄検査を行えば、骨髄の状況がくわしくわかるため、骨髄異形成症候群かどうか確定でき、その病型まで分類できる。
骨髄中には、造血幹細胞から血球に分化する途中のさまざまな細胞が含まれている。そうした細胞に異常があるかどうかを調べるのだ。骨髄異形成症候群では、たとえば、赤血球になる途中の赤芽球が異形成を起こした巨赤芽球や環状鉄芽球、血小板になる途中の巨核球が異形成を起こした微小巨核球などが見られる。中でも重視されるのが、芽球という異常な幼若細胞の割合。これが多いほど急性白血病に移行しやすく、予後が悪くなる。ちなみに、WHO分類では、骨髄中の芽球が20パーセント以上になると急性骨髄性白血病と診断される。
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