経過観察から移植まで幅広い治療の選択肢がある 高齢者に多い急性骨髄性白血病 生活の質を重視した治療が大切!
60歳以上の高齢者に多い急性骨髄性白血病。最近はさい帯血移植やミニ移植などが普及し、高齢者でも強力な治療ができるようになりましたが、化学療法も含めて、副作用や治療死などのリスクがあり、適切に治療法を選択することが重要です。
高齢者になれば増える急性骨髄性白血病
骨髄の中で造られる造血幹細胞から白血球に分化する途中の細胞ががん化し、正常な白血球ができなくなるのが急性骨髄性白血病です。
「比較的急速に症状が現れるため、検診などで見つかる前に、自分で病気を自覚することが多い」と虎の門病院血液内科部長の谷口修一さんは話します。
「症状としては、まず、免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。また、がん化した未熟な細胞が増えると、赤血球や血小板を作る機能も保たれなくなり、赤血球減少に伴い、貧血や動悸、息切れ、血小板減少により皮下出血や鼻血、歯茎からの出血などを起こしやすくなります」(図1)
小児白血病も少なくなく、若い方でも発症しますが、他のがんと同じく罹患者数は高齢者になるほど増加する傾向があり、60歳代を超えると急激に増えます(図2)。
治療の基本は化学療法
急性骨髄性白血病は、抗がん薬や放射線が効きやすいがんです。このため治療の主体は抗がん薬を使った化学療法が中心になります。
具体的に、治療は2段構えで勧められます。その手順を谷口さんはこう説明します。
「まず行うのは、抗がん薬によって白血病細胞をできるだけ減らす『寛解導入療法』です。ここで目指すのは、骨髄中の白血病細胞が5%未満になり、骨髄の機能が正常化してきた状態、つまり『完全寛解』です。キロサイド*とダウノマイシン*、あるいはキロサイドとイダマイシン*の2剤併用療法が標準的な治療となっています。この治療の結果、8割ほどの患者さんは完全寛解となり、顕微鏡で調べても正常の骨髄と区別がつかないぐらいまでに回復した状態になります」
しかし、この状態は白血病細胞が完全にゼロになったわけではなく、ここで治療をやめてしまうと隠れていた白血病細胞がまた盛り返してきて、再発してしまいます。
「寛解状態を安定させ、治癒を目指して、さらに数カ月かけて行われる寛解後療法(地固め療法)が行われます。この治療法には、キロサイドを大量に使う方法と、寛解導入療法と同じようにキロサイドにダウノマイシンまたはイダマイシンを併用する方法が一般的です」(図3)
*キロサイド=一般名シタラビン *ダウノマイシン=一般名ダウノルビシン *イダマイシン=一般名イダルビシン
より強力な治療を行うための移植治療
化学療法だけでは根治が難しい場合に行われるのが、造血幹細胞移植。移植について谷口さんはこう説明します。
「血液がんの場合、抗がん薬がよく効きます。だから抗がん薬をもっと増やしたい。そうすると、正常な血液細胞もダメージを受けてしまうので限界があります。そこで、正常な細胞を補うために造血幹細胞移植が行われます」
体内に残る正常な細胞と一緒にがん細胞もやっつけ、後から正常な造血幹細胞を移植することで、より強力にがん細胞を死滅させることができるのです。具体的には大量の抗がん薬及び全身への強力な放射線による治療が行われ、がん細胞を死滅させた後に、正常な造血幹細胞が移植されます。
造血幹細胞移植には大きく、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、さい帯血移植の3種類の方法があります。また、自分以外の提供者(ドナー)から造血幹細胞の提供を受ける同種(同じ人類という意味)移植と、治療前に自分の造血幹細胞を採取しておいて体に戻す自家移植の2つの方法があります
骨髄移植は、全身麻酔下に骨盤の後ろ側の骨(後腸骨)から骨髄を採取します。造血幹細胞移植は、この方法から始まりました。
末梢血幹細胞移植とは、G-CSFという白血球を増やす薬(本来体の中に存在している成分)を注射して造血幹細胞を骨髄から血液中に動員し、腕の静脈から末梢血中(体の中を流れている血液)にある造血幹細胞を採取して移植する方法です。
さらに、短時間に造血幹細胞が入手でき、緊急な移植に対応できるという点で、赤ちゃんのへその緒の血液に含まれる造血幹細胞を移植する、さい帯血移植にも注目が集まっています。
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